『ケーキの切れない非行少年たち』のアンサーブックをつくろう!と思った理由
こんにちは、編集部Fです。
かんき出版では、おもに「ゆる本」を担当しています。
本のツラ構え(表紙)がゆる~っとしていたら「あ、これ、編集Fが担当しているな…」と思っていただいて99.99%間違いありません。
そんな「ゆる本」担当の私がオススメするのは『ケーキの切れない非行少年たち』で話題を呼んだ宮口幸治先生の最新刊です。
見た目「ゆる本」、だけど中身は超骨太なコチラ!!!
ドーーーーーンッッッ!!!
「日本人の7人に1人は、〇〇〇〇〇〇」という、衝撃の事実
突然ですが、質問です。
みなさんは、「日本人の7人に1人は、〇〇〇〇〇〇」と言われたら、○○に何を埋めますか?
日本人の7人に1人は、「貯金10万以下」。
日本人の7人に1人は、「離婚経験あり」。
日本人の7人に1人は、「70歳超の高齢」……?
文字数制限があるものの、いろいろと思いつきますよね。
じつは、私が今回手がけたこの本で衝撃を受けたのが、この数字なんです。
正解はコレ。
「日本人の7人に1人は、境界知能の人(※)」
「境界知能の人」とは、かつて知的障害とされていた人たちのことです。
えっ……そんなにいるの!?
と思いませんか? 私は思いました。だって、「30人のうち、4~5人」は該当する計算ですよ。同じ会社の同僚や、隣の席だった同級生が当てはまったとしても、ちっとも不思議ではありません。
(※IQ70~84の人がこれに当たりますが、かつての基準では「境界性精神遅滞(知的障害)」と呼ばれていました。知的障害の診断はつかず、まさに知的障害のグレーゾーンであり、福祉的な支援が受けづらい状況です)
知的にグレーゾーンの場合、特別な支援が必要には見えないものの、こんな感じの特徴が出てしまう人も多いとか。
・見たり、聞いたり、想像したりする力が弱い
・感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる
・人の気持ちがわからず、トラブルになりやすい
・なんでも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い
・人とのコミュニケーションが苦手
・身体の使い方が不器用。力の加減ができなくて物を壊しがち
境界知能…と言われると、ちょっと(だいぶ)重たい気持ちになりますが、
この特徴を見てみると、
「これ、私のことじゃない?」
「うちの会社にもいる!」
なんて意外に身近な感覚があり、思い当たるふしがある方もいるかもしれません。
私自身も思いました。
いや待って待って、私もけっこう当てはまるやん…と。
世界が「ゆがんで見える」子どもが抱える生きづらさの正体
このあたりの話は50万部のベストセラーになった『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮社)に詳しく書かれているので、ひょっとするとご存じの方もいるかもしれません。
知的な問題が疑われる非行少年たちは、「ケーキを3等分に切れない」なんて衝撃の事実が書かれていました。
著者の宮口先生によると、
「「3等分して」と言うと、まず「半分」に切ってしまう子が多いんですよ」
とのこと。いやいや、最初「半分」に切っちゃったら、よっぽど工夫しないと「3等分」しづらいですよね……。
これはだいたい9歳くらいまでにはできるようになるそうなので、小学校でも高学年くらいで「3等分」できない場合は、知的な問題を疑ったほうがよいのかもしれません。
さらに、知的な問題を抱えていると、「世界がゆがんで見えている」可能性も増えるそう。
たとえば、立体図を模写させると、彼ら彼女らには、立体がこんなふうに見えていることがわかります。
模写だけ見ると、最初の形が想像できないものもあります。
「衝撃ではあるけど、何か問題でもあるの?」と思うかもしれません。
宮口先生いわく、「見たものを見たまま」受け取ることができないというのは、生活上において、かなり大きなハンディキャップになるそうなんです。
なぜかというと、
「認知力が弱いと、見間違えたり、聞き違えたり、思い違いをする。そこから、他人とのトラブルが生まれてしまう」
から。
たとえば、
・見る力が弱いせいで、チラッと見られただけなのに「にらまれた」と思ってしまう
・聞く力が弱いせいで、人が話していたら「自分の悪口を言っている」と感じる
・想像する力が弱いせいで、他人の感情にうとく、他人が傷ついていてもよくわからない
といったように、彼らは「ふつうに過ごしいる」つもりでも人とのトラブルが絶えなかったり、「被害者意識」がどんどん高まってきてしまう。
こういった人たちが「生きづらい」というのは想像に難くありません。「認知の弱さ」で、他人との距離がどんどんできてしまうんですから。
『ケーキの切れない非行少年たち』のアンサーブックをつくろう!
『ケーキの切れない~』では、主に「福祉の手からこぼれ落ちる非行少年たちがいる」という現状の問題点が指摘されていました。
新書は「問題提起」をする役割が大きいと思っているので、50万部読まれた大きなインパクトを与えたことで十分と思いましたが、「特徴に当てはまってしまったら、どうしたらいいの???」といった疑問や不安に応える本、
つまり「アンサー」があるといいな…と強く感じたわけです。
それは、『ケーキの切れない~』のなかで、こんな一節を読んだから。
少年院の少年たちは、想像していた凶悪で粗暴な子どもではなく、
ほとんどが素直で人なつっこい子どもたちばかりだったのです。
これを読んで、私は1人の少年を思い出しました。
中学生になる自分の息子です。
彼は、人が好きで驚くほど素直なのですが、昔から感情を伝えるのがヘタクソで人間関係が上手ではなく、まるで「ハリネズミ」のように近づくほど人を傷つけてしまい、学校でも疎外感を感じているようでした。
まわりの人たちに気持ちをわかってもらえずさびしそうにする息子と、人とうまくやれずに少年院に行きついた少年たち。ふたつの情景が重なってしまい、矢も楯もたまらず著者の宮口先生に連絡をしました。
読み終わってもう本当にすぐ、です。
私「先生!知的な問題を持つ子どもは、ケーキが切れるようにならないんですか?」
先生「改善する可能性は十分にあります。いま、そのためのトレーニング法を普及しているんです」
私「!!! お願いです。本にさせてください!!」
宮口先生が普及に努めていらっしゃるのが、
「コグトレ(認知機能を強化するトレーニング:Cognitive Enhance training)」。
知的な問題の改善をうながすため、IQに類する検査で数値が上がった子どももおり、いまは導入している学校や教員も増えてきたというんです。とはいえ、まだまだ一般の保護者には知られていないのが現状。
「うちの子、学校でうまくやれない……」
「うちの子、何か問題があるんじゃ……?」
と心配する不器用な子どもの保護者の方々に、
1つでも不安を取り除く「方法」を示すことができたら……
そんな思いを込めてつくったのが本書です。
親として、願いを込めて……
ソデにこっそりと、自分の気持ちを書きました。
不器用でやさしい子どもたち。
彼ら彼女らが誤解を受けることなく、それぞれが持っている能力がきちんと生かされ、毎日笑顔ですごせる社会になるといいなぁ。
本書がその一助になりますように!と祈りつつ。