2023年 岐阜市議会 11月定例会(12月5日) 代表質問「岐阜市における食料安全保障について」

○可児隆 岐阜市議会議員
 最後に、岐阜市に於ける食料安全保障について、経済部長に4つ、ご質問します。
 農林水産省が公表しているデータによると、2021年の日本のカロリーベースの食料自給率は、38.01%、対して、岐阜県は25%、47都道府県中33位であります。
 ご存知の方も多いと思いますが、この、カロリーベースの食料自給率とは、国民1人あたりの1日の摂取カロリーの内、国産品が占める割合を数値化したものです。
 岐阜県民の摂取カロリーの実に4分の3が、国産品ではないというデータです。
 また、最新の2022年のデータでは、日本のカロリーベースの食料自給率は、さらに、0.37ポイント低下しております。
 鈴木宣弘 東京大学大学院 教授によると、日本で栽培されている野菜の種子の内、9割は海外圃場で採種されているため種子の自給率は10%、加えて、化学肥料の原料である、リン、カリウムの100%、尿素の96%を輸入に依存しているので、日本の実質のカロリーベースの食料自給率は9.2%になります。
 中国によるリンの輸出規制や食料の買い占め、ロシアとウクライナの戦争、原油価格の高騰等により、肥料価格や食料価格が高騰しており、インドのように米の輸出規制をする国も現れ、さらに、異常気象の影響により、お金を出せば食料や生産資材を買える時代は終わってしまいました。
 食料危機が目の前に迫っていることから、食料、肥料、エネルギーを自給できる体制構築を急がなければならない状況になっていると思います。
 そこで、1つ目の質問として、岐阜市の農業の現状について、経済部長にお尋ね致します。
 2022年の岐阜市内のカロリーベースの食料自給率、田畑の面積、遊休農地の面積、農業従事者数、農作物の生産量をそれぞれ教えて下さい。
 食料自給率を引き上げるための1つ目の方法として、農地の利用権設定にて耕作意欲のある農業従事者による遊休農地の活用や新規就農者の増加が挙げられます。
 しかし、それに反し、近年、農地が潰されて、住宅、建物、駐車場、商業施設等ができる、そんな光景が、岐阜市でも、しばしば見られます。
 これ以上、農地を減らさないようにするためには、農地の利用権設定が有効であり、そして、農地の貸借を促進するためには、三重県 名張市が行っているように、利用権設定した農地の固定資産税を減免することが必要であると考えます。
 2023年5月10日、岐阜県議会 農林委員会に於いて、酒向薫 岐阜県議会議員が、農地中間管理事業の進捗状況、集積が進まない理由について質問し、後藤 農業経営課担い手対策室長は、「農地中間管理事業は2014 年に始まり、当時約 30%だったものが直近の数字で約 40%まで上がっている。」、「農地を持っている方の心情的な部分もある。山間地域のほうが平たん地と比べて低い状況にある。」と答弁をしています。
 そこで、経済部長に2つ目の質問をさせて頂きます。
 岐阜県全体では、農地の集積が貸主の事情で、あまり進んでいない状況のようですが、岐阜市の状況はどうなのか、お尋ねします。
 まず、利用権を設定した農地の固定資産税の減免を行うお考えについて、2つ目に、一般社団法人 岐阜県農畜産公社(農地バンク)が農地中間管理事業を開始した 2014 年と現在を比較して、岐阜市内における農地の集積、集約はどの程度進み、遊休農地の再活用や新規就農者の増減の実績はどうだったのか、教えて下さい。
 食料自給率を引き上げるための2つ目の方法として、化学肥料や化学農薬を使わない有機農 業の技術を高め、ノウハウを蓄積し、普及することや、スマート農業機械を導入することが挙げられ ます。
 農林水産省は、「みどりの食料システム戦略」の中で、2050 年までに有機農業の耕地面積を25 %拡大、化学農薬5割減、化学肥料3割減等の目標を掲げ、併せて、スマート農業も推進しており、有機農業指導員等の育成・確保やスマート農業機械の購入等に対して「みどりの食料システム戦略推進交付金」を用意しております。
 農研機構のスマート農業実証プロジェクトによると、スマート農業機械による作業時間の削減割合の平均は、ロボットトラクタと有人トラクタの 2 台協調作業による耕起・代かきが 32%、遠隔操作草刈機が 71~74%、ドローンによる農薬散布が 61%等、効果的な数字を表しています。
 また、農作物ごとの導入効果は、水田作では、平均で総労働時間 9%削減、一定面積の収量を表す単収 では9%増加。大豆の大規模畑作では、作業効率が約 2 倍に向上し、単収 42%増加になっているそうです。
 この結果から、スマート農業は、業務効率化、食料自給率向上に寄与すると考えられます。
 有機農業者ゼロの状態から、市職員が実証実験を始め、県の普及員、民間の研究所、農協とも協力しながら約 4 年間で産地を形成し、学校給食に有機米を供給できるようになった千葉県 いすみ市の事例から、有機農業やスマート農業を普及させ、産地を形成するには、まず、市職員が実証実験を行い、技術を高め、ノウハウを蓄積することが必要であり、市が遊休農地を借りて、市職員が実証実験を行うのが有効であると考えます。
 また、既に岐阜県庁がやっていますが、市内の農業従事者に対し、スマート農業機械を貸し出しするのも、有効な手段だと思います。
 そこで、経済部長にお尋ねします。
 「みどりの食料システム戦略推進交付金」を活用した有機農業指導員等の育成・確保やスマート農業機械の購入、市職員が有機農業やスマート農業の実証実験を行うこと、そして、市内の農業従事者に対し、スマート農業機械を貸し出しをするお考えがあるかどうか、お答え下さい。
 食料自給率を引き上げるための 3 つ目の方法として、農業部門に於いて「ケインズ政策」を行うことが挙げられます。
 今後、行政、民間を問わず、人工知能やロボットの台頭による技術失業の増加が予測され、また、大規模な経済ショックが起こる可能性も充分に考えられます。
 その、危機対策として、行政が「農業部隊」を編成し、民間の失業者を「農業部隊」の公務員として雇用する、あるいは、行政の各部門から希望者を募り、「農業部隊」として、遊休農地を活用して農業を行えば、失業率を下げながら、遊休農地を解消し、食料自給率を上げることができます。
 類似の政策は、フランス政府が 2020 年に行っており、新型コロナウイルス流行により失業した労働者をフランス政府が雇い、「農業部隊」を編成しました。
 日本でも、古くは、明治時代に「屯田兵」という制度があり、軍人、つまり、公務員が業務として田畑を耕していたそうです。
 つまり、公共事業による、有効需要の創出です。
 そこで、経済部長に4つ目の質問を致します。
 技術失業、経済ショックによる失業、遊休農地の解消、食料自給率向上の問題を同時に解決することが期待できる、農業部門に於ける「ケインズ政策」を行うお考えがあるかどうか、お答え下さい。
 これまで日本は、「日本の農家は過度に保護されている」という誤った印象操作により農林水産予算を抑制し、貿易交渉に於いては自動車をはじめとする工業製品の輸出を優先するために農作物の輸入関税を撤廃する等、緊縮財政、グローバリズム、新自由主義によって、国内の農業を切り捨てる政策を採ってきましたが、惨憺たる結果に終わりました。
 アメリカですら、生産者への所得保障、そして、消費者支援に予算を割いています。
 岐阜市に於いても、今後は、食料自給率を引き上げ、食料安全保障を確保するために、平成時代とは真逆の、積極財政、地産地消、保護主義、社会的共通資本を重視した政策を行い、各自治体のモデルとなるべき農業政策を実施すべきと申し上げ、質問を終わります。

○議長
経済部長、大久保義彦君。

○大久保義彦 経済部長
 岐阜市に於ける食料安全保障に関して、本市の農業の現状と食料自給率引き上げのための施策について、大きく2点のご質問にお答えします。
 食料は、人間の生命の源であり、健康で充実した生活の基礎として、大変、重要なものでございます。
 我が国の農政の憲法と言われます、食料・農業・農村基本法に於いては、国民に対する食料の安定的な供給は国の基本的な責務であり、国内の農業生産の増大を図るのみならず、凶作や輸入途絶等の不測の事態が生じた場合にも、国が必要な施策を講じて、食料の供給を確保することと定められております。
 このため、本市と致しましては、農業生産の増大に大きく関わる国等の施策と連携しながら、市内農業者への支援を行うことが肝要であるものと考えております。
 そこで、1点目の、岐阜市の農業の現状についてでございますが、本市の食料自給率につきましては、主食である米に絞り、市内生産量と国民1人あたりの消費量を基に、重量ベースで、参考までに計算致しますと、約35%といった数字となります。
 また、現在、耕作されている田畑の面積でございますが、最近データで、令和3年度は3310ヘクタール、現在、耕作されていない、いわゆる、遊休農地は、令和4年度で18ヘクタール、普段、仕事として農業を営んでおられる、いわゆる、基幹的農業従事者は、令和2年度で2174人。
市内の米麦等の穀物類の生産量は、令和2年度の実績で7828トンでございます。
 次の2点目の、食料自給率引き上げのための施策について、利用権設定による農地の集積・集約化、有機農業やスマート農業の推進、ケインズ政策、いわゆる、農業の公共事業化に関するご質問について、お答え致します。
 まず、農地の集積・集約化の現状ですが、本市の農地集積率は、平成28年度の17.3%から令和4年度には、23.2%へと増加をしております。
 また、遊休農地の解消面積は、令和4年度に約7ヘクタールの実績があり、新規就農者は、年平均2人程度で推移しております。
 議員ご案内の通り、利用権設定を活用した耕作意欲のある農業者への農地の集積・集約化は遊休農地の解消や地域の新たな担い手確保に有効な手段でありますことから、本市と致しましても、利用権を設定する上で、必要な農地所有者及び農地面積等の把握、取り纏めや本市農業委員会からの意見聴取など、各関係機関等と連携し、必要な協力、支援を行っております。
 なお、令和4年度の1年間で、利用権設定された農地は1906件、191ヘクタールと、本市の農地面積の約6%と比較的大きく、また、直近5年内を見ても、同程度で推移をしており、本市での本制度への理解は充分、浸透していると思われますことから、固定資産税減免の必要性につきましては、現段階では、考えておりません。
 続いて、 有機農業やスマート農業の推進につきましては、令和5年3月に県と市町村が共同で策定した岐阜県みどりの食料システム推進計画に於いて、有機農業に関する知識や技術を有する人材の育成をはじめ、有機農業参入、転換への支援体制の整備、スマート農業やデータ活用型農業の加速化、さらには、自動運転トラクター等、高額機器のシェアリングなどの施策を推進することとしております。
 今後、本市に於いても、県や関係団体と共に、同計画に基づく有機農業やスマート農業の推進に取り組んで参ります。
 最後に、農業の公共事業化につきましては、本市では、令和3年2月に、中長期的な農業振興の指針となる岐阜市農業振興ビジョンを策定致しました。
 同ビジョンは、多様性の有る農業の持続的発展を基本理念とし、中心経営体による効率的な農業経営や新たな担い手の確保、育成による、農業者への支援、農地の集積・集約化の推進や、生産基盤の整備による、農地の保全、活用、スマート農業等の推進による、農業生産力、収益力向上に取り組むとしており、農業の公共事業化ではなく、農家、農地、収益性の3つの側面での支援や環境整備などを通じて、本市農業の振興を図っていくこととしております。
 何れに致しましても、現在、国では、食料・農業・農村基本法について、食料安全保障の定義を不測時に限らず、充分な食料を将来にわたり、入手可能な状態へと、修正する案が示されるなど、法の見直しが、進められております。
 市内の農業生産力の増大には、こうした動向にも注視をしつつ、市内農業者への必要な支援を行うことが、必須となりますことから、国や県、関係団体等との連携の上、様々な取り組みを推進し、本市の多様な農業を次世代へと、繋いで参りたいと考えております。

○可児隆 岐阜市議会議員
 最後に、岐阜市に於ける食料安全保障についてですが、ご回答頂いた、農地の集約率については、平成28年から令和4年の6年間で約5%増加、新規就農者も増加傾向ということで、行政が実施してきた農業政策が効果を現していると確認させて頂いております。
 しかし、過去20年の範囲に注目すると、岐阜市の田畑の面積は、2003年の4703ヘクタールが、2022年には3294ヘクタールと、779ヘクタール減少となっており、約2割弱の田畑が無くなっています。
 また、岐阜市の農産物生産・販売状況に書かれた、農産物の生産量、販売量を基に、独自に算出した岐阜市のカロリーベース食料自給率は、8.8%となっており、鈴木宣弘 東京大学大学院 教授が唱える、日本の実質カロリーベース食料自給率9.2%よりも低くなっているのが現状です。
 是非、農業に対する支援や新規就農者の増加推進、岐阜市主導の農業部隊の新設など、国のモデルとなるべき農業政策の構築をお願い致します。

 以上、3点について、質問致しましたが、共通して言えることは、行政が何もしなければ変わらない、変えられないと思います。
 魅力あるまち岐阜を創るため、以上のことをお願いし、質問を終わります。
 ありがとうございました。


岐阜市 田畑面積 (2003~2022年度)



岐阜市 米, 麦, 大豆の生産量 (2002~2021年)



岐阜市 枝豆, 大根, 苺, ほうれん草, 柿の販売量 (2002~2021年)



岐阜市 年齢階層別農業従事者数 (2005年)



岐阜市 年齢階層別農業従事者数 (2020年)