エンジョイ音楽は鳴り続ける
その軽トラの運転席には誰も乗っていなく、無人状態での走行だった。
後ろの荷台には、わたしとたくさんの女性R&Bシンガーが乗せられていて、皆思い思いに森進一の「襟裳岬」をR&B風に歌っていてめちゃくちゃだった。
この世はパニックスマイル!
わたしは荷台で仰向けになって空の色を偏った気持ちで見てみることにした。
空を見上げるから気をつけて懐かしむ気持ち抑えてたのに、不思議なものでだんだん自分のことを思い出してくる。
わたし、小さなころ
オレンジ色が大嫌いだった
オレンジ色が大嫌い
オレンジ色は嫌い
あんなに綺麗な空の水色がどうしてスムーズに浄らかな紺色に移行できないのか。
それならいっそ全てを覆い隠す雲の灰色の方がよっぽと優しさと思いやりに満ちている。
空がオレンジ色はキモい。
小学生くらいのころはオレンジ色にやや強めの殺意さえ抱いていた。
ところで「死ね」とか「殺す」とかそんなことばっかり言っている中高生を集めて東京ディズニーランドに行ってみるとしよう。
きっと、奴らはミッキーマウス一匹でさえ殺すことができない。無邪気にスプラッシュマウンテンに乗るだけだ。Bluetoothイヤホンつけてゲーム配信見ながら「殺すよ(笑)」とか言ってる奴らはグーフィーに返り討ちにされる。だってそんな言葉ひとつに意味なんかひとつもないからだ。所詮そのくらいのもんなんだ。
でも普段は真面目に勉強している子を集めて東京ディズニーランドに連れて行き「自由に殺していいよ」と言うと きっと彼らは喜んでミッキーマウスやキャラクターを殺しまくるだろう。百点獲った時にだって見せたことのない笑顔で。
この世はパニックスマイル!
軽トラに荷台に放置されていた誰かのスマホに耳をすませば(シュピーーンッ!)とか(ソイヤッ!)とか(押忍!)みたいなフリー音楽の効果音がついたYouTubeの音が聞こえてくる。
その音にびっくりして目を開くと、わたしは朝焼けをモロに浴びて、たちまち怖くなってしまった。
いまや太陽は燦々と昇ろうとしている。
空が浄らかなネイビーが
浮ついたピンクに変わる。
朝焼けがはじまる。
まるで昨夜の不幸などなかったかのように。
大人になっても嫌いなものが、ブクブク増え続けているわたしは、もちろん空のピンク色も大嫌いだ。
この不幸は私だけに起こったのか?
太陽はあまねく世を照らす。
R&B風の襟裳岬が荷台に鳴り響く。
この世はパニックスマイル。
みんなの顔は朝焼けでピンクに染まる。
自分の中に闇を包み込んではならないのか?
それは永遠の光の中に沈められねばならないのか?