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イエローペガサス故郷へ帰る

道の向こうからPerfumeが歩いてくる。
アクターズスクール広島からやってきた3人の女達は、ハイヒールの踵で都会のコンクリートをパリパリ割りながら歩いてくる。

「かしゆかです」
「あ〜ちゃんです」
「のっちです」
「「「さんにんあわせてPerfumeです」」」

唐突に自己紹介をしてきたPerfumeの呼気からはハーゲンダッツのクッキー&クリーム味の匂いがする。Perfumeの名を冠するだけあるなというとても甘い香り。
その香りに惹きつけられた脳みそは幸せを検知して、セロトニンとオキシトシンとドーパミンをどばどば出し始めていく。私は脳が幸せを感じる仕組みを身をもってして理解した。

私は、耳からユニコーンカラーの液体がでてくるのを必死で手で抑え込みながら律儀に自己紹介をしようと試みる。


「ええと、」


ンガ、夢の中でうまく歩くことができないのと同じ要領で、わたしは自己紹介の作法が思い出せない。


「モー娘。ではだれがすき? 私がゴマキ」


とりあえず、後藤真希がオンラインゲームで好きになった一般男性に一歩踏み込んだときの自己紹介を真似てみた。

「かしゆかです」
「あ〜ちゃんです」
「のっちです」
「「「さんにんあわせてPerfumeです」」」

そんなわたしにもPerfumeの3人は優しく微笑みながら手を差し出してくれる。

次の行動はどうすればいいんだっけ?

握手をしようと試みる相手がいた場合、自分も手を差し出すというのが然るべき人間の礼節である。

だけども私は正しい行動を思いだせない。
気づいたら左ポケットから取り出した拳銃をPerfumeに突きつけてこう叫んでいた。

「プリーズ、その手を上げろ!今日からお前らがパワースポットだ、母なる大地を震わせろ」

Perfumeの3人は微笑みを崩さないまま、手をあげる。

すでに、それは、始まっている。


「かしゆかです」
「あ〜ちゃんです」
「のっちです」
「「「さんにんあわせてPerfumeです」」」


Perfumeはその清らかで気高い魂で持って、世界の日陰の部分を全部消してくれた。

The time has  c o m e !!!!!!!!!!

それは、突然の光の時代の到来だった。


時代がひとつの転換を迎えたことを光が視覚的に知らせていた。

その光はしばらく、わたしたちの間にあった。


「光あるうち光の中を歩みなさい」という神の御言葉はごもっともではあるが、私の間にある光はあまりにも眩しすぎて、どこへ向かえばよいのか、私たちにはさっぱりすっかりわからなかった。

うーん、こうなったら仕方がない。Perfumeの3人には忙しいとこ申し訳ないが、一緒に地獄に来てもらおう。


とは言っても。

地獄ってどうやったらいけるのかな。
やっぱ新幹線かなここは。


そうと決まればひかりに乗っていこう!
こだまは乗りかたがわからないないし、正直あの色がいけすかない。

新幹線の切符を買う時は、もちろん社会からの信用を得てることを自慢するために[クレジットカードで払うこと]を心情としていたわけだが…。

「108回払いで!!!!!」

ってみどりの窓口で叫んでいたら眉間に大きなほくろがある駅員のおじさんに「一括払いしか受け付けてませんよ?」って半笑いで言われたから、渋沢栄一の顔が描いてある札束で殴り倒した。

やっぱり現金って痛くてさいこー!


そんなふうにして騒いでたら、奥から真っ赤な制服を着た男梅みたいな表情のおじさんがでてきて、キングボンビーデストロイ号の切符をくれた。

さすがの私でも、それは桃鉄の借金地獄になるだけの電車だということはわかっていたので、やっぱりそのおじさんのことも小銭でパンパンになった財布で殴り倒した。


そしたら頭上から(ぐしゃらああ)って何がが崩れる音がして私はその音がほんとにこわくて泣けてきた。


ああ、くる。神様が脳に直接語りかけくる。


(踊れ今すぐ、スリープモードじゃわからないことがこの世にはある)

(点呼をとるぞ)

(プリーズ、その手をあげろ)

(叩けボンゴ 響けサンバ)

(踊れ南のカルバナル)


神様の言葉に合わせて、Perfumeを3人のふくらはぎが光を放ってる。


「かしゆかです」

「あ〜ちゃんです」

「のっちです」

「「「さんにんあわせてPerfumeです」」」

す、

す、

す、

神様に呼応するように、

3人の声が空間を回る。


わかった、もういいよ。君たちはPerfume、私がゴマキ。Wi-Fiあったらどこでもいい。ネクストステーションイズ西川口、京浜東北線に乗ってスモーキーな街へ行こう。


「これからどんなことが起きても、知ったかぶりを貫き通せるか?」


観念した私が3人にそう聞くと、かしゆかだけがこくりと頷いた。

彼女が初めて見せた意思表示だった。

神様はまた脳に直接語りかけてる。


(プリーズ、切符を捨てろ)

(思いもがけない無賃乗車でしか、味わえない感情がある)


みんなで、切符を捨てた。

私たちには新幹線の乗り方がわからない。

切符もない。

道がわからない。

けど、それほど悲しくない。


コンプレックスもない。


遠くを見ても、何も思わない。

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カナナヱ
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