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痛くない注射みたいな失恋だった

恋なら片思いも含めて両手じゃ数え切れないぐらいしてる。誇れないが事実だ。
嘘です。数えてみたらちょうど10人だった。叶ったのは4人だけ。根っからの恋愛体質ってわけ。

基本は面食いだが、気が合わなければ当然恋愛対象からは外れる。

そして、相手からのアプローチ次第でいくらでも恋に落ちる。人は好きになってくれた人のことを好きになる生き物でもあるから。(健気さと執着をはき違えてほしくはないが)

叶った恋も今のところ全部破局したから悲しいことだね。いや、一時的に幸せだったんだよ、みんな。全部悪い記憶ってわけではない。

今回片思いに終わったそれは、ベテランの看護師さんがしてくれるような、痛くない注射のようだった。涙は一滴もこぼれなかった。

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私は人間が好きみたいだ。
ひとりの時間も空間も断固としてほしいけど、誰かの隣にはいたい。抱きしめていい人間は互いの健康に寄与する。
私は居場所が欲しい。
よそ見をせず帰れる場所が欲しい。

親友ならいる。でもみんな私の生活圏からは遠く離れているし、一緒にいられたら幸せだけどずっと一緒にいられるわけじゃない。
「ライナスの毛布」が欲しいのかもしれない。手放せないもの。安寧を求めるときまず向かうもの。

去年半年だけ、4年間お付き合いした人と同棲したとき、わたしは幸せだった。
振られたとき私は泣いた。途中からほぼ女として見られていない事は分かっていたけど、それでもパートナーとして傍にいるだけの価値が私にあるということだけでよかった。あり得ないことをいっぱい言われて「別れなよ」と周囲に何度も言われて、それでも一緒にいたのは私に価値があると信じたかったからであり、より掘り下げるならば、大きな柱を失いたくなかったからだ。

私が泣いたのは「4年間苦楽を共にし同棲までしてなお傍にいてほしいと思えるだけの価値が私になかったから」だった。

詳細は書かないが後味の悪い終わりだった。

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そのあと好きになったのが「フラれた」の人だ。好きになってからフラれるまで1年も経っていないが、生き方と顔が好きだった。
言うほど知っているわけでもないが、距離の置き方が絶妙で気楽だなと思ったのだ。

未だに憧憬か恋か分からない。混ざっていると思う。本当は、一度お茶に行けるだけでよかったかもしれない。ただ、もう2人では会えないかもしれないと突然知らされたとき口から出てきたのは「好きです」という言葉だった。

友達になりたかったのかもしれない。ただ制限時間内に伝えようとしたらこうなった。恋心もあったとは思う。もう少し丁寧に説明したかったけど、エゴでしかないのでやめた。どうせいなくなるのだから。

その人はさらりと「お気持ちだけね」と言った。
ごめんもありがとうもない。私はそれがありがたかった。謝られるなんて絶対に嫌だった。お礼なんて以ての外である。だから、全く想像していなかった返答に「やっぱりこの人はこの人だ」と思い、「慣れてるでしょう」と苦笑いして毒づいた。

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フラれたあとは確かにジタバタしたしエントリも書いた。ただそれは思いのほか早くおさまって「予防接種に近かったのかな」と思った。のぼせ上がる前に、恋の病に罹ってしまう前にワクチンをちくりと刺されたのかもしれない。「お気持ちだけ」は「しばらく安静にね」の言い換えだ。

それが分からなくてマッチングアプリも始めちゃったしよく分からない人とデートする予定もたててしまったが、今は落ち着いている。
デートは、申し訳ないけど断るだろう。

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居場所が欲しい。
これはさっき言ったとおりだ。
でも私がいま一番大事にしたいのは仕事だ。病気を安定させて、普通の人と同じように毎日仕事をこなして、お金を貯めて、時々好きなことをする生活に戻ることが何よりも最優先だ。

その片手間でもし人との交流ができて、友達/親友になったりパートナーになったり、そういうことができるといいけれど、私は人より二回りくらい遅れて成長しているみたいだからそこまで目指さない。
もうその次元のお話は天に身を委ねたい。

「嫌いな人に無理に親切にしなくていい」ということを28になってようやく学んだ自分だ。
何もかもが遅い。だから他人と比べるのはもうほぼ自傷だ。やらなくていい。

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タイトルに戻ろうか。
痛くない注射みたいな失恋だった。
年相応の振られ方、なのかもしれない。

フラれてからはほとんどずっと寝ていた。
どうしたらいいか分からなかったから。ただ実際意識を手放せる時間は少なかった。心が騒ぎ立てていたから。

でも今は静かになった。
心が騒いだのは傷付いたと勘違いしたから。
静まったのは、これは傷じゃなくて疲労らしいぞって気付いたから。
免疫系統のシステムとよく似ている。ワクチンを打ったあと気だるくなったり熱が出たりするあの感じに。

今までのどれよりもさっぱりした失恋だった。
心が軽くなったとさえ感じる。
失恋の上書き保存。後味の悪いあの失恋はもうどこにもない。

さて、人生に戻ろうか。
しばらく罹るまい。人にすがりつきたいあの病には。

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