「あっぱれ!誤魔化し大明神!」2話

「来るべき未来はすぐそこに!宇宙人とのオープンコンタクトにそなえよ」

これが次回セミナーのタイトルだそうだ。

どうやら、また社長が何やら妙なものにハマって講演のネタにするらしい。
正直僕の感覚だとこんなものを5,000円も払って聞きにくる人が居るのが信じられないのだが、バイトとして経費の計算なんかをしていると案外採算が取れているので「やれる事は何でもやってみもるものだなぁ」と時々は思う。

しかし流石に今回のは採算云々も少々心配になるが、社長のアタマがどうかしてるんじゃないかと不安にならざるを得ない。
もっと言うならバイトとはいえ、そんなヤバそうなセミナーの片棒を担いでる僕も社長の手下として、大学の友人達に認識されるに違いない。
当面ネタにされてからかわれるのかと思うと、こんな馬鹿げた事を思いついた人間を呪わずにいられない。

そんな事を考えながら社長の手書き原稿をタイピングしている。
社長の字が汚いせいか、原稿の内容が余りにも馬鹿馬鹿しいせいか、解読した文字を一文節タイプする度にイライラすると言うか、皮肉屋っぽい心持ちにになってきて、そんな自分すら嫌になってくるくらいだ。


「来るべき未来はすぐそこに!宇宙人とのオープンコンタクトにそなえよ」

(※コントじゃないよ!至ってマジだよ!)


なんてふざけて注釈を入れてみたところで諸々の悪感情は振り払えそうにもないので可能な限り早くタイピングを済ませる事にする。

ちなみに講演内容を要約すると、もうすぐ宇宙人がやってきて人類を導いてくれて、その結果世界から戦争やら労働やら色んな嫌なものが無くなるから、気楽に行こうぜ!
と、言う事らしい。もはやツッコミどころしかないので賢い僕はいちいちツッコんだりしない。
ただ本当に来るべき未来に思いを馳せて気が重くなるだけだ。この無責任極まる妄言を信じた人に後で訴えられたりすまいか・・・大学の友人達に本気で引かれたりはしないか・・・と。

と、そこまで考えたところで、ふとある考えが脳裏をよぎった。子供すら騙せない与太話しのような未来を、目を輝かせて信じて待つ人間と、至ってリアルに起こりうる未来を思って気が重くなる僕と、本当に賢いのは果たしてどちらなのかと。

無論前者だ。

ただしそれは本当に“信じきれれば”の話しであって、賢い僕は本当のところがどうなのか考えるまでもなく分っている。

つまりは、こんな与太話を作り上げた社長も、そんなものを聞きに来る人達も、そうでもしなけりゃやっていられないくらいに、この現実に嫌気がさしているということだ。

でも、若くて浅はかな僕はまだ知り得ない。

彼らを取り巻く現実に、そんなになってしまう程の何があるのかを。
一体彼らはどんな人生を経て、こんな与太話に縋るハメになったのかを。
それはいつか僕も経験する類のものなのかを。


少なくともそんな事は、今すぐ分からなくていいのだろうと思う。
まったくモラトリアムとは良く言ったものだ。

いいなと思ったら応援しよう!