エッセイ『あなたの想い、届け。』
今日は7月7日。そう、七夕だ。
僕は毎年、この日に"あること"をする。
今日もその"あること"をするため、僕は近くにある商業施設に来ていた。
あった。短冊だ。
その商業施設には毎年必ず七夕の笹が飾ってある。
そのそばには商業施設に訪れたお客さんが自由に書けるように長い机とペン、何十枚ものカラフルな短冊が置いてあるのだ。
僕はその机の方にはいかず笹の方に向かい、ほかの人が書いたであろう短冊を眺める。その内容は非常に様々だ。
「プリキュアになりたい。」
「Snow manのLIVEに行けますように。」
「国家試験合格!!!」
「彼女ができますように…!」
幼児の可愛い将来の夢から、切実すぎる男子学生の願いまで人の想いがこの短冊には詰まっている。
そんな中でもひときわ目を引いたのが、こんな願いだった。
「大切なものが失われませんように。」
この短冊を見たとき、ああ、この人には大切なものがあるんだなあ、と思った。
大切なものがあるからこそ失いたくない。
この人には失いたくないほどの大切なものがあるんだ、と思ってなんだか羨ましくなった。
よし、今年はこの人にしよう。
長机の方に向かい、短冊を選ぶ。
なんとなくのイメージで緑色の短冊にした。
黒いペンのふたをスポンと開けて短冊に一つ一つ丁寧に文字を書く。
書くときになるキュッキュッキュという音が何となく好きだ。
書き終わり、笹の所に向かう。
そして先ほどの短冊の横に並べて飾った。
「よし」
僕は改めて自分の短冊を眺めてみた。
「この人の願いが叶いますように。」
そう、これが僕がいつもやっている"あること"。
それは短冊に「この人の願いが叶いますように」と書くことだ。
数年前からやっているので、今や恒例行事のようなものになっている。
本当は「みんなの願いが叶いますように」と書きたい。
でも僕のような自分の願いもかなえられないような人間に、みんなの願いをかなえてなんて願う権利はきっとない。
だからせめて。
だからせめて「この人」と決めた人の願いが叶うように願ってる。
この人の大切なものが失われませんように。
あなたの想い、届け。
今日は少しだけ、大人になれたような気がした。
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☀この記事はクロサキナオさんの企画参加記事です☀
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