劇場版「映画大好きポンポさん」の話がしたいんだ
2021年6月4日公開の劇場版「映画大好きポンポさん」と原作の感想が混じった内容です。
映画未視聴で情報収集だけしたい方は途中までどうぞ。
ポンポさんって何?
4月末頃からTwitterのCMで異様に見かけるようになった「映画大好きポンポさん」のことを、当初僕は全く知らなかった。CMの内容はツインテドリルの幼女が偉そうに叫び、根暗な青年が無理矢理映画を撮らされるというもの。バーチャルシンガーの花譜(かふ)を主題歌に起用しており、バチャ豚向けのオリジナルアニメ映画だと思った。正直言って興味は惹かれなかった。
調べてみようという気になったのは原作者のツイートがRTで回ってきた時だった。
そこには
・フリーの監督が制作
・劇場版用のオリキャラあり
・原作者はほとんど関わっていない
という情報が書かれていた。これを見た時の僕の気持ちを端的に表すと
「炎上して話題になりそうだから見ておこ〜」
となる。
我ながら頭が悪過ぎる。
そんなこんなで低俗な感情からポンポさんについて調べ始めた。その時に得た情報で僕の馬鹿げた動機は大きな期待に変わることになった。
フリーの監督の名前は平尾隆之さんという。フリーとは名ばかり、この監督が関わった作品リストを見て僕はブッ飛んだ。
・妄想代理人(演出)
・千年女優(制作進行)
・ぼくらの(絵コンテ)
・シグルイ(絵コンテ)
・甲鉄城のカバネリ(絵コンテ、演出)
そして
・空の境界「矛盾螺旋」(監督)
オイオイオイ
気になるわ、ポンポ
上に書いたのは平尾監督が関わった作品群のほんの一部だがどれもこれも硬派な名作。というかマッドハウス出身で最近までufotableにいてゴッドイーターシリーズの総監督でした。自分の無知が恥ずかしい。
それから原作1巻が無料で読めるようだったので急いでpixivに・・・
いや、おもしろすぎるって
「映画」を題材としてプロデューサー、監督、演者の狂気的な情熱がデフォルメのキャラや突飛な舞台設定に説得力を持たせていた。内容については後述するが当初予想していたような薄っぺらいコンテンツではなかった。というか早く映画を見たくて仕方なくなった。
ちなみにポンポさんのフルネームはジョエル・ダヴィドビッチ・ポンポネット。海外が舞台の話ということにも驚かされた。
登場人物の映画に対する狂気の度合いを他の作品と比較すると
・緑谷出久にとってのヒーロー
・朝比奈大吾にとっての消防士
・海原雄山にとっての料理
くらい狂っている
物見遊山的に読んだつもりが完全に心を掴まれた。
※ここからは映画、原作のネタバレを含みます
ネタバレ!!映画の感想
映画の序盤は概ね原作通りに進んだ。映画界の超大物プロデューサーの孫でありどんな映画も大ヒットさせるポンポさん、ポンポさんの助手からいきなり監督に抜擢された根暗オタクの青年ジーン、憧れだけで田舎を飛び出しバイトに明け暮れながら女優を目指すナタリーなどなどが非常にコミカルに動く。ハイライトが入った主線と彩度の高い画面は、コロナ禍で劇場体験が激減した身体にとても心地よく染み渡った。
人物の登場シーンが映画用に並べ替えられていることを除けば、シンプルかつ原作に忠実な映像化だった。オリキャラの銀行マン、アランも大して話に関わってこなかった。ポンポさんが長編映画の上映時間を分単位で記憶しているシーンがカットされたのは少し残念だった。
異変が起きたのは、原作で言えばラスト4ページの場面。ジーン監督が72時間の収録テープを編集して幕を閉じるはずだった。
ここから劇場版は大きく異なる展開を見せた。
まずはジーン監督が追加撮影を希望する。納期遅れや予算不足で映画の製作は頓挫しかけた。そこに銀行マンでジーンのかつての同級生アランが渡りに船の奇跡的な融資策を施す。正確にはわからないが、原作で4ページ分の内容が劇場版では30分ほど(全体の1/3)も費やされた。
さらに劇中内での映画「MEISTER」の内容も大きく変更され、伝えたい物のためにそれ以外を極限まで排除した指揮者の姿に焦点が当てられた。原作には登場しない指揮者の妻や楽団の仲間や友人を登場させ、それら全てを切り捨てさせた。この指揮者が、72時間+追加シーンの長大な映像を90分に収めたジーン監督の姿と重なる。
原作では焦点を当てられなかった「編集」を人生の取捨選択にまで解釈を広げ、壮絶なドラマに仕立て上げたのだ。
加えてこの時のジーン監督の追加撮影と編集はそれぞれ平尾監督が映画大好きポンポさんに行ったことともリンクする。
つまりこの、劇場版「映画大好きポンポさん」は
作中の映画「MEISTER」の指揮者
原作「映画大好きポンポさん」
劇場版「映画大好きポンポさん」
これらを「取捨選択」という概念でリンクさせた三層構造のメタ的作品なのだ。
すごすぎるよ平尾監督・・・
最後に
今思い返してみても全くと言っていいほど違和感がない。漫画版と劇場版の相違点が自分の中で曖昧になる。それほど映画オリジナルの展開は無理がなく、ポンポさんの世界に溶け込みながら映画として完成されていた。
映画を題材にした作品を映画化するにあたって単なる映像化に止まらない構成を作り上げた平尾監督、それを信頼して余計な口出しをしなかった原作の杉谷先生、そして最高の映像と音楽で90分のエンターテイメントにしたスタッフの皆さん。本当にありがとうございました。
劇場を出る時、親に連れられて見に来た小さな子供が「すごくおもしろかった!」と言っていた。ポンポさんの90分へのこだわりを実感した。
蟹🦀