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世界最古のDNA配列を解明

さて私のnoteで最初に紹介する記事は、100万年前のマンモスのDNAの発見です!オリジナルの記事は、以下のリンクです。

「DNA配列を読む」とはどういうことか?

 まずDNAとは何でしょうか?よくテレビでも聞くことが多い言葉ですが、いったい何をしているものでしょうか?
 本題から離れてしまいますが、今後私の記事ではよく出てくる単語ですので簡単に説明します。生物には、その生物を作るための設計図があります。それを遺伝子と呼びます。私達の体の部分をいつ、どのように作るのか、その方法が書いてあるのが遺伝子です。そしてその遺伝子が書いてある物質の名前がDNAです。実際の設計図でいうと、DNAは紙と鉛筆の部分にあたります。DNAは遺伝子が書いてある紙にあたる部分ですが、同時にその遺伝子の文字にもなっている、超優れものなのです!文字の形になっている紙と考えてもらえればわかりやすいかもしれません(ただこの場合ですと紙の意味がないですね・・・)。ではDNAは体のどこにあるのでしょうか?体をいくら探しても設計図のような文字は書かれていません。DNAは私達の体の細胞の中に、それこそ巻物のように折りたたまれて、しまわれているのです。「DNA配列を読む」というのは、このDNAに何が書かれてあるかを知ることです。つまり生物の設計図を読むことになります。詳しくは以下のページの解説がわかりやすいので、興味のあるかたは参考にどうぞ。


 このDNA、とてもすぐれもので非常に安定しております。「安定している」というのは、壊れにくい、と考えていただいても問題ないです。壊れやすい設計図なんて嫌ですよね?設計図であるDNAがなくなってしまえば、我々の体は作られなくなってしまいます。しかし、DNAは非常に安定なのでなかなか壊れにくいのです。
 さて壊れにくいといっても、物質なので時が経てばさすがにどんどん壊れていきます。私達の体の中にあるDNAは常に新しくリニューアルしているので、私達の体の活動が停止するまでは(つまり死ぬまでは)、体の中に存在し続けます。しかし一旦その生物が活動を止めると(つまり死んでしまうと)、DNAは時間の経過とともに分解されていきます。

100万年前に生きていた3匹のマンモスのDNA配列を読む

 今回のニュースでは、マンモスの遺体から発見された100万年前という大昔のDNAの配列を読み、マンモスの設計図の一部を理解することに成功しました。では、なぜこのDNAは壊れずに安定なのでしょうか?配列を読むことに成功したDNAは、東シベリアの永久凍土に保存されているマンモスの歯から見つかりました。そのままにしておけば腐ってしまうものを長持ちさせるにはどうすればよいでしょうか?そうです、凍らせてしまえばいいのです。暑い夏の日に生魚を置きっぱなしにすると、あっという間に腐ります(もしくはカビが生える)。この生魚を冷蔵庫、冷凍庫に入れれば、長持ちしますよね?永久凍土は自然の冷凍庫なのです。永久凍土については地球環境研究センターの調査レポートに解説があります。

 永久凍土の中の3匹のマンモスの歯から回収されたDNA配列を読み、北アメリカの種を生み出した新種のマンモスを特定しました。これにより、氷河期の拡大によって異なるマンモスの種が一緒になり雑種化したのではないか、ということがわかりました。当たり前かもしれませんが、マンモスにも雑種がいたのですね。また発見された3本のうち最も若い歯は約50万年から80万年前のもので、古い2本の歯は100万年から120万年前のものだそうです。
 それでは永久凍土に入っていれば、私達はどれだけ古いDNAでも配列を読むことが可能なのでしょうか?残念ながら260万年が、限界だそうです。それ以前は、あまりにも暖かったことがわかっており、暖かい状態ではDNAは分解してしまうのでDNA配列の解読は難しくなります。
 ちなみにこれまでに読むことに成功したもっとも古いDNAは、2013年に行われた56万年から78万年前の馬の脚の骨から採取されたDNAです。論文は以下のものになります。こちらも興味のあるかたはどうぞ!今回はなんと30万年前も記録の更新に成功したのですね。

世界最古のDNAの配列を読むことは、我々のなんの役に立つか?

 今回の発表では、100万年前のマンモスのDNAの配列を読むことに成功したことが驚きとしてニュースになっています。実際に私が紹介したNatureのニュース以外でもたくさんの科学系メディアで取り上げられていました。それではこのニュースは、私達の生活には関係ないのでしょうか?以下2つの点で、100万年前のマンモスのDNA配列を読むことは、私達に(それなりに)身近なニュースなのです!
1:人間の祖先のDNA配列は読めるのか?
 一つ目は、人間の先祖のDNA配列は読めるのか?という疑問です。100万年前のマンモスのDNA配列が読めるのであれば、同じ頃にいた人間の祖先のDNA配列も読めるのではないか、という期待が出てくると思います。ジャコウウシ、ヘラジカ、レミングなどの哺乳類は、永久凍土のサンプルが発見されているため、マンモス以外の哺乳類のDNAの配列が読めるかもしれません。しかし、永久凍土の中で古代人類の100万年前の化石を発見する可能性は非常に低いと言われております。一方で、洞窟の中で発見されることはよくあるので、洞窟のなかで発見されたときの状態さえ良ければ、DNAの配列を読むことは可能です。私達の人類はどのように誕生して、どのような体をしていたのか、その答えを知る方法の一つが古代の人類のDNA配列を読むことになります。
2:私達の身近で役に立っている「DNAの配列を読む」ということ
 DNAの配列を読むという技術でもっとも身近なものは、犯罪捜査と医療です。よくテレビのサスペンスドラマで「DNA鑑定の結果からあなたが犯人だということがわかりました!」というセリフをよく聞きますよね(下手くそなセリフですいません・・・)?詳細は少し違いますが、マンモスのDNA配列を読むことも、DNA鑑定も、DNAの配列を読む目的は同じなのです(厳密には方法が違うのですが、そこは解説すると難しい話になりますので割愛します)。詳しい内容が知りたい方は以下のページを参照ください。
こちらは科学捜査研究所でのDNA鑑定に関係するホームページです。

こちらは警察庁のホームページ内にあるDNA鑑定の記事です。

 もう一つの身近なDNAの配列を読むことは、医療の現場で見られます。これはいずれ取り上げたいテーマですので、そのときにもっと詳しく説明します。我々の医療の現場では病気になった細胞のDNA配列を読むことで、その病気の原因を見つけるという医療がすでにスタートしています。これをゲノム医療といいます。設計図のどこが間違っているのか、それを見つけて薬を使って修正する作業です。こちらのゲノム医療の詳しい説明は、がんセンターのがんゲノム医療の説明と、中外製薬のゲノム医療の説明がおすすめです。

 DNA鑑定もゲノム医療も、DNAを回収する、DNAを読む、読んだDNAを理解する、という3ステップが重要で、そこには複雑な技術と膨大なお金がこれまで必要でした。しかし技術の進歩は非常に早く、現在では1)より少量のDNAから、2)より早く、3)より正確に、4)より安い値段で、DNAの配列を読むことが可能になりました。これによりDNAの配列を読むことがどんどん身近になってきています。DNA配列を読む技術が向上したことが、100万年前のDNA配列を読むことを可能にしたのです。技術は使われれば使われるほど、ドンドン発展し身近になってきます。こういった技術が私達の生活をもっと快適にするのですね!

まとめ

 今回は、100万年前のDNA配列を読むことで、マンモスの進化に関して新しい発見がありました。この発見には、DNA配列を読む技術の発展が貢献しています。この技術は、状態の良いDNAさえあれば他の哺乳類や私達の祖先のDNA配列を読めるので、過去の生物や私達の祖先のことをもっと知ることができるかもしれません。またこのDNA配列を読むという技術は、犯罪捜査や医療の現場でも役に立っています。DNA配列を読む技術によって、私達は過去と未来を読むことが可能になったのかもしれないですね。

以下が原著論文になります。私の記事では、原著論文をなるべく引用しますので、興味のある方は、もとの論文をお読みください。


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