「崖っぷちギャンブラー」タイキ

第一章: 借金の日々

タイキの部屋は、乱雑に積み上げられた雑誌と、数え切れないほどの空き缶で溢れ返っていた。窓からはかろうじて日光が差し込み、埃がその光の中で踊っている。壁に貼られたポスターも、今や色あせて、過去の夢や希望を嘲笑うかのように見える。

タイキは、自分がここ数年で何度目の督促状かも覚えていない紙を手に取った。電気、水道、そして携帯電話の支払い期限がとっくに過ぎていることを示す赤い文字が目に飛び込む。だが、彼の心は既に麻痺していた。働いても、すぐに嫌気がさし、仕事を辞めてしまう。その繰り返し。親からの仕送りが止まってからというもの、タイキの生活は一層厳しくなった。

唯一の楽しみはスロットだった。ジャグラーという名のマシンにコインを投入し、リールが回るのをただ見つめる時間は、現実から逃避できる唯一の時間だった。しかし、その日の結果は惨敗。タイキは、今日もまた負けを取り戻すこともできずに、ポケットの中の小銭を数えながら帰途についた。

街角で、彼の足は自然に止まる。そこには小さな公園があり、誰もいないベンチに座り込む。空はどんよりと曇り、風が身を切るように冷たい。ふと、足元に一枚のチラシが舞い込んできた。「人生の一発逆転」という文字が躍る。だが、タイキはもうそんな夢物語には興味を失っていた。

その時、ふいに後ろから声が掛けられた。「お若いのに、随分とお疲れのようだね。」

振り向けば、そこには一人の老人が立っていた。老人の目は深く、まるでタイキの全てを見透かしているかのようだった。白髪で、しかしその背筋は伸び、どこか威厳を感じさせる。

「エスポワール号に乗らないか?」と老人は続けた。その言葉に、タイキは一瞬、何を言われているのか理解できなかった。「エスポワール...号?」と、思わず聞き返す。

「そうだ。あそこでは闇のギャンブルが行われている。勝てば大金を得られるし、負けてもお金を借りることができる。どうだ、君のような若者にピッタリの場所じゃないか?」

タイキの心は動揺した。借金を返す望み、そして一発逆転の夢。だが、何かが引っ掛かった。こんな便利な話があってたまるか。そんな都合の良い話を信じるほど、タイキも愚かではなかった。

しかし、老人は続ける。「心配しなくてもいい。君にその勇気があるかどうかだけだ。」

タイキの心臓が一つ、強く打った。選択肢は少なかった。現実に戻れば、ただ借金の山と向き合うだけ。そして、その時、彼は思ったのかもしれない。これが最後の冒険になるかもしれないと。

「やります。」タイキは答えた。自分の声が自分でも信じられないほど、確信に満ちていた。

老人はにこりと笑みを浮かべ、「良い選択だ。では、明日の夜、この場所で。」と、古びた名刺を渡すと、静かにその場を去っていった。

タイキは名刺を見下ろす。そこにはただ「エスポワール号」とだけ書かれていた。

第二章: 出航の夜

翌日の夜、指定された場所にタイキは足を運んだ。薄暗い港の片隅に、一隻の船が停泊しているのが見える。その船がエスポワール号だと、タイキは直感で悟った。船は外見からしてただのクルーズ船とは異なり、どこか神秘的で、そして不気味な雰囲気を醸し出していた。

船の入り口には、昨日の老人が立っていた。老人はタイキを見つけると、手招きをする。「よく来たね。若者。さあ、これにサインを。」と、契約書のようなものを差し出してきた。

「これは何?」とタイキは警戒しながら問うた。

「ただの形式だよ。君がここで借りた金は、ここで返すこと。そして、船の秘密を守ることが条件だ。心配しなくても、勝てば全てが帳消しになるんだから。」

タイキは一瞬迷ったが、背に腹はかえられない。ペンを走らせ、自分の名前を書いた。老人は満足げに頷くと、船に乗るよう促した。

船内に入ると、そこはまるで異世界だった。豪華なカジノが広がり、シャンデリアの光の下で、人々は笑い、叫び、そして賭けに興じていた。ルーレット、ポーカー、ブラックジャック、そしてスロット。ありとあらゆるギャンブルがここにはあった。

タイキは早速、昨日の負けを取り戻すためにスロットマシンに向かう。初めは慎重に、しかし徐々に大胆にベットを重ねていく。驚くことに、今日のタイキはツキに恵まれていた。コインがジャラジャラと音を立てて増えていく。

勝負に熱中するタイキに、さっきの老人がまた声をかけた。「調子はどうかな?」

「今日は勝ってます」と、タイキは少し誇らしげに答えた。

「それは良かった。では、もっと大きな勝負に興味はないかい?」と老人は意味深長に言った。

その提案に、タイキの心臓がまた一つ、大きく打つ。更なる大金への欲望が、彼の理性を揺さぶった。「どんな勝負ですか?」と問うと、老人は「特別な部屋がある。そこでは、人生を変えるほどの大金が動くんだよ」と教えた。

興味津々のタイキは、老人の後について船の奥深くへ進んだ。そこにはVIPルームがあり、厳重にガードされたドアの向こうで、異常に高い賭けが行われていた。

ドアを開けると、部屋の中は緊張感に満ちていた。そこで行われているのはただのギャンブルではなかった。命すら賭ける、究極のゲーム。タイキはその事実に気づき、背筋が凍るのを感じた。

しかし、もう後戻りはできなかった。彼の前には、これから始まるであろう、命をかけたゲームへの参加を示すカードが置かれていた。

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