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レガシーの継承~弥栄会館~

京都五花街と呼ばれる各花街にはシンボルと言える建造物がある。

祇園甲部、八坂神社の門前で営業された水茶屋が始まりとされ、江戸末期にはお茶屋が500軒、芸妓、舞妓、娼妓合わせて1000人以上いたという五花街の中でも最大の花街。

雪香(モルガンお雪)、磯田多佳、松本佐多、佳つ乃などの名妓を多数輩出、文豪 谷崎潤一郎、夏目漱石、歌人 吉井勇などにも愛され、江戸初期には大石内蔵助が一力亭で遊んでいた話は歌舞伎などでも知られている。

そんな祇園の地にあって天守閣風の望楼がひときわ目立つ祇園のシンボルともいえる建造物が弥栄会館です。

風致地区にあり、日本趣味の伝統的な意匠になっている。姫路城(白鷺城)を模したと言われ、デザイン鉄骨鉄筋コンクリート造、地上5階地下1階建で、南面して建つ。各階に銅板瓦葺屋根をかけ、塔屋状の正面中央部は付庇や宝形造屋根が城郭の天守を思わせる造形で、和風意匠の伝統を巧みに織り込んでいる。設計は劇場建築を手がけた木村得三郎、大林組にあって劇場建築を得意とした建築家です。

木村の設計と言えば、京都では先斗町歌舞練場があるが、そことはまた趣が異なった建築になっている。

建築史家の石田潤一郎氏は、楼閣建築との関連性、なかでも西本願寺飛雲閣と類似していると指摘しています。

2001年には国の登録有形文化財に登録され、2011年には京都市の歴史的風致形成建造物に指定されました。

学生時代、花見小路を通って弥生会館の隣の場外馬券場へよく行っていたが、国・登録有形文化財である「祇園甲部歌舞練場正門」から奥は、学生身分には別世界としか思えなかった。

今、堂々と別世界へ入ってみると、静けさの中に上品さが漂う舞妓・芸妓が主役の空間が広がっている。

主役たちは、歌舞練場、八坂倶楽部、弥栄会館で、日々鍛錬し、夜になると旦那衆のもとで芸を披露する。

長い歴史の中で、日々繰り返されてきた営みが、数年後には変貌を遂げようとしている。

弥栄会館に帝国ホテルが進出。

これは舞妓・芸妓が主役から観光客が主役に代わることを意味している。舞妓・芸妓が主役の空間が観光客にとって代わるのは正直寂しい気がする。時代の流れとは言え、長年培ってきた花街文化は、せめてそのままの雰囲気で残してほしい。

帝国ホテルは、この貴重なレガシーを継承しつつ、新たな息吹をもたらし未来に貢献する事業ととらえるという。事実、登録有形文化財であることを考慮し、花見小路に面する同会館の南西側の壁面などは残し、城郭を思わせる会館の外観はおおむね引き継ぐようだ。ファザードとまではいかないものの、全体の雰囲気は変わってしまうのだろうか。

これまで建築を残す理由として「壊したらもう2度と作れない」というのがあったが、技術が発達して三菱一号館みたいな高精度な再現ができるようになると、「新材で復元可能なのであえてオリジナルを残さなくてもよい」という考えに向かっていくことを個人的には懸念しています。

古きよきものは、やはり古きよきものでいてほしい、レガシーはやはりレガシーであってほしいと切に願うばかりです。

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