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パッチン

たしか小学校で【パッチン】が流行り始めたのは、小学校の近くの駄菓子屋が2枚10円で売り始めてからだったように思う。いや、学校で流行り始めたのを知って、大々的に駄菓子屋が売り始めたのかもしれない。
どちらが先か今となっては分からない。正に、「鶏と卵の関係」である。

パッチンとは、名刺サイズの厚紙にアニメのキャラクターやプロ野球の選手の写真が載っているもの。昔でいうメンコのことだ。
遊びのルールは簡単で、床に置いた相手のパッチンを自分のパッチンを床に叩きつける風の力でひっくり返したら、相手のパッチンを貰えるというもの。


簡単そうだが、これが結構難しい。

床に対して、直角にパッチンを叩きつけると、相手のパッチンはなかなかひっくり返らない。少し、角度をつけて叩きつけなければならない。反対に、あまり強く叩きつけると、相手のパッチンは1回転して、また表を向いてしまう。

私は、このパッチンを買った記憶がない。
幸いにも、パッチンがとても強くて、友達から貰った1枚のパッチンを元手に、数百枚の富を築いていた。

子供の世界でも、一人勝ちは許されなかった。
ほどなく私の富の集中を防ぐべく、新ルールが作られた。
それは、机の上から相手のパッチンを自分のパッチンで下に落とし、床でひっくり返っていたら、そのパッチンを貰えるというもの。
これでは、偶然の割合が強く、ほとんどテクニックの必要がない。

この新ルールの登場によって、テクニック争いからパッチンの改良合戦に大きく流れが変わっていった。しかし、遊びのことになるといつも優等生だった私は、パッチン改良合戦でも常に友達をリードしていた。

最初のヒット作は、両面に同じパッチンを張り合わせた【両面パッチン】。
これなら、絶対にひっくり返らない(?)ことになる。しかし、これはすぐにバレてしまった。

それから、パッチンの重量化が始まり、釣りに使う板おもりを乗せた【板おもりパッチン】が主流になった。
ただ、どんなに重くしても、机の下に落とされたら、どうしてもひっくり返されてしまう。
絶対、ひっくり返らないパッチンを作らなければ!
私は、必死になって次の新型パッチンのアイデアを考えていた。

              ☆


そのアイデアは、友達が子猫を抱え、仰向けにして床に落とす様子を見て思いついた。子猫は必ず空中でひっくり返り、足で着地する。

そうだ!


空中で裏になっても、床では表を向いていればいいんだ。
この発見が後の大発明の引き金になった。

学校でパッチンが流行る前に、水風船が流行っていた。
その水風船を空気で膨らませ、パッチンの表にセロハンテープでつけるだけ。これが、無敵の【水風船パッチン】の誕生となった。


このパッチンは、必ずあのとき見た子猫と同じ動きをした。
クルッ。ヒラリ、ヒラリ、ヒラリ・・・・・
その後、この【水風船パッチン】のおかげで、私は自分の連勝記録を更新していった。


あるとき、あまりにパッチンを取られるので、友達が
「こんなのズルイよ」
と言ったのを側で見ていた女の子が
「アイデアの問題よ」
と弁護してくれたのをきっかけに、私のアイデア精神に火がついた。

パッチンは、引越しのときに全部燃やしてしまったが、【水風船パッチン】によって生まれた私のアイデア精神は今も残っている。

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