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一弾指

瞬きひとつ、ほんの一瞬の中に、たくさんの物語が散りばめられている。それに気づけるかどうかはむずかしいこと?

日々の生活に疲れていたり、代わり映えのない生活にうんざりしていたりと、大切なものを見過ごしてしまうのは世の常。なかったことにしてしまったことも少なくは、ない。


目の前のものごとを小さく細かく見ることができれば、むずかしそうな物語のちょっとした場面を見ることができるようになるかもしれない。

◇「1秒間の演技」
2015.12.24に放送されたNHKドラマは、当時話題になっていた4Kで撮影されたそうです。4Kの美しさを発揮するのはスローモーション。主演の常盤貴子さんは、ちょっとした仕草(1カット:12秒間/5000コマ)、そのゆっくりした映像に耐える演技には苦労したそう。

◇「一弾指(いちだんし)」
指をひとつ弾くその間に、65の刹那が入っている。仏教の中でも、ぼくの好きな時間の物語。ひとつの刹那は0.013秒とも言われるほど短い時間の単位。悠久の時間(とき)には、いったいいくつの刹那があって、ぼくたちはどう過ごすべきなのか。ゴキゲンな時や投げやりになりそうな時に指を弾き想像する。

◇チャップリン先生はこんなことを言っていました。
Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.(人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ)

◇「小さく、小さく」
心が揺れる時、落語家の柳家小三治さんは自らにつぶやく。芸が大げさに派手にならないように、無駄をそぎ落とすために小さく、小さくと……。芸から伝わる緊張感は、落語の愉しみのひとつ。噺家から投げかけられたつぶやきに、ぼくたちの想像力を働かせることもある。

◇一秒間の演技に美しい時間が流れ、指を弾くと65の刹那の時間が弾けて消え、小さく小さく無駄を削ぎ落とすと想像力が膨らみ、ロングショットで見ればどんな人生だって豊かになる。

ぼくはきょうも、小さく細かく刹那の時間を生きました。一瞬たりとも気を抜かず、スローモーションを意識して、ロングバージョンを捉える視野を大切にできますように。流れる時間を流さないように、なんて思ったりしながら♪


✳︎2015年のブログに加筆修正した(記事;2020.4.26)