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映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」の鮮やかな再解釈(No. 873)

考える人 メールマガジン
2020年7月16日号(No. 873)

「よりよいコミュニケーション」って何?
精神科医・斎藤環と歴史学者・與那覇潤が選ぶ映画4選!


対談本『心を病んだらいけないの? うつ病社会の処方箋 』(新潮選書)が好調の精神科医・斎藤環さんと歴史学者・與那覇潤さん。

お2人が選ぶオススメ映画対談シリーズ、いよいよ最終回です。

今回のテーマは「よりよいコミュニケーション」を考える映画。與那覇さんが『ザ・フォール/落下の王国』と『エターナル・サンシャイン』を、斎藤さんが『アバウト・ア・ボーイ』と『秋刀魚の味』をお薦めします。

とくに『秋刀魚の味』に頻出するあの「冗長な会話シーン」にこそ、コミュニケーションのヒントが隠されているという指摘は必読です。

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◎映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」

映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ | 6月12日(金)全国順次ロードショー映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』6月12日(金)全国順次ロードショーwww.storyofmylife.jp

コロナ禍後、映画館で観る映画の第一弾として、グレタ・ガーウィグ監督の話題作「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」を観てきました。想像通り、なかなか、ずしんとくる映画でした。

グレタ・ガーウィグは、「フランシス・ハ」(2012年)などの女優として知られていますが、もともと脚本家志望だったそうですね(「フランシス・ハ」の脚本にも入ってます)。マンブルコアといわれるインディペンデント映画運動にかかわり、「レディ・バード」(2017年)で脚本/監督として名をあげ、とうとう「若草物語」の新しい映画化を任されました。こうして経歴を追っていると、ここ10年、趣味性が強くインディーズっぽかった彼女と仲間たちのノリが、その良さを失わずに映画界の中央に躍り出てきたのを感じます。

「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」は、ほぼ原作にあった材料を使っているにもかかわらず、
1.時系列を現在と7年前の過去をシャッフルさせる、
2.ラストを主人公のジョーの本が出来るまでの話とし、一種の入れ子構造とする、
3.三女より四女のバランスを強くする、
の3つのアイデアで、古典的な小説を新しい映画として書き換えてみせるという恐ろしい作品でした。

少ししかいじってないのに、ああ、今、「若草物語」の作者オルコットが生きていて、もし映画を撮ったら、確かにこうするだろうな、という作品に作り替えられていて、そのオルコットへの憑依の仕方に、グレタ・ガーウィグならではの手つきが垣間見られます。また、「レディ・バード」のシアーシャ・ローナンとティモシー・シャラメがそのままこの映画のメインキャストにスライドしていて、この二人の関係性を見ているだけで楽しくなります。

どこかでこういう感覚味わったな、と思ったのは、分野も個性も違いますが、橋本治さんが『枕草子』や『源氏物語』や、最後は『金色夜叉』で見せたあの手つきです。「絶対、作者はこう考えたはずだ」の書き換えが、元のテクストの作者への接近の仕方、憑依の仕方に説得力があるがゆえに、橋本さんにしか書けないものになっている。

グレタ・ガーウィグのパートナーで「フランシス・ハ」の監督であるノア・バームバックも昨年キャリアの頂点である「マリッジ・ストーリー」を撮っています。ただ、個人的にはノア・バームバックは同じ穴を繰り返し掘っているように感じるのと比べると、グレタ・ガーウィグの才能はもっと広そうです。HBOかネットフリックスで自由にテレビドラマを作ったりしないかな、などと夢想します。もっとこの人が切り取る世界を観ていたいと思います。

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