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[#1/10]滲む記憶とビット王国への入口 【パラレル・クリプトスケープ】
「……うわ、マジかよ、あの頃のニュースまだ残ってるんだ。」
深夜。ナナミは自室で古いタブレットの画面をぼんやり眺めていた。そこには、数年前の暗号資産取引所がハッキングされ、大勢が財産を失ったっていう記事が残っている。
「大手だから安心って……みんな、なんでそんな簡単に信じてたんだろ?」
当時、SNSを開けば、「疑う方が変」「みんなやってるんだから大丈夫」みたいな空気が当たり前だった。誰も考えないし、誰もリスクを調べようともしなかった。
ナナミはあの頃、クラスメイトたちが「コレ買っとけば儲かるって!」って浮かれてた光景を思い出す。結局、その裏で理想的なはずのCryptoは、人々の短期的な欲望や同調圧力、何も検証しない盲信によってズタズタに引き裂かれた。
「本当はもっと透明で、公正で、自分たちで責任を持つ手段……って聞いてたのに、なんでこんな結果になっちゃったんだろう。」
心の中にはモヤモヤが募る。
Cryptoって可能性に満ちたツールだったはず。でも、現実は「パヤヤ」とでも呼ぶべき人間の内なる弱さ——盲信、怠慢、楽したい気持ち——に負けて、理想は実らなかった。
外はしんと静まり返っている。
そのとき、窓の外に不思議な看板が目に入った。
「ビット王国」
と古めかしい書体で書かれた看板が、路地裏で青白く光っている。
なにこれ?夜中にこんな奇妙なものがあるなんて、まるでファンタジーじゃない?
ナナミはパジャマ姿のまま、カーディガンを羽織って玄関へ向かう。好奇心には逆らえないタイプだ。深夜に出歩くのはちょっと怖いけど、その看板に妙に惹かれる。
細い路地を進むと、空気が少しヒヤリとして、角を曲がった先に……小さな市場みたいな空間が広がっていた。石畳、見たことない記号が刻まれた旗、コインが積まれた露店。何これ、異世界転生でも始まる?
「こんばんは。」
背後から青年の声がした。振り返ると、革ベスト姿の青年が穏やかに微笑んでいる。
「僕はトオル。ここはビット王国へようこそ。過去に起きたことを知り、未来を考えたいなら、ここでいろいろ見ていくといいよ。」
ナナミは唖然。「え、ちょ、なにこの状況?夢?」
トオルはクスリと笑う。「夢かもね。でも、君が抱いてる疑問、Cryptoの可能性と失望……それらに対する答えを探す場でもあるんだ。」
ナナミは肩をすくめる。「なんか怪しいけど……まあ、面白そうだし、いいかな。私、ちょうど『なぜ理想が活かされなかったのか』知りたくて。」
こうしてナナミは、ビット王国で過去の失敗を学ぶ旅を始める。そこには、理想を狂わせたパヤヤという人間の闇が蠢いていた。
この先、彼女が目にする数々の出来事は、Cryptoに秘められた本来の力と、人間の弱さを浮き彫りにする。そして、やがて無数の価値観が並列するパラレルワールド的な未来へとつながっていく……。
夜風がナナミの頬を撫で、ビット王国の淡い光が揺れ動く。
「よし、行くか!」
ナナミは心を決めた。もう悩む暇はない。秘密の市場には、過去の教訓が山ほど詰まっているはずだ。ここから始まる物語が、Cryptoと人間、そして多元的な世界へ続く第一歩になるなんて、今はまだ知る由もないけれど……。
#2 へつづく
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