悟り体験

私は4、5回くらい"悟り体験"といわれるものを経験した。



「悟り体験」はほんとに厳しい。
容赦ない。ある意味。

あらゆる善悪を通りこえたところにある。

私を超えたところにあるから、
ある意味「わたしの消失」になる。アイデンティティの消失。


その体験のあとが、めちゃくちゃ辛かった。

 
 人生であんなに辛い時間はないし、もう細かく思い出せない。


はじめての悟り体験はニューヨークに住んでいたとき。
ニューヨークでデザインを学んでいた。


ニューヨークから帰ってきたとき、わたしは人生で最低に落ちていた。


心もなにもかも。


ニューヨークにいた半分くらいまで、天真爛漫な子だった。

なにも考えてなくて、みんなを信じていた。
脳天気で明るい気持ちしか知らなかった。
精神的に弱い人のことが心からわかってあげられることができなかった。
それくらい、わたしはほんとの心の苦しみとか弱さを経験したことがなかった。


今思うとよくもあんなに純粋に20過ぎまで育っていたなと思う。


ニューヨークで私は精神世界を探求するようになった。

アートやデザインをやるためにどんどん自分の内側を掘ってく。内観する。その過程で、いろんな体験をした。


そして掘りつづけて掘りすぎて潜在意識の大海原で溺れた。


そして悟り体験を経験した。


美しすぎるものも、その逆も味わった。

「わたし」と思ってたものも幻想だった。


その体験をしたあと、

元の世界に戻るのがほんとうにしんどかった。

記憶はある。わたしの名前の人がどんな思考回路で、どんなリアクションをとり、どんな振る舞いをしていたかの記憶はある。

だけどもう意識は前の自分の中に戻れる気がしない。


前と同じように振る舞えない。

もう中身は完全に別人だから。


世界でいちばん好きで私の心との境もなかったお母さんでさえも、どう接したらいいかわからなくなった。
姉も父も、友達も、コンビニの店員さんでさえも。


病気なのかも自分に何が起こってるのかもなにもわからない。


あまりの急激な変化、というか、この世界で頼る人、物がなにひとつないと感じた。
誰に何を聞けばいいかわからない。どうしたらいいかわからない。


なにを調べてもピンとくるものがなにも出てこない。

呼吸をしているのがやっと、だった瞬間のことを覚えてる。(死を意識したことはいちどもありません。それはオプションとしては一度もよぎったことありません)


ニューヨークから帰国して半年は、人生の中でほんとうの、いちばんの「地獄の時間」だった。


それまででもつらいことはたくさん経験していた。家族の中での問題。愛犬が死んだときとか。


だけどそのとき、自分が内側で作り出すものしか「本当の地獄」にはならないんだということもしった。外側の要因のつらいことは、ほんとうの地獄じゃない。




文字どおり、それまでの人生が「陽」であったならば、まるっきり逆の心や世界を見た。

そうしたら、他の人たちの心の葛藤や苦しみ、悲しみ、も手に取るようにわかるようになった。

急に世界には「緊張して、縮こまってる人たち」が増えた。
わたしが認識できるようになったから。
みんなの恥や自己嫌悪なども認識できるようになった。



結論、わたしはニューヨークでのおそろしい体験、その後のもがきを経て、


過去一強くなった。


なにもかもを乗り越えたのです!という感動的な意味じゃなくて、

落ちて落ちて落ちて落ちてこの世の最果てまで落ちたから。
底なし沼にハマっていき、底におち切ったと思ったらさらに落ちる。

これ以上落ちることができない底まで行った。

「あーこれが"狂人の入り口"か。」と思ったことを覚えている。


底まで落ち切ったから、

最強になった。



「底」にパニックになりながら落ちつづけ、落ち切ったときにはたとまわりを見渡してみると、大したことなかった。


こんなもんかい。落ち着いて冷静に見渡せば普通じゃん、って思った。


だから強くなれた。いちばんの恐怖は、「恐怖を見つめない恐怖」なんだ。



ほんとうのポジティブは、ほんとうのネガティブをも包容したところにある。


ネガティブもポジティブも包容して強くなったいま、


20代前半の天真爛漫で闇を知らなかった太陽みたいな心だったころに戻りたいかと言われたら、絶対に戻りたくない。


陰と陽を両方受け入れてはじめて、強くなれた。ほんとうの意味で。

あの時あの経験がなかったら、


私は歳をとっていく中でじわりじわりと何十年もかけて向き合わざるを得なかったと思う。


荒療治だった。ほんとうにしんどかった。だけどそのあとは世界がもっともっともっともっともっと美しくなった。泣きたいくらい。


みんなの心が嬉しい。どんなものも。
意地悪を向けられても、その人の心の葛藤が愛しい。


人の信じられないくらいの愛の深さや優しさも一気に認識できるようになった。

これまで感じたことのない深さの感謝。


何もかもがほんとうに愛すべきもので美しいと心から気づくことができた。


元気なあなたも好き。だけど悲しいあなたも、自己嫌悪になってるあなたも。
いや、この私だけは見せられない、 って思ってる部分も。

絶対大丈夫。わたしは愛せる。


ぜんぶ同じくらい尊くて美しい。

って思う。


私は言葉がキツイと受け取られることがあるけど、「あなた」と繋がりたいだけです。



一番の真っさらな場所から。いちばんの本心で。

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