旦那様はサンタクロース(2)
あの日、彼が私にプロポーズしてくれた日、私達は洋食屋さんを出て、しばらく散歩しながら話を続けた。近くの公園では、桜の花が咲き始めていた。
彼は公園のベンチに自分のハンカチを広げ、私に座るよう促した。私がそこに腰を下ろすと、彼も隣に腰掛けてはにかみながら言った。
「ありがとう。あんな風に言ってもらえるなんて…。」
「当たり前じゃない!素敵ね~♡」私はお酒も入ってないのにうっとりとして答えた。
「あっ、でもこのことは君と僕の秘密なんだ。」彼は急に小声になって、口の前に人差し指を立てた。
「えっ、そうなの?」私も思わず両手で口を覆いながら、周りをキョロキョロしてそう言った。
さっきお店では堂々と自分はサンタクロースだって言ってたのに…と私は思ったが、それは黙っていた。お店では周りに誰もいないタイミングだったし、それほど大きな声でもなかったから…まぁ、きっと大丈夫なのだろう。私がそんな考え事をしていることなど気にもとめず、彼は目の前の宙を見つめて続けた。
「国によってはもっと厳しく、恋人でも、配偶者でも決してその秘密を知られてはならないとしているところもあるんだ。日本はまだ、配偶者になる人には告白してもいいきまりだから緩い方だよ。」
「何で知られてはいけないの?」
彼は私の方を振り返ってこう答えた。
「よく考えてごらん。子どもたちの夢が壊れるだろう?」
「ああ…そうか。」
「うん、だから君には話したけれども…その、しょ、将来生まれるであろう…ぼ、僕達の……子どもにも、これは教えることはできないんだ。」
「そうなの?」
「ある程度の年齢になるまではね。」
「ある程度って?」
「16歳だ。」
「そういうきまりなの?」
「うん、僕も16の冬に父から聞かされたんだ。」
(えっ?お父さん?いいの、それ私に言っても?)
「今、それは言ってもいいのか?って思っただろう。」
「うん…。」
「いいんだ、父はもう引退したんだ。」
「そっか…おじいさんまで出来る仕事じゃないんだ…?」
サンタクロースはおじいさんなのに…。私がそう思っていると、彼は笑って言った。
「ああ、アレはおじいさんに見せてるだけさ。そういうイメージが定着してるからね。だから僕だってその時は変装するのさ。」
「そう、なんだ。」
「ああ、サンタクロースは過酷な仕事だ。とても老人には勤まらないよ。」
これが彼からの告白の全てだ。
それがどんなに大変な仕事か、その時の私にはさっぱり分かってはいなかった。けれども、これからはずっと彼と一緒にいられる…そう考えるだけで幸せな気分でいっぱいだった。
私達はその夏、身内だけでひっそりと結婚式を挙げた。
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同じ絵の使い回しですみません(笑)
(3)へ続きます。
旦那様はサンタクロース(3)
kanekyo12|note(ノート)