太陽と月と地球(1)
俺と日比野は幼なじみだった。
社交的な日比野にはいつだって周りに人が集まってきた。見た目は派手な奴だが本当はすごく気遣い屋だって事を俺は知っている。
俺は自分から遊びの輪に入れないタイプだった。それを、さりげなくグループに入れてくれたのは日比野だった。
日比野とはそれ以来の付き合いだ。
日比野は勉強よりはどちらかというとスポーツが得意なタイプだったが、小学校ではそういう奴の方が人気者になれる。俺は勉強では日比野に勝てても、とうてい人気者にはなれそうもない、気の小さい、運動もできないつまらない奴だったから。
だから。
いつだって眩しかった。日比野が。
それでも。
日比野はいつだって俺の隣にいたんだ。
アイツが現れるまでは。
寺山サスケ。
見た目は小さくて特にどうということもない普通の奴だが、人の懐に入るのが上手い。甘え上手な感じの奴だ。だが、どう取り入ろうと、日比野はそれによって友達になったりするのではない。日比野はいつだって誰に対してもオープンなだけだ。誰に対しても普通に優しいのだ。だから寺山が特別なんじゃない。日比野にとってはワンノブゼムだ。
日比野と俺は特に何かで繋がっていた訳ではない。幼なじみで高校まで一緒だというだけだ。部活も特にやっていない俺と、サッカー部だった日比野。だが、ついこの前日比野は急に部活を辞めてきた。
ぽっかりと空いた放課後の時間。帰り支度をしていた俺に日比野の方から声をかけてきた。
「久しぶりに、一緒に帰らね?」
*
「何かあったのかよ、小学生からずっと続けてきたサッカーを辞めちゃうなんてさ……」
「んー、そうだな。なんか色々とめんどくさくなっちゃった感じかな。大して才能が無いことも分かってきちゃったしね……」
「なんだよ、めんどくさいって。1年でレギュラーになったのお前くらいだろうがよ」
「まぁね。言っても優(すぐる)にゃわからないよ、サッカー部内の事だから」
そう言われると何も言い返せなかった。
ただ、俺はこうして日比野が俺に声をかけてきてくれた事が、俺を頼ってきてくれたみたいで嬉しかった。
ところが。
同じサッカー部だった寺山も日比野の後を追うようにして部活を辞めてきたのだ。
学校からの帰り道が何故か3人になった。
別にそれは構わない。
だけど、寺山が加わってからというもの、2人はサッカー部内であった話を頻繁にするようになった。俺は蚊帳の外だ。
それでも一緒に帰っていたのは、日比野が俺にもサッカーとは関係のない話を……例えば、その時観たい映画のことや、学校のテスト対策の話などをしてきたから、俺も完全に会話からこぼれてしまう事はなかったのだ。
だけど、なんだろう。この居心地の悪さは。
なんだかそんな風に感じる自分が嫌だった。
「月村くん、どうしたの? あ、僕にも数学教えてよ。月村くん、数学はホントよくできるもんね!」
「あ、うん……実際の問題で質問してくれれば、俺にわかる範囲で答えるけど……」
「けど? 何?」
「え?」
「君さ、得意な事でもどうしてそう自信なさげなの?」
こいつは喧嘩売ってんのか?
俺が黙ったままでいると、寺山はすぐに屈託のない笑顔になってまた元の他愛もない雑談に戻っていった。
何だこいつ。
何だこいつ。
何だよこいつ。
俺の思考は見事にそこでフリーズした。
(つづくかも?)