旦那様はサンタクロース(5)
夕べはお化粧も落とさずに眠ってしまったようだ。部屋には脱いだ服が散乱し、生活の澱が関東の春先の雪のようにうっすら降り積もっている。
とりあえずインスタントコーヒーを淹れる。カーテンをあけて、散らかった服を片付けて、食パンをオーブントースターに放り込む。
冷蔵庫に残っていたトマトとキュウリをスライスし、フライパンでベーコンエッグを作る。マーガリンを塗ったトーストにそれらを全部のせて、マヨネーズをたっぷりかけてサンドイッチにする。
パクッとひと口かじる。
「ん~、幸せ♡」
足をばたつかせながら一心に食べる。
それらがすっかりお腹に収まると、私は大きな伸びをひとつして、携帯をチェックする。
「こちらは大晦日の蕎麦屋みたいな騒ぎだよ。そっちはどう?」
「明明後日の朝には帰るから、もし寂しいようだったら僕の実家に行って過ごすといいよ。」
困り顔のサンタクロースがペコペコしているスタンプが画面に揺れている。夕べの夜中2時半頃のタイムスタンプだ。
「フフッ…何それ…。」
とりあえず、いつものうさぎのスタンプで「OK!」と「ありがとう」だけ送って携帯を閉じた。
「よし!」
私は仕事の荷物と服を2~3日分、キャリーバッグに詰めて、出かける支度をした。
歯を磨きながらお姑さんにメールを打つ。
彼の実家には結婚前にご挨拶に1回、結婚後にお食事に呼ばれて1回、計2回しか行ったことがない。別にすごく遠いわけでもないけれど、私の職場を挟んで、ちょうど今私達の住んでいる家から真反対の辺りにあって、私の職場からは同じ位の距離の所だったから、通勤にはそれ程困るわけではない。
今まで疎遠にしてたのに、急に思い切った行動に出たのには私なりの訳がある。彼の両親に色々聞きたいことがあったからだ。
ピンポーン!
「はい!あら!優子さん、いらっしゃい!どうぞ、あがって」
笑顔で迎えてくれるお母さん。
「お邪魔します。」
部屋に上がると、コタツにあたっていたお父さんも
「いらっしゃい!よくきたね」と迎えてくれた。
「すみません、2~3日お世話になります…。あ、明日と明後日はここから仕事に行きます。ご迷惑おかけして申し訳ありませんが…。」
私がそう言って手土産を渡すと、すかさずお母さんも、笑みを浮かべながらこう言った。
「ううん、遠慮しないで。ここはあなたの家でもあるのよ。いつでも遊びに来てくれて構わないわ。そろそろあなたが来るんじゃないかと思って待っていたところなのよ。」
「えっ…。」
「聖人(まさと)のことで、色々聞きたいことがあるんじゃないかと思って。」
「……はい。」
こうしてクリスマスの日まで、私は彼の実家で過ごすことになった。
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(6)へ続きます。
果たしてクリスマスまでに終わるかな~。
ここまで読んで下さっている方達、本当にありがとうございます。もう少しおつきあい下さいませ。
旦那様はサンタクロース(6)
kanekyo12|note(ノート)