【小説】交換短歌〈再掲〉
「週刊BLマガジン」をご覧の皆さま、こんにちは、かねきょです。
以前も書きましたが、私の場合BLと言っても過激でない、ソフトなものを思春期の頃から何となく読んで育った感じなのは前にもお伝えした通りです。
で、漫画でも小説でも「これってちょっとBLぽい?」という目線で、見るのがふんわりとした楽しみなもので、そういう目線で見た漫画かあるいは小説でもご紹介しようかな……と思いつつ引っ張り出してきてまた読み直す時間が取れないまま今日まで来てしまいました。
猫野サラさんが、濃ゆ〜いBL作品の紹介文を書いてらっしゃるのでお分かりかと思いますが、昔読んだあれやこれを思い出して書く、なんて適当な事はできないのです。作品を紹介するというのは。そこに鋭い考察や、発見や、感動ポイント……などなどがないと!
と思うにつけ、筆が遠のいててすみません。愛のある紹介の為に、もう少し待ってて〜(と今自分でハードル上げたのではないか? ……まいっか)。
さて。
以下の作品は以前、海見みみみさん(今はnoteを離れていらっしゃいます)が主催された第1回noteショートショートフェスティバル(略して第1回noteSSF )に出した私の小説です。字数制限もあり(字数ギリギリでした)、今読むとすごく拙い文章ではありますが、どでかごんさんとのコラボ作品でもあり、あの時はお陰様でコラボ部門で賞をいただきまして、とても思い出深い作品となりました。
まぁ、お察しの通りそういう作品です。
こう書いてしまうと思い切りオチのネタバレになってしまう訳ですが、以前発表したものでお茶を濁そうとしてるのでまあ良いのです。
前置きが長くなりましたが、では、小説をお楽しみください。はじまりはじまり〜。
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【コラボ作品】「交換短歌」(2016年2月作品)
僕は携帯電話を持たない。
家族共同の物だが、家の電話とリビングに1台あるPCで大体の連絡は取れるし、友達も少ないのであまり困ったことはない。
「ただいま」
「あら、早かったのね。部活は?」
「試験一週間前だからない。今日の晩飯何?」
「塩鯖と筑前煮、ワカメと豆腐の味噌汁、キュウリのぬか漬け、ほうれん草のお浸し、以上」
(よし!)
僕は心の中でガッツポーズを取りながら、自分の部屋へ行く。母は家の1階にある稽古場で日本舞踊を教えている。忙しい中、時間のある時にご飯だけは作っておいてくれる。毎日の弁当も。そして必要以上に干渉してこないのでとても助かっている。父は普通の勤め人だ。我が家の家族構成は以上である。気楽だ。
「さて、試験勉強でもするか」
鞄の中身を1つずつ出していくと、教科書や参考書に混じって見慣れないノートが1冊出てきた。自分では使ったこともないA6サイズのスパイラルノートだ。表紙はざらっとした青いプラスチック製で、裏は固めのボール紙でできている。角の2ヶ所が4ミリ程の黒い板ゴムで斜めに留められている。全く身に覚えがないノートだった。
僕の鞄に入っていたということは、恐らく学校で、何らかの原因でこのノートが僕の机の中にでも紛れ込んだということなのだろう。だが、いつの間に? 誰が? ――まるで見当がつかなかった。
少し逡巡して、結局中を開けてみることにした。
音読の順番まわる授業中目は教科書に耳はあなたに
地中にて十七年の時を経てあなたに会うためだけに羽化する
数学を知らないはずの蝉なのに素数ゼミとは不思議な虫よ
ほろ苦いブラックコーヒー飲めたなら少しは君に近づけるかも
爪を切りやすりをかけてととのえる無心になれるほんのひととき
これはあれだ。五七五七七。和歌だ。あ、短歌か。どっちでもいいや。
たった1頁。5首だけ。持ち主の名前もない。これでは手がかりが少なすぎる。そもそも短歌って何だ。日記でもないし、中身が嘘か真実か分からないのに、これで持ち主が分かる訳がない。
いや、少しは分かるか。
少なくとも同じ学校の生徒だろう。内容からして女子か。十七年が作者の年齢なのか、虫のことか分からないけど、作者だとしたら高校2年生で同い年か。今分かるのはここまでだな。
翌日、そのノートはそのまま学校に持って行き、自分の机の中に置いてきた。
更に翌日、僕はノートの有無を確認するため、少し早めに教室へ向かった。幸いまだ誰も来ていなかった。ノートは――あ、ある。
おもむろに開く。
振り返り目が合うたびに上気する髪から耳から睫毛から飛ぶ
またねっていい言葉だねだってまた会えるってことなんだよね君?
だとしても明日地球が無事である保証はどこにもないわけだけど
「気にせずに普段通りの君で来て」なこと言ってもお洒落もさせて
練習もなしのぶっつけ本番で出てくる出てくる私の何か
増えている。しかもなんだこれは。このシチュは……まるでデート。
クラスに人が来はじめたので僕は慌ててノートを机の中にしまった。
謎だ。犯人は一体何が目的なんだ。明らかにわざとこのノートを僕の机の中に入れている。それもご丁寧にわざわざノートを一度回収し、新たな歌を書き込み、そしてまた戻す。それを誰にも悟られないように? 何のために?
僕はその日一日ほとんど上の空で過ごした。家に帰ってからも試験勉強なんかひとつもしないで、ずっとそのノートを眺めていた。
恐らくこれは僕への挑戦状だ。このノートの持ち主からの。しかし一体誰なんだ。僕はクラスの女子の顔を1人1人思い浮かべてみようとしたが、残念ながら誰の顔もはっきりと思い浮かべることはできなかった。誰だっていい。とにかく明日またこのノートを机の中に入れておくことにした。ちょっとした実験を仕掛けて。
万が一地球が無事なら明日会おう保証じゃなくて約束でいい
返歌だ。これ一つひねり出すので僕には精一杯だった。さて、これがどう出るか。
僕は2日間、眠れない夜を過ごした。
翌々日、朝早く行くと既にノートは戻ってきていた。
澄み切った空には雲も許されぬ許されるのはただ光のみ
優しさが人を壊すことがあると教えてくれてありがとう君
明日もまたいい人でいられますように神に向かって手を組み祈る
何か苦しんでいるのだろうか。僕は少し心配になった。昼休みにこっそりトイレの個室にノートを持ち込み、急いで返歌する。
今日もまたいい人でいられましたねと君に向かって神が手を振る
僕はこの日はノートを持ち帰らずにこのまま置いて帰った。
翌日1首だけだが、僕の返歌に対する返歌が来ていた。
千早振る神が手を振り風が吹く私の頬を撫でるごとくに
こうして相手も知らぬまま僕と彼女は歌のやりとりを続けた。
そんなある日、折しもバレンタインイブの前日。僕は見てしまった。ヤツが僕の机にノートを入れる所を。そんな……。
中を開くとこうあった。
君に明日好きだと告げて関係を終わらすことが目標だとは
(了)
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※作中の「僕」の返歌はどでかごん( https://note.mu/dodecagon ) さんによる作です。ご協力ありがとうございました。