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「夏のコンビニ」爆音とともに暴走族が訪れる !

近年、あまり見掛けなくなりましたが、私の住む地域ではいまだに深夜、「暴走族の爆音とパトカーのサイレン」が鳴り響くことがあります。
 警視庁のホームページを見ると、「暴走族のグループ数や構成員数は、総体として緩やかな減少傾向にあるものの、その中には依然として活発に活動している者も多数おり」とあるのを読み、コンビニオーナーだった時の記憶がよみがえりました。


SOSで店に駆け付けると、火の玉が飛んでいた

深夜、携帯電話が鳴り響いた。電話に出ると「ヒィエー……」と従業員の叫び声。「何があったんだ」と聞くと、「暴走族が、ヒィエー、オーナー、助けて!!」。彼はコンビニ経営を始める前の会社の後輩。開業当初、深夜勤務の従業員が見つからず、会社を辞めていた彼にお願いをし、週に何日かシフトに入ってもらっていたのでした。

 自分の店に“緊急出動”すると、改造した単車が10数台。20人ほどの暴走族が店前の駐車場に集結していました。そして、目の前には火の玉が飛び交っている。何かでつくったボールに火を付け、それでサッカーをしていたのでした……。

 それでも、SOSの電話をしてきた従業員が心配なので、サッカーをする集団の間を通り、店内に入ろうとすると、突然、現れた私に暴走族が「どちらさまですか?」とていねいな口調で聞いてきた。

「自分はこの店の人間だけれど、従業員が慌てて電話をしてきたから駆け付けたんだ。ところで、何があったの?」と、こちらもていねいな口調で語り掛けると、「中の従業員のぞんざいで人を見下したような接客に頭にきた。だから、恫喝したんだ」との答え。「それは申し訳なかった。きちんと教育する」と彼らに詫び、「ところで、その火の玉は何?」と聞くと、「トイレットペーパーを丸めて火を付けた」とのこと。

 深夜の騒動は近所迷惑になるので、「頼むから勘弁して」と話していると、サイレントとともにパトカーが到着。そこから警察官が降りると同時に、彼らは火の玉だけを残し、爆音とともに闇夜に逃走していきました。
 その場は収まりましたが、駐車場には彼らの宴の跡(散乱したごみ)。店内に隠れていた従業員に「もう、彼らはいないぞ!安心しろ!」と言うと、笑顔で「オーナー、警察より早く来たねー、すごいねー」と。そこで、「お前、そんなことに関心するよりも、彼らに聞いたけど、トラブルの原因はぞんさいな接客だというが、本当にそんな態度をとったのか?」と聞くと、「だって、あいつらは暴走族で……」と言う。「その態度が伝わるんだよ。善悪は差し置いて、みんな、プライドがあるんだよ」と言い、その場は終わりになりました。結局、この助言を聞くことなく、その従業員は数カ月後にやめていきました。

少年たちと語り合い、彼らを諭して思ったこと
私は暴走族の少年たちをひとくくりで「悪党だ!」「不良だ!」と糾弾することためらいを感じます。しかし、現実には彼らは深夜、店の前にたむろし、時に店内を徘徊し、中にはチームで商品を盗むといった振る舞いに出ます(私の店も実際に被害を受けました)。

 非行に走った彼らが社会からドロップアウトし、自己主張の手段としてアウトローの行動をとるのは、生まれも育ちもさまざまで、いろいろな悩みを抱えているからのように思います。私はコンビニを開業して以来、時には語り合い、彼らを諭してきました。

 ある暴走族の少年に「自分、暴走や非行を繰り返していて、将来の夢はないのか?」と聞いたことがあります。すると、「いや、俺、本当は温かい家庭が持ちたいんだ。だから、大工になって親方になりたいんだよ」という言葉が返ってきました。私は「温かい家庭と大工の親方か! 素敵な夢があるじゃないか!頑張れよ!」と言いました。

 その後、属する暴走族チームが連続集団傷害事件を起こし、彼が逮捕されたという噂を耳にしました。少年鑑別所から戻った彼が店に立ち寄ってくれた時、その事件の顛末を話してくれましたが、「もう二度と鑑別所に戻るなよ」と諭し、真っ当な人生を歩んでくれることを願いました。

 しかし、その願いもむなしく、彼は保護観察中にまたも事件を起こし、少年院に送致されました。少年院を退院した彼からはしばらく音沙汰がありませんでしたが、ある日、ひょっこり、店に顔を出してくれました。「おー、いい顔しているな!仕事、頑張っているか?」と声を掛けると、「今はとびの親方になって、社長業で頑張っています」と照れながら答えてくれました。

 毎年、社会になじめなかったり、暴走する若者たちが現実に生まれてきています。私は事故で亡くなった友人を思い浮かべながら、こうした若者たち一人一人と語り合うのですが、彼らと接し、さまざまな思いを抱きます。

暴走族はどのように誕生したのか?

そもそも、暴走族とは何なのでしょうか?

 戦後の経済成長とともにモータリゼーションが発達しましたが、これを背景に1960年代、オートバイなどによる集団走行が若者の間ではやり、彼らが全国各地で暴走を始めたといわれています。爆音をまき散らし、曲芸的な乗り方を競い合う「カミナリ族」に始まり、「マッハ族」「サーキット族」と、その名称を変えながら70年代に入り、無謀運転や迷惑行為などを繰り返す「暴走族」という集団に変貌し、社会問題化していきました。

 しかし、78年の道路交通法改正で状況が変わります。暴走行為の規制強化として「共同危険行為」が設けられ、警察の取り締まりが厳しくなって以来、実際に迷惑を被った人や危険な目にあった人がいなくても、集団暴走行為などが罰則の対象になりました。

 これは、被害者の証言が不要になり、現場の警察官の確認のみで逮捕が可能になったということ。これに伴い、集団暴走行為に対する罰則が「2年以下の懲役、または50万円以下の罰金」、空ぶかしなどの騒音運転や消音器不備車運転に対する罰則等は「5万円以下の罰金」に引き上げられました。

警視庁は暴走族を2つの形態に区別している
 警視庁では、暴走族を「共同危険型暴走族」と「違法競争型暴走族」の2つの形態に区別し、それぞれの実態や動向に即した取り締まり、各種対策を推進しています。
 以下、警視庁交通課のホームページを参考に解説します。

・「共同危険型暴走族」
 二輪車や四輪車で公道を爆音暴走し、一般車両や歩行者に対して著しい危険や迷惑を及ぼしている暴走族をいいます(一般に認識されている暴走族を指します)。特徴は暴走行為の際に金属バットや鉄パイプなどの凶器を携帯したり、縄張り争いによる対立抗争事件やグループ内リンチ事件、さらには一般の通行者(車)を巻き込んだ殺人事件を発生させるなど、悪質、粗暴化の傾向が見られること。構成員数は減少傾向にありますが、グループの小規模化が進行しており、年齢別では大半が少年。構成員の職業は無職者、中学生、高校生が多いといいます。

・「違法競争型暴走族」
 主に山間部や港湾埠頭など比較的、車の通りが少ない場所(路線)で互いに運転技術や車の性能を競い合う目的で暴走行為を行い、一般の通行者(車)に著しい危険や迷惑を及ぼしている暴走族をいいます。構成員、走行回数とも減少傾向にあり、少年の比率も低く、構成員は会社員、大学生、専門学校生が多くなっています。

暴走族が高齢化、多様化、暴力団の下部組織化している
 近年、暴走族OBや旧単車族などの再結成(旧車會)やVIPカーチームの出現など、暴走族の高齢化と多様化が指摘されています。

 コンビニにたむろする暴走族は大半が少年たちによる「共同危険型暴走族」だと思われますが、彼らは集団暴走や集団傷害事件、ひったくりなどの事件を起こすだけでなく、暴力団の組員や準構成員になっている例もあり、組織的な恐喝行為に及ぶ危険性もあります。勢力の誇示や対立抗争に備えて、暴力団の後ろ盾を得ているグループが多く、その見返りとして上納金を収めているケースが見られるそうです。

店を暴走族のたまり場にさせない3つの対策

彼らは深夜から早朝にかけてやってきます。一度、店の前にたまると、次もまたやってきます。そして、しょっちゅう、たむろするようになります。
 ここではそれを防ぐ対策を提示します。

(1)人として温かく接する(心と心)
 来店する彼らに笑顔で語り掛け、人として温かく接し、和やかに店前にたむろさせないようにする方法です。『北風と太陽』に例えると『太陽』になります。オーナー自らが体を張り、彼らに語り掛け、夢や希望を持たせ、何かやりがいを見つけることにつながれば、地域貢献にもなります。しかし、現実はなかなか難しいのは前述の通りです。

(2)隙を見せない(『割れ窓理論』)
 コンビニには最低限やるべきクリンリネス、お客さまへの声掛けなど、基本業務があります。これを徹底するのです。店側が隙を見せると、彼らは群れて何度もやって来ます。汚い店、だらしのない従業員のいる店、ろくにあいさつもしない店、見て見ぬふりをする従業員がいる店に彼らは付け込みます。

 まずは店に隙をつくらないこと。そして、オーナーが法律や条例を知ることが大切です。集団暴走(共同危険行為等の禁止)、ナンバーの隠蔽、ノーヘルメット、2人乗り、3人乗りなど「法律や条例に抵触する行為」を各都道府県の条例から調べ、理論武装をしましょう。

 そうして、オーナーが『北風』に徹して、店に暴走族を寄せ付けないように、日没から朝方まで「深夜徘徊だ!帰りなさい!」と口うるさく言い続け、彼らが集まりにくい環境をつくるのです。

 もちろん、未成年へのたばこ、酒類の未販売も徹底します。暴走行為前に酒を買い、レシートを所持したまま暴走し、警察の取り締まりで逮捕されたり、事故起こしたりして飲酒および酒の購入が発覚した場合、それを売った店の酒販免許が剥奪される事例も起きています。

(3)警察や行政と連携する(助けを求める)
 暴走族を卒業して暴力団に入る少年もいます。つまり、暴走族が暴力団の下部組織となっているケースも多いのですが、こうした暴力を最終手段とする相手とまともに渡り合うことはできません。

 だからといって、その対抗策として、その筋の人(暴走族OBや違う暴力団)に間に入ってもらうことは、暴力団対策法、指定暴力団員に暴力的要求行為の要求などの禁止に触れますし、別のトラブルのもとになる危険性も高いので、絶対にやめてください。

 暴走する若者が暴徒化し、手に負えなくなる前に警察と連携しましょう。

暴走行為に関連する禁止行為を知っておこう
 自動車等を準備して道路又は公共の場所に集結すること。これだけで条例違反になるので、警察に通報してよいのです。一番、大切なのは店の判断です。営業上、迷惑だったら、店を守るためのアクションを起こすこと、「110番」への通報をすることです。

 しかし、困るのは警察の対応に温度差があること。全国の警察当局における暴走族や少年非行への取り組み姿勢や現場レベルの対応には差があるので、日頃から管轄の派出所の警察官と人間同士のコミュニケーションをとっておくことが大切です(基本は「お疲れさまです」といった声掛けとあいさつです)。

 また、警察は「こと」が起こらないと動かない(動けない)ことも知っておきましょう。

「暴走族が集まっていて、怖いので、助けてください!」「挙動不審な人がいて不安、心配なので、助けてください!」「店で騒ぐ人がいるので、助けてください!」「出ていくよう要求しても居座り続けるので、困っています!」と、今、起きている「こと」を警察に正確に伝えることが重要です。
 それでも警察が動かなければ、報告履歴をもとに公安委員会に苦情を申し入れ、警察が動かざるを得ない状況に持っていくのも1つの方法です。

 光に吸い寄せられるカゲロウのように、夏の訪れとともに、コンビニの明かりに集まってくる暴走族。けたたましい爆音を立てながら、彼らはコンビニの駐車場に集結し、バイクを降りた後は店の犬走りの前に座り込む。そして、店はやがて、彼らのたまり場になります。

 それをやり場のないエネルギーを持て余す若者の「青春の1ページ」と見過ごせば、その場をやる過ごすことはできるでしょう。しかし、その時々で適切な対処をしておかないと、「あの店は暴走族がたむろしているから行きたくない」「店の前にガラの悪い若者がいて店内に入れない」と、お客さまの足が遠のいていくばかりです。

 暴走族が起こした営業妨害を放置した場合、店舗運営に支障をきたすことは確かです。1人で悩んでいるコンビニオーナーはチェーン本部、防犯協会、所轄の警察署へ相談に行くことをお勧めします。
(金子青春)

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