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行政法研究者の平先生に聞いてみた(要約版)
弁護士としての活動と同時に行政法の研究者としても活動をされている平先生に対するインタビューを要約しました。
ぜひ動画もご覧ください。
1.対談形式の要約
【北】
本日は「弁護士の行政法実務と研究」というテーマで、弁護士・研究者として活躍されている平先生にお越しいただきました。平先生、どうぞよろしくお願いいたします。
【平】
よろしくお願いいたします。
【北】
まずは簡単に、自己紹介をお願いできますか?
【平】
はい。私は東京弁護士会所属の弁護士で、平祐介と申します。実は司会の北さんとは大学のゼミの同期という間柄で、今日こうしてお話しできるのはとても懐かしく、うれしく思います。
私は行政法や憲法領域の研究を続けながら、実務でも行政事件を中心に取り扱っています。かつてはロースクールで専任教員(助手・助教や准教授に準じる立場)として9年ほど勤務し、学生指導や論文執筆、研究会発表などを行いながら、並行して弁護士として実務案件もこなしてきました。現在は非常勤で講義を受け持ちながら、行政法絡みの事件処理に注力しているところです。
【北】
なるほど。平先生は行政法を専門に研究・実務を手掛けられていると伺いました。弁護士の中でも行政事件をやりたい、または興味があるという方は少なくないと思うのですが、件数自体は多くない印象もありますよね。どういったきっかけで行政法に強い関心をお持ちになったんでしょうか?
【平】
そうですね。もともと憲法が好きで、そこから行政法にも興味を広げていった、という経緯があります。憲法は非常に抽象的な部分が多いのですが、それが行政法レベルに落とし込まれて具体化されていく。その流れが面白くて、ロースクール在籍時代や司法修習後も、行政法関連の文献を読みあさりました。最初に入所した事務所では労働事件や刑事事件も扱いましたが、「実は行政法も好きなんですよ」と周囲に伝えると、行政事件をちょこちょこ紹介していただけるようになりまして。調べながら対応するうちに、さらに興味が深まったという感じです。
【北】
なるほど。大学やロースクールでの研究職につかれた経緯も、そのご興味が背景にあったんですね。とはいえ、研究職として本格的に学問を進めるってなかなか大変なイメージがあります。実際、どんな活動をされていたのか教えていただけますか?
【平】
2012年頃から9年間は、日大のロースクールで専任教員として勤務しました。授業や学生指導のほか、自分の研究テーマについて論文を書く、学会や研究会で報告する、といった活動が中心になります。行政訴訟の判例分析を深めたり、行政裁量と国民の権利との関係を論じたり。
先行研究を徹底的に洗い出して読み込む作業は非常に大変ですが、学問的な批判を受けたり、他の研究者とのディスカッションを経て考えをブラッシュアップしていく過程は充実感がありました。
【北】
研究と実務を両立させるのは簡単ではないですよね。専任で大学に勤務しながら、どのように事件を扱ってこられたのでしょう?
【平】
ロースクールでは授業の曜日が固定だったり、研究に時間を割かねばならなかったりで、正直なところ、扱える事件数には限界がありました。ただ大学側が「弁護士活動をまったくするな」というわけではなく、ある程度は許容されていたので、可能な範囲で受任していました。行政法関連の相談が来ると、研究で得た知見を実務に活かせるのはやはり魅力でしたし、逆に実務を通じて「こういう問題こそ研究したい」というテーマが浮かぶことも多かったです。
【北】
専門性を高める好循環だったわけですね。今はロースクールでの専任を離れ、非常勤という形で教える機会は残しつつも、より事件に力を入れておられる印象です。コロナ給付金の問題や、風俗営業に関わる営業許可・補助金の話題など、SNSでも情報発信をされていますよね。
【平】
はい。実は私自身、東京都の建築審査会の外部委員をしていた時期もあって、あまり都の対応を公に批判しにくい面もあったのですが、それを辞した後は積極的に発言できるようになりました。行政側の処分や不許可・不支給処分の適否については、行政法の観点で見れば大いに論点がある場合があるんです。
特に補助金や給付金は行政裁量の余地が大きい一方で、いわゆる「国民感情」や「公益性」をどう捉えるか、憲法上の表現の自由や平等原則とどう折り合いをつけるかなど、研究対象としても面白いですし、裁判で争うなら相当骨がある分野ですね。
【北】
研究と実務の橋渡しがまさに平先生の強みなのだろうと感じます。実際、行政事件は「どう訴えたらいいのか」「何を訴訟対象にするのか」など、難しい点が多いと聞きます。たとえば「処分が出る前の段階でどんな交渉をすればいいのか」とか、もしくは「もう処分が降りてしまった後でどう救済するか」など、手探りになりがちですよね。
【平】
そうなんです。行政法自体は幅広いのに、扱う弁護士さんが限られている状況がある。実際に行政事件のご依頼は、私の事務所のウェブや記事、SNSなどをきっかけに来ることが増えていますし、「困ったから助けてほしい」と同業の弁護士さんから相談を受けるケースもあります。私も自分だけでは無理な大規模事件の場合、ほかの行政法に明るい弁護士さんとチームを組みます。行政法の専門家同士で協力すれば、より多角的な戦略も立てられますし、相談いただければ紹介もできます。
【北】
そもそも弁護士が研究者として学問的な視野を持っているだけで、裁判での説得力や意見書のクオリティが大きく変わりますよね。行政サイドの権限行使が妥当かどうか、憲法や行政事件訴訟法、判例の蓄積を引きながら精緻に詰める作業は、まさに研究の成果が生きてくると思います。
【平】
おっしゃる通りです。研究者の立場から論文を書いてきたことで、訴訟の要件や判例理論を整理して自分の主張に落とし込む作業が鍛えられました。実務的には“裁判官がそこまで読み込むか”というジレンマもありますが、それでもしっかりした法的基盤を示すのは重要です。
【北】
では、最後になりますが、これから弁護士を目指す方や若い先生方にアドバイスをお願いします。行政法に興味があるけど、どうやって専門性を身につけたらいいかわからないという人も多いと思います。
【平】
そうですね。もし本格的に研究したいのであれば、大学の大学院(修士や博士課程)に入り直して研究するという道もあります。弁護士をしながら研究を続けるのは大変ですが、研究の場で得られる知見や学会のネットワークは大きな強みになります。また、行政事件を扱う事務所に就職し、実務を通じて学ぶのもひとつの王道です。さらに、SNSなどで自分から情報発信をしつつ、同業の専門家にアクセスしてみるのも良いと思います。
【北】
「行政事件が来たけど何をどうすれば…」という場合に、平先生に連絡して相談するのも手ですね。
【平】
もちろんです(笑)。一人では難しい事件こそ、複数の先生とチームを組むのが良いですし、その際には私から他の行政法に強い先生をご紹介することもあります。行政法は手弁当案件が多く、収益面の問題があるのも事実ですが、クラウドファンディングなど新たな資金調達方法も増えてきました。社会的に意義のある訴訟を支えられる仕組みも広がっているので、今後は行政事件を取り扱う弁護士ももっと増えてほしいですね。
【北】
本日は、研究と実務を両立させてきた平先生のご経験を、たっぷりとお話しいただきました。行政法や憲法の研究が実務に生きること、そして今後さらに行政事件の分野が発展していく可能性を感じられる、とても興味深いお話でした。どうもありがとうございました。
【平】
こちらこそありがとうございました。もし行政法絡みでお困りのことがありましたら、ぜひお気軽にご連絡いただければと思います。
2.より時間がない人のために
導入(自己紹介・出会い)
平先生は東京弁護士会所属の弁護士で、大学の研究職経験(ロースクール専任教員)もある。
司会の北さんとは大学のゼミの同期。
行政法に興味を持ったきっかけ
もともと憲法が好きで、抽象的な憲法の理念が行政法で具体化される点に魅力を感じた。
ロースクール時代に行政法の講義・文献が新鮮で勉強を深め、実務でも行政事件を紹介されるように。
研究職についた経緯
弁護士登録後は刑事や労働事件を扱っていたが、行政法をやりたい熱意を周囲に伝えたところ行政事件の紹介が増加。
大学(ロースクール)に専任教員として入り、研究と学生指導を行いつつ実務も継続した。
研究職(大学勤務)での具体的活動
学生指導に加え、論文執筆や学会報告、研究会参加などがメイン。
行政法の先行研究を徹底的に読み込み、行政訴訟の判例分析などを行う。
研究職としての知見を実務に活かし、逆に実務案件が新たな研究テーマになる好循環。
研究と実務の関係
行政事件訴訟法の訴訟要件や裁量統制の考え方など、学説・判例を広く調べた経験が訴訟戦略に役立つ。
憲法の人権保障と行政法における裁量行使は密接に絡むため、研究で得た知識が説得力のある主張につながる。
ロースクール専任と実務の両立
大学側がまったく実務を禁止していたわけではなく、事件数を絞って担当。
授業や研究があるため多くは受任できなかったが、行政法関連の依頼には研究知見を活かし対応。
近年の行政法絡みの事件・SNSでの発信
コロナ給付金や風営法関連の補助金・許可の問題など、行政裁量の範囲や国民感情との関係を検討。
行政法の視点から問題点をSNSで発信し、報道機関にコメント提供することも。
行政事件への受任ルート
事務所のウェブ・論文・SNSなどをきっかけに直接相談が来る。
他の弁護士から「行政法に強い人を探している」と依頼されるケースも多い。
行政事件の難しさ・重要性
訴訟対象や訴訟要件、裁量統制の主張立てなど複雑で、他の弁護士が苦手意識を持ちやすい。
実務的には手弁当になりがちな個人事件も多く、クラウドファンディングなど新しい資金調達も増加。
若手弁護士や法曹志望者へのアドバイス
行政法を専門にしたいなら、専攻できる大学院に進学して研究者の道をめざすルートもある。
実務では行政事件を多く扱う事務所に就職して経験を積む、SNSなどで情報発信し専門家同士の交流を得る方法も。
今後の展望
行政事件だけで経営を成り立たせるのは難しい面があるが、企業サイドの案件も組み合わせるなど選択肢はある。
行政法のスペシャリストが増えてほしい。
実務で困ったら平先生に相談すれば、本人が受任・または知り合いの行政法弁護士を紹介可能。