
人身売買と闘うヒーローの指宿先生に聞いてみた(要約版)
労働事件、外国人案件に傾注し、 米国国務省から「人身売買と闘うヒーロー」として選出もされている、暁法律事務所の指宿先生に対するインタビューを要約しました。
ぜひ動画もご覧ください。
1.対談形式の要約
北(司会者)「本日はお忙しいところありがとうございます。さっそくですが、今日は暁(あかつき)法律事務所の弁護士・指宿昭一先生にお話を伺っていきます。よろしくお願いいたします。」
指宿(弁護士)「はい、よろしくお願いします。」
北「まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?」
指宿「私は指宿昭一(いぶすき しょういち)と申します。弁護士になって15年ほど経ちます。司法修習の期でいうと60期ですね。もともと労働者側の労働事件を扱いたいと思って弁護士になりました。それと同時に、外国人の在留資格にかかわる問題や人権問題にも長く携わっていて、事務所としては“労働”と“外国人”の2本柱でやっています。こういった事件をメインに扱う事務所は珍しいかもしれませんが、なんとかやってこれています。」
北「なるほど。私も同じ60期ですが、指宿先生は“ガチ弁護士”というか、“職人気質”が強いイメージがあるんですよね。労働事件や外国人の事件を中心にやられているということですが、その原点について伺いたいと思います。先生は弁護士になる前、労働組合の役員、というより“活動家”のような立場だったとお聞きしました。」
指宿「そうですね。私は大学卒業前後から小さな労働組合で“活動家”として動いていました。役員といっても報酬をもらうようなものではなく、アルバイトなどを掛け持ちしながら、やりがいで取り組む形です。最初に労働問題に関わったのは、学生時代にコンビニでアルバイトをしていたときに“労働組合を作ろう”という話になったのがきっかけでした。」
北「アルバイト先のコンビニで組合結成にかかわったんですね。どうしてまた、学生アルバイト同士でそんな動きが出たんですか?」
指宿「当時の店長や経営者側がアルバイトやパートを見下したような態度を取っていて、“みんなで辞めてやろうか”なんて話になったんです。でも辞めるだけではもったいないし、改善できるならしようと。“じゃあ組合作ったらいいんじゃないか”と私が提案して、そこから始まりました。ただ、結果的には雇い止めを受けてしまって、裁判までやったんです。」
北「学生の頃からそういう“闘うスタンス”があったんですか?」
指宿「大学(筑波大学)自体がわりと管理が厳しくて、学園祭の企画も自由にやらせてくれない。そこに対して“もっと自由にやらせろ”と抗議する学生運動があって、それに携わっていたんです。だから、もともと“社会を変えたい”とか“自由を獲得したい”という気持ちはあったかもしれません。」
北「そのまま就職ではなく、労働組合の運動を本格化させたわけですよね?」
指宿「そうです。組合の支援団体というか、生協で働きながら、中小企業で組合を作りたい人を応援する。バイトを掛け持ちしながらも、メインは組合活動みたいな生活でした。でもそれが面白かったんですよ。中小零細企業って最低賃金や残業代すら守られていないことが珍しくない。組合を通じて少しずつ改善が進むと、やっぱりやりがいを感じるんです。」
北「そこからどうやって弁護士を目指すことになったんですか?」
指宿「活動していると必然的に裁判や労働委員会の審理にも関わるんですが、当時お世話になっていた弁護士の先生が過労で倒れてしまって。その先生が“もう自分は引退するから、君たちの中から誰か弁護士になれ”というメッセージを病床から送ってきたんです。組合として会議を開いたら、他のみんなは尻込みして“指宿、お前が行け”となりました(笑)。それで27歳のときに司法試験を受け始めたんです。」
北「それから17回目で合格!というのは有名な話ですよね。途中で挫けなかったんですか?」
指宿「不思議なことに、毎年“今年こそ合格できる”と信じ続けていたんです。今振り返れば相当図太いんですが(笑)、ずっとそう思い込んでいました。それでも最後のほうでロースクールが始まるとなり、“もう2年でダメなら潔く諦めよう”と。そこからは本当に必死でした。結果的には2005年に合格し、2007年に弁護士登録をしました。」
北「そして開業されたのが今の暁法律事務所ですよね。最初から労働と外国人関係に注力していたんでしょうか?」
指宿「はい、登録してすぐ技能実習生の案件が舞い込みました。それ以前に労働組合経由で外国人事件に接していたこともあって、自然とそちら方面の相談が来たんです。もともと中国残留孤児の支援やイラン人家族の在留資格問題の手助けを、組合時代からやっていましたし。労働法と入管法の知識はある程度あったので、その延長ですね。」
北「なるほど。ところで先生、人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)に関する活動でも知られていますよね。昨年アメリカ国務省から“ヒーロー”として表彰されたと伺いました。あれはいきなり通達が来るんですか?」
指宿「事前に“こういう形で表彰するが辞退はしませんよね?”みたいな打診はありました。実はアメリカ国務省の人身取引担当部署とは、技能実習制度などの問題について、もう10年以上情報提供をしていたんです。日本の現状を毎年報告していた流れから、“人身取引撲滅ヒーロー”ということで選んでもらったようです。アメリカは南北戦争で奴隷制を廃止したという歴史的背景もあって、人身売買問題には非常に熱心なんですよね。」
北「技能実習制度って1993年ごろからありますが、やはり当初から問題が大きかったんですよね。」
指宿「はい。もともと“技術移転による国際貢献”という表向きの目的があるのですが、実態は単純労働力の受け入れだった。法務省は“単純労働は受け入れない”という方針を掲げていたので、技能実習という名目でしか入れられなかったんですね。その歪みがずっと引きずられているわけです。ここ数年、ようやく政治家や世論にも問題が認識されてきて、法務大臣も“抜本改革をする”と言い始めました。日弁連で私たちが出している意見書も、政府や自民党の関係プロジェクトチームでかなり読んでもらっています。少しずつ変わる兆しはあると思います。」
北「先生のように、労働現場を踏まえたうえで弁護士として声を上げる人は、やっぱり大きな意味があると思います。今後、後進の弁護士を育てるような動きはされているんですか?」
指宿「はい。実習生問題や入管問題の弁護士グループを立ち上げて、新人向けの勉強会をやったりしています。若いロースクール生や収集生の中にも、“外国人の人権に興味がある”という人は多いんですよ。ただ、この分野はあまり収入にならないので、事務所経営をどう回すかがネックではあります。そのあたりはクラウドファンディングや複数の弁護士による共同受任で負担を軽くするなど、試行錯誤しているところですね。」
北「お金にならなくても“やりがい”は大きいけれど、持ち出しばかりでは若手も続けにくいですもんね。そういう仕組みづくりが進めば、若手にもチャンスが広がりそうですね。」
指宿「そう思います。私自身、何とか15年間やってこられましたが、やっぱりこの仕事は大変なことも多い。でも、やりがいは本当に大きいんですよ。もし今の知識を持ったまま若手に戻れるなら、すでにある弁護士グループに参加する一方で、誰もまだ目を向けていないような社会問題を開拓したいですね。それが私の性分なんでしょうね。」
北「非常に面白いお話でした。今日は長時間ありがとうございました。最後に、これから弁護士を目指す方や若手の弁護士の方へ、一言メッセージをお願いします。」
指宿「もし“こんな問題をどうにかしたい”という気持ちがあるなら、遠慮なく先輩弁護士や市民団体に声をかけてみるといいと思います。最初は戸惑うかもしれませんが、熱意のある方なら大歓迎です。私も含め、多くの先輩が意外と“グイグイ来る”のを喜ぶものですよ。それでこそ新しい風が吹く。ぜひチャレンジしてください。」
北「力強いお言葉をありがとうございます。本当に今日は貴重なお話を聞かせていただきました。今後のご活躍も楽しみにしています。」
2.より時間がない人のために
弁護士になる前の活動背景
大学(筑波大)時代、厳しい管理体制への抗議で学生運動に関わる
コンビニバイト先での労働組合結成がきっかけで労働運動に本格的に携わり始める
中小企業などで労働組合を作る人を支援する活動家として活動
当時、憲法や労働法の知識はなかったが、実際の労使トラブルの場面で問題意識を深める
弁護士を目指したきっかけ
組合が依頼していた弁護士が過労で倒れ、「組合の中から弁護士を育てろ」というメッセージを受ける
周囲に法学部出身や受験経験者がおらず、独学で司法試験受験を開始
17回の受験の末に合格(排水の陣で必死に勉強した)
弁護士登録後の主な活動分野
労働事件(労働者側)と外国人の在留資格・人権問題を軸に活動
労働組合時代に外国人の在留問題(中国残留孤児やイラン人家族など)を支援していた流れで、技能実習生などの外国人労働者案件も担当
技能実習生問題との関わり
弁護士登録直後から技能実習生の労働トラブル案件が集中
日弁連の中で技能実習生の問題に取り組むプロジェクトチームの事務局長を長く務める
弁護士仲間と「研修生弁連(現・実習生弁連)」などを立ち上げ、問題提起や制度改革に関する意見書を政府・国会へ提出
アメリカ国務省の“ヒーロー”表彰について
人身取引(ヒューマン・トラフィッキング)問題として技能実習制度の現状を長年アメリカ国務省に情報提供していた
アメリカの歴史的背景(奴隷制廃止)もあり、人身売買の撲滅に力を入れている国務省から表彰を受ける
外国人労働の受け入れ制度改革への期待
現行の技能実習制度は「国際貢献」の名目で実質的には単純労働力を確保する手段になっている
「単純労働は受け入れない」という日本の方針のため歪みが生じ、ブラックな労働実態が発生
近年は社会的認識が高まり、法務大臣も抜本改革を検討と表明
日弁連として、より適正な外国人受け入れ制度を整えるよう意見書提出・政治家との意見交換を続けている
若手へのメッセージ・今後の展望
外国人や労働者の支援は収益性が低い面があるが、やりがいが大きい
持ち出しを減らすためには共同受任やクラウドファンディングなど工夫が必要
興味がある若手弁護士や法曹志望者は、遠慮せずに先輩に連絡・相談してほしい
指宿氏自身が若手なら、新しい社会問題を見つけて“切り開く”活動をしたいと考える
弁護士としての社会的地位を生かし、草の根の運動と連携しながら問題解決へ進めていくことが重要