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袴田事件弁護団の戸舘先生に聞いてみた(要約版)
刑事事件を中心とし、袴田事件の弁護団においても活動をされている戸舘圭之法律事務所の戸舘先生に対するインタビューを要約しました。
ぜひ動画もご覧ください。
1.対談形式の要約
北(司会)「皆さん、こんにちは。今回は、弁護士の戸舘先生をゲストにお迎えしています。先生、本日はよろしくお願いします。」
戸舘(弁護士)「よろしくお願いします。」
きっかけは袴田事件
北「まずは先生の自己紹介からお願いします。」
戸舘「弁護士の戸舘(とだて)と申します。2007年9月に弁護士登録しました。弁護士になろうと考えたきっかけは、大学時代に静岡で耳にした『袴田事件』なんです。」
北「袴田事件って、どんな事件でしょうか? 名前は知っている方も多いと思いますが、あらためて簡単にご説明いただけますか。」
戸舘「1966年に静岡県清水市で4人が殺害・放火された事件で、当時プロボクサーだった袴田巌さんが犯人とされ、死刑判決を受けました。袴田さんは無実を訴え続けていて、長年“再審”(裁判のやり直し)を求めているんです。2014年に静岡地裁が再審開始を決定し、その日に袴田さんは釈放されました。でも検察は即時抗告し、最終的には最高裁に行って、差し戻し審が続いている状態ですね。」
北「事件自体が66年に起きて、もう半世紀以上ですよね。先生がこの袴田事件と出会ったのは大学生の頃だったんですね。」
戸舘「そうです。静岡大学に在学していたときに、袴田事件の弁護団事務局長である小川秀夫先生の授業をたまたま受けたのが大きいんです。そこから弁護団会議に顔を出すようになって、“本当に無実の人が死刑になるかもしれない”という状況を生々しく感じて、刑事弁護の世界に進みたいと思うようになりました。」
弁護士登録から刑事弁護への道
北「実際に司法試験に合格して弁護士になった後は、すぐに袴田事件の弁護団に入られたんですか?」
戸舘「はい。修習生のときから『関わりたい』と思っていたので、登録後すぐに弁護団会議に参加して、『ぜひやらせてほしい』とお伝えしました。さっそく東京拘置所にいる袴田さんに面会に行ったり、最高裁に提出する意見書の取りまとめを担当したりと、若手中心で動くパートがあったんです。」
北「袴田さんの弁護団は人数も多い印象です。長年にわたって弁護士が出たり入ったりする中で、どのように統制を取っているんでしょう?」
戸舘「本当にボランティアの集まりなので、細かい統制があるわけでもないんです。ただ、弁護団長や事務局長を長く務めている先生がいて、中心になってまとめてくださっている。あとは、DNA鑑定など理系の専門知識が必要な分野が出てきたら、その分野が得意な先生が率先して動く、という感じで自然に役割分担が生まれているんです。」
青年法律家協会(青法協)との関わり
北「先生はSNSなどでも『青法協』(青年法律家協会)のお話をされてますよね。あれはどういう団体なんですか?」
戸舘「正式には“青年法律家協会弁護士学者合同部会”といって、戦後に“日本国憲法の理念を守ろう”という趣旨で、若手の法律家(弁護士・裁判官・学者など)が集まってできた団体です。今は裁判官部会がなくなって、弁護士と学者の合同部会が中心ですね。憲法や人権問題に強い関心をもつ弁護士が全国におり、勉強会や就職説明会、声明の発表などをしています。」
北「会に入りたい場合はどうすればいいんでしょうか?」
戸舘「ホームページなどから入会申込書を出せば入れます。若手弁護士や修習生も大歓迎なので、興味のある方は遠慮なくアクセスしてほしいですね。」
刑事事件と「勾留理由開示請求」の意義
北「先生と言えば、最近は『勾留理由開示請求』を熱心に取り組んでいる印象です。これはどういう手続きですか?」
戸舘「逮捕後、被疑者を勾留するとき、裁判所は『なぜ勾留するのか』を説明する必要があります。でも実際には形式的になりがち。そこで弁護士が『勾留理由開示請求』という手続きを申し立てると、法廷で裁判官が勾留の理由を説明して、こちらからも質問できるようになります。本来はこれで理由が薄弱ならすぐに『勾留取り消し』が認められるはずなんですが、実務上はなかなかそうならない。でも僕はこれを粘り強くやっています。」
北「なかなか釈放につながらなくても、やる意義はある?」
戸舘「はい、まず依頼者やその家族にとって、『弁護士がちゃんと勾留理由に異を唱えてくれている』という安心感があります。裁判官も面倒だと思えば安易な勾留を出さない可能性がある。実際、僕が繰り返しやっている中で、説明が丁寧になってきた裁判官も増えています。件数が増えれば、もっと裁判所の意識が変わるはずなんです。」
北「年間10万件近く勾留があるのに、勾留理由開示請求は4000〜5000件と聞きました。先生は年間10件くらいはやっているそうで、日本で一番やっている弁護士なのかもしれませんね。」
戸舘「そうかもしれません(笑)。実際、書面自体は1枚で出せますし、手続き自体はそれほど難しくないんですよ。問題は『やっても意味ないのでは』という先入観のほうが大きい。僕としては、『やれば多少なりとも状況が良くなるかもしれない』と思っているんで、可能な限り続けています。」
若手弁護士・法曹志望者へのメッセージ
北「最後に、これから弁護士になろうという方や、修習を終えたばかりの若手弁護士さんへアドバイスがあればお願いします。」
戸舘「僕自身、袴田事件に強く惹かれてこの道に進みました。もし気になる事件や分野があれば、ぜひ遠慮なく関わりに行ってみてほしいですね。今はSNSやメールで簡単に先輩弁護士とコンタクトも取れる時代なので、ダイレクトにアプローチすれば、快く応じてくれる方が多いですよ。やりたいと思ったことを実践しながら、ただ一方で“どうやって食べていくか”という収益化の目線も少しだけ意識しておくと、長く好きな事件に関われると思います。」
北「本日は興味深いお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました。『交流理由開示請求』や『袴田事件』など、実際に動いてみるからこそ見えるものがあるということですね。」
戸舘「こちらこそ、ありがとうございました。もし『交流理由開示請求をやってみたい』とか、『袴田事件についてもっと知りたい』と思う方がいたら、SNSや事務所の連絡先に気軽にメッセージをください。」
北「それでは今回はこの辺で。皆さん、最後までご覧いただきありがとうございました!」
2.より時間がない人のために
戸舘先生の自己紹介と弁護士になった経緯
2007年9月に弁護士登録。
大学時代、静岡大学在籍中に「袴田事件」を知り、刑事弁護に興味を持った。
袴田事件弁護団の小川秀夫弁護士から直接授業を受けたのが大きなきっかけ。
袴田事件の概要と戸舘先生の関わり
1966年に静岡県清水市で4人が殺害された事件で、袴田巌さんが死刑判決を受けた。
無実を訴え続け、2014年に静岡地裁が再審開始を決定し釈放。
その後、検察側の即時抗告が認められ、最高裁→差し戻し、現在も再審の結論が出ていない。
戸舘先生は修習時代から弁護団と関わり、弁護士になってすぐ弁護団に参加。DNA鑑定や証拠の分析など、専門知識を活かすチームと協力しつつ活動している。
青年法律家協会の説明
戦後、憲法や人権を守るために結成された団体。かつては裁判官部会もあったが現在は主に弁護士・学者が活動。
就職説明会や各種の勉強会、憲法や人権問題に関する声明発表などを行う。
入会希望者はホームページなどから申込み可能。
刑事弁護と「勾留理由開示請求」の意義
被疑者が勾留された際、「なぜ勾留するのか」を裁判官に説明させる手続き。
現在、全国の勾留数に比べて実際の請求件数は非常に少ない(年間10万件近い勾留に対し、勾留理由開示請求は4,500件程度)。
戸舘先生は積極的にこの手続きを活用し、裁判官に勾留の理由を丁寧に説明させることで、安易な勾留が減る可能性を感じている。
依頼者や家族に対して「弁護士がしっかり主張している」という安心感を与える効果も大きい。
若手弁護士・法曹志望者へのメッセージ
興味のある分野や事件があれば、遠慮なく関係する弁護士や団体にアプローチしてみることを推奨。
SNSやメールで直接やり取りできる時代なので、情報やノウハウは得やすくなっている。
好きな事件や社会的意義のある取り組みを続けるためにも、収益面など現実的な視点を持つことも大切。