
使用者側労働事件の向井先生に聞いてみた(要約版)
企業側の労働事件を中心に活動されている杜若経営法律事務所の向井蘭先生に対するインタビューを要約しました。
ぜひ動画もご覧ください。
1.対談形式の要約
北(司会): 「皆さん、こんにちは。本日は杜若経営法律事務所の向井蘭先生にお話を伺います。向井先生、今日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか?」
向井: 「はい。杜若経営法律事務所の弁護士、向井蘭と申します。弁護士登録は56期(2003年)で、今ちょうど19年目くらいになります。事務所としては企業側、すなわち“使用者側”の労働事件を主に取り扱っており、私個人も全体の8〜9割は労働事件、いわゆる労務に関するご依頼を扱っています。」
北: 「ありがとうございます。いわゆる“使用者側の労働事件”というと、具体的にはどのような業務内容なのでしょうか?」
向井: 「私たちの事務所は、社会保険労務士さんなど隣接士業の先生からのご紹介がとても多く、中小企業の紛争対応が仕事の大部分を占めます。事件としては、未払い残業や解雇、パワハラ、メンタルヘルス問題、あるいは従業員が労働組合に加入した際の団体交渉対応などが典型的ですね。そうした“紛争化しそうな、あるいは既に紛争となった”案件に対応することが多いです。」
北: 「なるほど。制度設計や人事コンサルのような業務が中心という弁護士事務所もありますが、向井先生の事務所は“紛争”に重点が置かれているわけですね。」
向井: 「所長の先生を中心として、事務所が少しずつ拡大・変化し、私も最初からずっと同じ事務所に所属してきました。実は弁護士としては、ここが初めてかつ唯一の勤務先なんです。」
北: 「ずっと同じ事務所におられるとは、水が合っていたんでしょうね。今、事務所には何名ほどの弁護士がいらっしゃるんですか?」
向井: 「日本人弁護士が13名。それに加えて中国人弁護士が1名おります。彼女は中国企業のためのリーガルサポートや、日中間の投資案件、契約書レビュー、合弁会社設立などの業務を担当しています。」
北: 「向井先生は上海にいらした経験もあると伺いました。最初から企業側の労働分野を志望されたのは、どういう経緯でしょう?」
向井: 「私の実家が山形県で中小企業を営んでいたんです。元々は父の会社を継ぎたいと思っていたのですが、バブル崩壊後の経営環境の悪化などで『継がなくていい』と言われたんですよ。それなら会社の経営者を支援する立場として何ができるかを考え、司法試験を目指したところ、合格して弁護士になりました。研修で労働法を学んだときに“会社側で専門にやる”という選択肢を知り、今の事務所を選んだというわけです。」
北: 「実際に使用者側の労働案件をやり始めて、最初の印象はどんな感じでした?」
向井: 「最初は大企業の組合対応の案件が多く、『これはいつか仕事が減るのでは』と不安でしたね。古参の労働組合が50代60代で最後の訴訟を起こすような案件が中心で、いずれ終息するだろうと。しかも先輩弁護士が多く、若手が活躍するには限界がある。そう感じたため『これはマーケティングをしなくちゃ』と思いました。」
北: 「そこでWeb広告などを使い始めたんですね。」
向井: 「そうです。2006年頃にマーケティングのセミナーを受けて、債務整理分野は過払いバブルで盛り上がっている。でも自分は過払いはやらず、“労働組合との団体交渉”に特化してリスティング広告を出してみたんです。するとほとんど競合がおらず、ワンクリック8円とか(笑)。全国の中小企業から問い合わせが来て、一気に案件が増えました。
ただし『いつか真似されて終わる』と考えて、次の手段を探していたところ、社労士の先生から自然に問い合わせが来ることに気づいたんです。そこで『団体交渉対策セミナー』を開催すると告知をFAX DMで流したら、あっという間に満席になりました。これが社労士ネットワークの構築の始まりでしたね。」
北: 「そこから社労士さんとの連携を軸に、紛争案件だけでなく継続的な顧問契約につなげたと。」
向井: 「はい。FAX DMは苦情も多くて長続きしませんでしたが、雑誌やWeb媒体に記事を書いて、社労士や中小企業向けセミナーをコツコツ続けた結果、“杜若経営法律事務所は会社側の労働に強い”という認知が広まりました。その後も時代に合わせたテーマで大規模なWebセミナーをやったりしています。コロナ禍真っ最中の2020年秋に開催した『同一労働同一賃金』のオンラインセミナーは、2,000社以上が参加してくださって驚きましたね。」
北: 「1回のオンラインセミナーで2,000社超えとはすごいですね。セミナーを機に顧問希望の社労士さんが増えるなど、相乗効果が大きそうです。いっぽう、上海に行かれていた時期も長かったとか?」
向井: 「2014年頃から中国ビジネスに参入しようと考えまして、1年の半分くらいは上海で過ごしていました。日系企業はリストラ案件などが増えていたので、人員削減の交渉プランを現地の中国人弁護士とコンサル会社と一緒に進めるなど、なかなかハードな仕事でしたよ。ただ、中国語の壁は大きかったですね。結果として中国では合弁の人事労務コンサル会社を作り、日本に戻ってからは中国企業の対日投資や日本での法人設立案件にも取り組むようになりました。」
北: 「グローバルに展開しながらも、やはり一番成果が大きかったのは社労士さんとの連携だったんですね。ちなみに向井先生が今の知識と経験を持ったまま、もし今の時代に新人弁護士になるとしたら、どうします?」
向井: 「私だったら会計事務所に入りたいですね。企業の中核は“財務・会計”なので、そこを学ぶと経営者の悩みに総合的に応えられますし、BtoBの継続案件を獲得しやすい。弁護士は個人案件だとスポットで収益が発生することもありますが、企業案件は“長くお付き合いする”という形が望ましいので、会計事務所に身を置けば、財務的な視点を得ながら企業法務への展開ができるのではないかと思うんです。」
北: 「面白いですね。たしかに『他士業の世界』に入るというのは良い選択肢かもしれません。そういえば、御事務所での採用状況はいかがですか?興味を持った方はどうやって応募したらいいでしょう?」
向井: 「うちは毎年新卒を2名ずつくらい採用しており、中途も随時検討しています。もし企業側の労働に興味がある方がいれば、事務所の採用情報(ホームページなど)からご連絡いただければ面接などのご案内が可能です。今はサマークラークなども活用しないと、優秀な人材と出会うのは難しいですね。採用のための“マーケティング”みたいなことを、昔とは違ってこちらも積極的にやらないといけません。」
北: 「なるほど。現在は『雇用契約』で弁護士を採用する事務所もまだ少ないですが、御事務所は社会保険や有給制度なども整えていると。そういう点も若手にとっては魅力でしょうね。」
向井: 「そうだと思います。やはり優秀な人に長く働いていただきたいので、ある程度は整備しないと採用難に直面しますから。」
北: 「今日は企業側労働の世界を中心に、マーケティングの工夫や上海でのチャレンジなど、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。今後も引き続きご活躍を楽しみにしています!」
向井: 「ありがとうございます。私自身、中小企業出身ということもあり、これからも『会社側の労務問題で困っている企業を支援したい』という思いで頑張ります。ご相談や採用へのご興味などありましたら、ぜひお問い合わせください。」
2.より時間がない人のために
向井蘭先生の自己紹介・事務所概要
弁護士登録は56期(2003年)。
杜若経営法律事務所所属。主に企業(使用者)側の労働問題を扱う。
事務所では中小企業案件が多く、紛争案件(解雇、パワハラ、未払い残業など)が中心。
事務所には日本人弁護士13名と中国人弁護士1名が在籍。
使用者側労働を選んだ経緯
実家が中小企業を営んでいたため、経営者をサポートする分野に興味を持った。
司法試験合格後、企業側労働案件に特化している事務所に就職し、以後一貫して使用者側労働を手掛ける。
大企業中心の労組案件からマーケティングへの転換
当初は大企業の少数派労組など特殊な案件が多く、将来の仕事量減少を懸念。
そこでWebマーケティングを模索し、2006年前後にリスティング広告を活用。
「団体交渉対応」特化で広告を出すと、ほぼ競合が無く全国から問い合わせが集まり、多数の紛争案件が急増。
社労士ネットワークの構築
広告だけでは長続きしないため、社労士向けにFAX DMや専門誌寄稿、セミナー(団体交渉対策など)を実施。
セミナーが満席になるほどの人気となり、社労士から継続的に案件紹介を受ける仕組みができる。
以後、社労士向けセミナーや情報発信を継続し、主力の集客ルートとなる。
オンラインセミナーの成功と拡張
コロナ禍の2020年秋、「同一労働同一賃金」テーマのWebセミナーを実施。
2,000社以上が参加し、アンケート経由で複数の顧問契約を獲得。
ニュースレター発行・メルマガ配信・SNSなど、地道な名刺管理や情報提供の積み重ねが大規模参加につながった。
上海拠点と中国関連ビジネス
2014年頃から上海と日本を行き来し、現地に合弁会社を設立してコンサル業務を展開。
中国語の壁や日系企業の勢いの変化を実感しながら、リストラ対応や投資案件などに取り組む。
現在は日本国内における中国企業向けの案件も扱っている。
今後の展望・新人弁護士へのアドバイス
中小企業支援のために、使用者側の労働案件を継続拡大していく。
新人弁護士が企業法務を目指すなら、会計事務所など他士業と連携し、財務・会計を学ぶのが有益。
杜若経営法律事務所でも新卒・中途を含めて随時採用しており、興味があれば応募可能。
事務所として雇用契約や社会保険を整え、働きやすい環境づくりに注力している。
採用活動の工夫
弁護士採用も“マーケティング”が必要な時代。
タイムカードや有給管理など、労働時間や社会保険の整備を行い、若手にとって魅力的な労務環境を整備している。