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【発売記念】目の前の患者からはじまる臨床研究~症例報告からステップアップする思考術・期間限定版 後編

 
このたび1月31日に康永秀生先生の最新作『目の前の患者からはじまる臨床研究~症例報告からステップアップする思考術~』(金原出版)を刊行いたしました。
 
本書は,前半で症例報告の学会発表・論文発表の作法を解説し,後半で症例経験から紡ぎだしたCQをリサーチ・クエスチョンへ発展させる実践的な手法とともに,症例経験から臨床研究につなげた実例を解説した書籍です。
 
そこで出版を記念して,本書の「第1章 症例報告の学会発表」より「症例報告を学会発表しよう」の項目を抜粋し,2回にわたりnoteで特別公開いたします!
 
今春に「学会発表デビュー」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。症例報告の発表の準備に向けて、本記事が参考になれば幸いです。

「今まで症例報告をしたことがない人」も,「症例報告はしたことがあるが臨床研究の経験はない人」も必読の一冊です。どうぞご覧ください。

前編はコチラ
 


【症例報告を学会発表しよう・後編】

2 学会発表に向けた準備

1)学会発表の申し込み

学会のホームページを確認し,学術大会の開催時期や演題登録の期限をチェックしておきましょう。演題登録の時点では,発表のタイトル,演者および共同演者,300字程度の抄録を提出する必要があります。
 
抄録の執筆は,演題登録締め切りの日よりも十分に余裕をもって完了し,共同演者に事前に送って確認をお願いすることがマナーです。締め切り前日に共同演者に抄録をメールで送りつけて「明日の〇時までにご確認をお願いします」などと依頼するような行為は,大変な非礼に当たります。遅くとも1週間前には抄録を送って,内容に関するコメントを仰ぐようにしましょう。

2)スライドの作成

①情報の整理
症例報告に記載する情報を整理しましょう。カルテ情報から,患者の背景,既往歴・家族歴,現症,検査所見,症状や治療の経過,手術所見,転帰などの情報を収集します。時系列で整理するために,日付情報も併せて収集することが必須です。
 
初期にはある程度網羅的に情報収集するとしても,すべての情報をスライドに盛り込むことはできません。提示すべき情報を厳選したり,内容を要約したりする必要があります。
 
特に検査所見は,発表内容に応じた情報の抽出が必須です。入院期間が長いほど,入院中に行った検体検査,生体検査,画像診断は多くなります。血液検査は入院時や治療前・後のデータのみを選ぶことにしましょう。重要な項目は,異常値のみならず正常値も列挙しましょう。CTやMRIなどの画像は,キーとなるスライスのみを選びましょう。治療の経過は適切に要約することが必要です。
 
②スライドの体裁
スライドの体裁は,無難なスタイルに整えることを推奨します。どのようなフォント,文字色,背景デザインを使おうと自由です。しかし,スライドの体裁に凝ったり,奇抜なスタイルを使ったりしても,あまり意味はありません。スライドはSimple is bestです。
 
日本語フォントは,MSゴシック,MSPゴシック,MS 明朝,MSP明朝のいずれかとします。英語フォントは,Times New Roman, Arial, Centuryのいずれかを用いれば十分です。奇抜なフォントを使うと読みにくいことがあります。一般的でないフォントの場合,学会会場備え付けのPC を使うとそれが反映されないこともあります。
 
背景色は白,文字色は黒がベストです。なぜならば,それが最も見やすいからです。強調したい箇所だけ太字にしたり,アンダーラインを引いたり,文字を赤色に変えたりしてもよいでしょう。
 
Microsoft PowerPointにはさまざまにプレゼンテーションを演出する機能がついています。背景の効果(「すりガラス」「光沢」「グラデーション」など),アニメーション(「アピール」「フェード」「スライドイン」など),「画面切り替え」機能(「垂れ幕」「カーテン」「クシャクシャ」「折り紙」など),いずれも使いたければ使ってよいでしょう。しかし,スライドの見栄えの良さで聴衆の関心を引いても仕方がありません。あくまで発表の内容でアピールすることを心がけましょう。
 
近年は学会のオンライン開催が増えています。オンラインからPowerPoint スライドを画面共有する場合,スライドのサイズはワイド画面(16:9)の方が画面を広く使えます。しかし標準(4:3)でも特に支障はありません

3)発表練習

制限時間内に発表する練習は必須です。学会会場では,スピーチの終了時間を告げるアラーム音が鳴らされるものです。時折,終了時間を超えてもまだしゃべり続けている演者を見かけます。見苦しい限りです。ルールやマナーを守れない人は,他者に悪い印象しか与えません。
 
7 分の発表時間ならば,6 分50 秒でスピーチが完了するように練習しておきましょう。「ご清聴ありがとうございました」という最後の言葉の直後に終了のアラームが鳴れば,時間ぴったりのプレゼンテーション,という好印象を聴衆に与えることができます。
 
スライドの「読み原稿」を作成してもよいでしょう。練習の段階で,読み原稿を暗記するぐらいに何度も読んでおきましょう。
 
所属する診療科や研究室などで発表の予行演習の機会があれば,それを積極的に利用しましょう。予行演習の場で聞かれた質問と同じような質問が本番でも挙がってくることもあります。

4)いざ発表

学会会場にたどりついたら,まず行うことはスライド登録です。スライドのファイルが保存されたUSBメモリを係員に手渡し,学会備え付けのPC にコピーしてもらいます。その際に,スライドの動作チェックも行います。
 
発表会場にはなるべく早く到着しておきましょう。会場の雰囲気を肌で感じておくことは重要です。自分の発表の1 人手前の発表時に,「次演者席」に着席しておきましょう。自分の発表の番がくれば,座長の指示に従って壇上に上がります。
 
通常,スライドを投影されたスクリーンが見やすくなるように,会場内の照明は落とされ,真っ暗闇でない程度に暗くなります。演者が立つ壇だけピンスポットの照明が当てられることもあります。
 
発表中,聴衆はスライドのスクリーンを眺めていることが多く,演者の姿を眺めることはあまりありません。しかし,それでもやはり演者は胸を張り,前を向いて話す方がよいでしょう。ハッタリでもいいので堂々とスピーチしましょう。演者はスクリーンを見るのではなく,壇上のPC をちらちら見ながら,視線を頻繁に会場の方に移しましょう。会場全体を見渡せるように適宜視点を移動します。
 
下を向いて原稿をボソボソ読むのは厳禁です。そんな貧相な話し方をしていると,発表の内容まで貧相であると誤解される恐れがあります。質疑応答の際に攻撃を受ける誘因となりうるので注意しましょう。
 
ときに質問者が発表内容を酷評することがあります。答えようのない意地の悪い質問を投げかけてくることもあります。ひどいことを言われても微動だにせず,堂々と対処すればよいでしょう。質問をしてくるのは,それだけ発表内容に関心があるからです。とりあえず「ご質問ありがとうございます」と謝意を述べましょう。わかりにくい質問の場合は聞き直してもかまいません。質問に対する答えがわからない場合,しどろもどろになったり,フリーズしたりするよりは,「わかりません」とはっきり言う方がよほどよいでしょう。
 
むしろ質問が全くない方が悲しむべき状況です。なぜなら,質問がないのは聴衆に興味を抱いてもらえなかったことの証左であるからです。聴衆から質問がない場合は座長が何かしら質問をしてくれるはずです。しかし,座長は場の進行を重視して答えやすい質問をすることが多く,たいていは歯ごたえのない質問です。座長からしか質問がなかった発表は大いに反省すべきです。なぜ自分の発表は聴衆の興味を引かなかったのかよく考えて,次なる発表にはその反省点を生かすようにしましょう。

5)オンライン開催

2020 年から新型コロナウイルス感染症の影響で,学会のオンライン開催が増えました。オンライン学会は,リアルの学会のような研究者同士の交流の場があまりありません。リアル学会の休憩時間や懇親会の場で生まれる,研究者同士の私的な交流がありません。リアルの学会ならば,学会終了後にご当地グルメを楽しんだり,会場近くの観光スポットにちょっと足を運んだりもできますが,オンライン学会ではそのような興趣や旅情を味わう余地はありません。
 
発表の雰囲気もまるで違います。オンライン学会は聴衆の顔もリアクションもほとんど見えません。そのため私自身は,オンライン学会での発表にはやや張り合いがないように感じられてしまいます。やはり多数の聴衆が詰めかけ熱気があふれる会場で声を張り上げる方が,私には性が合っています。聴衆が身を乗り出したり,うんうんと頷いたり,驚きの表情を見せたり,そういった聴衆の反応を見ることが好きだからです。
 
とはいえ,オンライン学会も悪いことばかりではありません。リアルの学会は移動が大変です。海外学会ならなおさらです。自宅や職場から気軽に参加できるのはオンライン学会の良い点でしょう。
 
オンライン学会では,事前に発表動画を作成して学会事務局に送り,それを当日放映するということも多くなっています。その場合も質疑応答だけはライブで行われることがあります。動画はPower-Point や,ZoomなどのWeb 会議用ツールの録画機能を使って作成できます。演者にとっては,会場での発表と違い,事前録画ならば緊張感なく発表できるでしょう。また,発表動画を学会後もオンデマンド配信されることも多くなりました。
 
このように学会の在り方もずいぶん変わってきました。その時代に即した学会への参加の仕方があります。学会も進化していくので,それに乗り遅れないようにすることも大事でしょう。


【書籍のご紹介】

・著 者:康永 秀生
・定 価 :3,520円(3,200円+税)
・A5判・144頁
・ISBN 978-4-307-00493-0
・発行日:2022年1月31日
・発行所:金原出版

・取扱い書店はこちら

【著者紹介】
康永 秀生
(やすなが ひでお)
東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻臨床疫学・経済学 教授

平成6年東京大学医学部医学科卒。卒後6年間外科系の臨床に従事した後,
東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学,東京大学医学部附属病院企画情報運営部,Harvard Medical School, Department of Health Care Policy(客員研究員)などを歴任。平成25年より現職。専門は臨床疫学,医療経済学。平成27年よりJournal of Epidemiology 編集委員。令和元年よりAnnals of Clinical Epidemiology 編集長。令和4年12 月までに医学英語論文の出版数約800 本。

代表的な著書として『必ずアクセプトされる医学英語論文 改訂版』『必ず読めるようになる医学英語論文』『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』(いずれも金原出版)などがある。