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呪会 第16章

山村希一の葬儀は、しめやかに執り行われた。

斎場には喪服姿の人々が集まっている。

その中に、喪主の絵里子の姿があった。

心的ショックが強かったのは言うまでも無い。

その姿は憔悴しきっていた。

そばにいる年配の女性に支えられて、

絵里子は立っているのが、やっとだった。

泣きはらしたのか、まぶたは赤くはれ上がっている。

そんな中に当然、亜希子の姿もあった。

しかし、彼女は無表情で、泣き顔ひとつ見せてはいなかった。

決して気丈だからではない。

自分の父親が殺害された事実が認識できていないのだ。

まったく現実のものとして、まだ受け入れなかった。

傍目に観れば、亜希子がしっかりとした足で

立っているように見えたが、

当の本人は、まるで雲の上にいるようで、

足元が不安定な感覚を感じていた。

母の由美は葬列の中にはいなかった。

弔電は送ったが、葬儀には顔を見せなかったのだ。

そんな母への非難の気持ちも、心の片隅におりのように

こびりついているだけで、深く考える余裕は亜希子にはなかった。

やがて山村希一の遺体は、火葬された。

父の遺骨を拾う時、人間とはこんなに小さな骨になるのが

最後の姿なのかと、悲しみと寂しさと

虚しさが複雑に入り混じり、全身を言い知れぬ自棄の感情が支配した。

火葬場を後にして突然、亜希子はひざを折り、顔を両手で覆った。

そして号泣した―――。


亜希子は自宅のマンションに帰ると

母親の由美の部屋に明かりが点いているのに気づいた。

ドアの隙間からのぞくと、由美は資料を

片手にノートパソコンに向かって仕事をしている。

離婚した相手とはいえ、凶悪な犯罪の犠牲者となった山村希一に

何の憐憫も感じないのだろうか?

亜希子が父親である山村を慕っていたのは知っていたはずだ。

それでも、日常と変わらぬ態度でいる

由美にたいして亜希子は怒りさえ覚えた。

亜希子はそのまま自分の部屋へと向かった。

黒いワンピースを脱ぎ捨てると下着のまま、ベッドに腰を下ろす。

再び悲しみが襲ってきた。涙が頬を伝う。

だが、意地でも泣き声を出さなかった。

それは由美に対しての、せめてもの抵抗だった。

押し寄せる嗚咽に、必死の思いで耐えた。

だが、涙は一向に枯れようとしなかった。


学校の昼休みは、いつも通りだった。

亜希子のクラスはグループに分かれ、

昼食を摂ったり談笑したりしている。

その教室の後ろの席では、米倉里美、加原真湖、宮島祐介の姿があった。

祐介は携帯電話のフラップを開けては閉め、

開けては閉めを繰り返していた。

「宮島、アッキーに連絡取りたいんならすれば?」

見るからに逡巡している祐介に、里美は声をかけた。

しかし、その言葉を祐介は無視して、携帯電話をいじっている。

「日向の親父さんが殺されるなんて・・・」

祐介は何かを呪うかのようにつぶやいた。

そして言葉をつなげた。

「来島祥子が殺された状況と、

 日向の親父さんの件とよく似てると思わないか?」

「確かに似てるわね。

 どっちもお金や金目のものは取られてないし・・・」

それまでうつむいていた加原真湖が、下を向いたまま言った。

「宮島、まさかアッキーの親父さんの事件も

 呪会がからんでるんじゃないかって

 思ってるんじゃないでしょうね?」

里美の瞳が険しくなる。

「だって、そう思わざるをえないだろ!

 こんなに立て続けに、

 身近な人間が似たような手口で殺されてるんだぞ」

祐介ははき捨てるように言った。その意見に里美は反論した。

「ただの偶然かもしれないでしょ?

 何の証拠も無いんだから・・・」

「証拠?」

ふいに祐介は虚空を見つめた。

そして、おもむろにスクールバッグに手を突っ込む。

取り出したのは、『呪い殺すリスト』のコピーだった。

それを机に放り出すと、中腰のまま、猛烈な勢いでチェックし始めた。

「宮島、何してんのよ」

椅子に座っていた里美が立ち上がる。

だが、祐介の鬼気迫る迫力に、次の言葉が出ない。

数枚のリストをチェックしていた時だった。

突然、祐介の手が止まった。

「あった・・・」

宮島は呆然とした様子で、微かにつぶやいた。

そのリストには、あの「名前」が載っていた・・・。

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