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ZOMBB 11発目 作戦会議

エチゼンヤにモーニング・フォッグのメンバーが
たどり着いた頃には、夕闇が迫っていた。
電源の切れたパワードスーツに身を包んだ山田次郎は、
坂原兄弟と丸川信也、久保山一郎の4人がかりで、
エチゼンヤの裏口から搬入された。
運のいいことに、
エチゼンヤの裏口付近のゾンビの数は少なく、
貫井源一郎と新垣優実が援護した。

エチゼンヤ店内の片隅の壁に、
パワードスーツごと
無造作に立てかけられた次郎はともかく、
坂原兄弟ら、他のメンバーたちは
玉のような汗をかいていた。

エチゼンヤの伊藤店長は
彼らにパイプ椅子を貸し出し、
冷蔵庫からよく冷えた缶コーヒーを差し入れした。

 「いやぁ、心配してたんだよ。
  みんな無事でよかった」
店長は安心したように微笑んだ。

「それにしても店長。スゲーもん作ったな。
アレのおかげでなんとか切り抜けられたよ」

貫井源一郎は、
彼の背後の壁に立てかけられている
次郎の方に顎をしゃくる。

アレって言ったか?
アレってオレの事か?
バッテリーがあがっているため、
首さえ動かせない次郎は、横目で貫井をにらんだ。

「半年前から造ってたんだよ。
まだ改良の余地はあるんだけどね」
伊藤店長はまんざらでもない表情を
浮かべながら頭をかいた。

「あの~」と次郎は店長に声をかけた。

「まさかパワードスーツを
造ってるなんて思わなかったですよ」
そう言いながら、坂原(兄)は
缶コーヒーをぐびりと飲んだ。

「あの~店長」とまた次郎は声をかけた。

「あれだけのゾンビを一気に打ち倒したもんな。
ハイサイクルG3にミニガン装備とは恐れ入ったよ」
貫井源一郎もうなづく。

「あの~、みなさん聞こえてます?」
次郎は少し声を荒げて言った。

「その上、空中に舞い上がった時には
マジでびっくりしましたよ」
丸川信也は真顔で言った。

「そんなに褒められると照れちゃうよ。ははは・・・」
伊藤店長は、そんな言葉とは裏腹に得意満面だ。

「あのパワードスーツに名前とかあるんですか?」
と坂原(弟)が店長に尋ねた。

「名前?ああ・・・
えっと衛門下痢音初号機・・・かな?
えへへ・・・」
えもんげりおんしょごうき?
今つけたろ?たった今思いついただろ?
オレの崇拝している
あのメガヒットアニメを冒涜しやがって!
しかもモロにシモネタじゃねえか!
それに、えへへって、
なんかうまい事言った~みたいな顔しやがって。
ほんっとに腹立つわ!次郎の額に青筋が刻まれる。

「っていうか中身はダンボールだけどね」
ララが笑いながら言った。

「ちげえねえや。ははははッ」
貫井がつられて笑うと、
その場にいた者はみんなで大笑いした。
何なんだこのなごやかな雰囲気は?
次郎の怒りは沸点を越えた。
まるで熟れたトマトのように
顔を紅潮させて怒鳴った。

「おいッ!いいかげんにしろ!
オレをここから出せぇええええッ!」
一瞬の静寂。
モーニング・フォッグのメンバーたちの視線が注がれる。
刹那の沈黙を破ったのは伊藤店長だ。

「あ、悪かったねぇ、山田くぅん。忘れてたよ。
今、工具持ってくるから・・・」
伊藤店長はカウンター裏に置いてある、
ラックの中をゴソゴソと漁りだした。

「忘れてたって、たった今、
オレのことを笑いものにしてたじゃねえかよ!」

「ダンボール、大人げないわよ。
そんなちっちゃぁ~いことで怒るなんて。
ほんと、みっともない」
ララが呆れたように言った。

この女許さん!ぜぇ~ったいに許さん!
顔が可愛いとか、おっぱいがでかいとか、
くびれたウエストとか、プリッとしたケツに
ムチムチの太ももとか、いつもいい匂いがしてるとか、
そんなこと、か、関係ねえ・・・!
オレの本当の怒りをみせてくれるわ!

「でも、ダンボールのおかげで
助かったのは確かよね」
ララはぽつりとつぶやいた。
その言葉を次郎の耳は聞き逃さなかった。

え?オレのおかげ?
わ、わかってるじゃねえか。
そうだ、あれだ。ツンデレってやつ。
ララはもしかしてオレに気があるんじゃね?
そっちがそういうことなら、
オレだって考え直すよ。
まあ、とりあえず映画にでも誘って
・・・いや、ララの性格だ。
断ってくるに決まってる。
じゃあ、こういくか。
映画のチケット2枚あんだけど、
一緒に行くやついないからしょうがねえから
2日に分けて行ってくるか~みたいな。
そしたら、ララは
『それってもったいないじゃない。
私が一緒に行ってあげようか』
みたいな感じで返してくる可能性がある。
よし、この手でいこう。それから次は・・・

 「山田くぅん、何でにやけてんの?
それによだれ出てるよ。床汚さないでね」
店長は次郎からパワードスーツのパーツを
取りはずしながら言った。

「久保山さん、さっきから何を考え込んでるんです?」
丸川信也は隣に座っている、久保山一郎に声をかけた。
久保山はゆっくりと顔を上げた。

「あのパラシュート降下してきた凄まじい数のゾンビ。
  奴らは百機近い
  フォッケウルフ・コンドルから降下してきた。
  なせ第二次大戦時の爆撃機が
  日本の空を飛んでいるのかって考えてたんですよ」
 久保山は指で眼鏡を上げながら言った。

「そのフォッケウルフ・コンドルって何なんだ?」
と 坂原(兄)。

「FW200—4フォッケウルフ・コンドル・・・
  4発エンジンの長距離輸送機で、
  第二次世界大戦にはナチス・ドイツ軍に徴用されて、
  長距離哨戒爆撃機として船舶攻撃に活躍してたんです。
  でも、戦争の後期には
  主に輸送任務に回されるようになったという機体です。
  そんな骨董品のような爆撃機が飛んでいて、
  しかもゾンビを降らせるとは・・・」
久保山は再び考え込んだ。

「まさか、この世界的なゾンビ騒ぎに
  ナチス・ドイツが関係してるとでも?」
坂原(弟)が軽い口調で訊き返した。
だが、その声は少し震えていた。

「とにかく、みんなの武装を再補充しよう。
  電動ガンのバッテリーを充電して、
  サイドアームの装備も点検して、
  この騒ぎが収まるまで持ちこたえるしかない」
 坂原(兄)がリーダーらしく、メンバーに言った。

まだパワードスーツの解体作業を続けている伊藤店長が、
振り返って言った。

「コンセントは自由に使っていいから。
  それと予備のバッテリーとガスも使っていいよ」

「ありがとう店長。助かります」
丸山信也が頭を下げた。

「代金はこの騒ぎが
  おさまってからでいいから」

金取るんかい!
その場にいたメンバー全員の両目が点になった。

「あとは食料だな。
  ここにこの人数がしばらく食べていけるだけの
  物はないだろう」
坂原(兄)はそう言うと、
缶コーヒーを一気にあおった。

「この店から車で10分くらいのところに、
  大きなモールがあったわよね。
  あそこにいけば充分な食料を調達できるわ」
とララが微笑を浮かべて言った。

「よし、それでいこう。
  貫井さんのラウンドクルーザーだったら
  大量に食料を詰め込めるし、
  他のみんなも各車できるだけ沢山のものを積もう」
坂原(兄)が鼓舞するように言った。

「だが、モールにも
  相当数のゾンビがいるのは間違いない」
と貫井源一郎。

「オレと久保山、それに貫井さんとで荷物を運ぶ。
  隆と丸山さんと新垣さんは援護してくれ」
坂原(兄)は意を決したように言った。
その頃には、ようやく
パワードスーツから次郎は解放されていた。
強張っている体を揉み解しながら
坂原(兄)に問いかけた。

「アジアのランボー(坂原勇)、
  オレは何したらいいの?」

「ダンボールは荷物運びに回ってくれ」
ま、いっか。
だったら、自分の好物いっぱい持ってこよう。
どうせ、ゾンビだらけで店員もいないだろうし、
それってタダってことだし。

「悪いけどオレは、別行動とらせてもらう。
 今すぐに」
坂原(弟)である隆こと、コードネーム・山猫が
沈うつな表情でつぶやいた。他のメンバーが少し驚いた
様子で彼を注視した。
その表情で、坂原(兄)はすぐに気付いた。

「奥さんと、息子さんだな」

「ああ、オレもまさかこんな大事になってるとは
思わなかったからな。
着の身着のままで出てきたんだ。
一応、自宅の扉や窓には鍵をかけて、用心してろって
言ってはいたんだが・・・。
さっき携帯にかけたら、まだ無事だって言ってた。
今のうちに家族を助け出して、ここに連れて来ようと
思ってるんだ」

坂原(弟)が気を揉んでいるのが、
その表情からもくみとれた。
坂原(兄)は皆を見渡しながら言った。

「オレと隆は、彼の家族の救出に向かう。
 救出し終わったら、またここに戻ってくる」
そう言って、東京マルイ製M4アサルトライフルを手に
立ち上がった。

「それならみんなで助けに行ったほうが
 いいんじゃない?」と新垣優美。

「いや、少人数の方が目立ちにくい。
 隆の自宅マンションはここから
 片道15分とかからない。
 なあに、心配はいらない。隆の奥さんの沙耶さんも
 元サバイバルゲーマーでモーニング・フォッグの
 発足時のメンバーだったんだ」
坂原(兄)は皆を安心させるように言った。

「それじゃ行こう。陽が完全に落ちる前に
 ここに戻ろう」

坂原(兄)は弟の肩に手をかけた。
弟の隆も同意するようにうなづくと、
東京マルイ製P90サブマシンガンを手に
ゆっくりと立ち上がった。

他のメンバーはエチゼンヤの裏口に停めてある、
坂原(弟)の車まで援護した。
ゾンビの姿はほとんどなく、
遠ざかっていく彼らの車を見送った。
坂原兄弟と、弟の家族の安全を祈りながら・・・。

「あの兄弟なら、大丈夫さ。
 モーニング・フォッグ屈指の猛者たちなんだから」
貫井源一郎が力強く言った。
彼の言葉に、みんなはうなづいた。

西陽に目を細めながら、何か思い出したように
伊藤店長はエプロンのポケットに手を突っ込んだ。

「山田くぅん、キミも喉が渇いているだろ。
 これあげるよ」
傍らから伊藤店長が、次郎に何かを手渡した。

缶コーヒーだと思って手にとってみると、
それは昆布茶だった。
何でオレだけ昆布茶?
つーか逆に訊きたい。
缶入り昆布茶って、どこで売ってんだよ?
それともうひとつ言っていい?
こんなもん飲んだら、また喉渇くわ!

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