ZOMBB 3発目 トイガンショップ・エチゼンヤへ
<トイガンショップ・エチゼンヤ>には20分ほどして到着した。
山田次郎はズーマーXのエンジンを切り、辺りを見回す。
<トイガン・ショップ・エチゼンヤ>はさして賑やかしい
所からは離れている、シャッター街の角にある。
近くには市民公園もあって、休日ともなれば親子ヂ連れや
リア充のカップルがちらほらと見られる。だが、今ちらほらと
見られるのはゾンビと思しき者たちだけだった。
山田次郎の位置からは離れてはいるものの、
バイクのエンジンを聞いたゾンビ共は、
次第にこちらに向かって来ているようだ。
次郎はグロックを片手に、ゾンビどもを警戒しながら、
店の前にズーマーXを停めて、はて?と思った。
不景気で次々と閉店された、そば屋、ラーメン店、雑貨屋などと
同じように、<エチゼンヤ>もシャッターを降ろしているのだ。
いつの間に閉店したんだ?BB弾を買いに、
先週行った時、店長は何も言ってなかった。
「おーい!てんちょぉ~!店開けてくれよお~!」
山田次郎は、ハナクソをほじりながら、
閉ざされたシャッターを、左拳でガンガンと叩いた。
静かな商店街に、耳障りな音が響き渡る。
「てんちょぉ~!」
その音に触発されたのか、周囲のゾンビたちが次々と集まってくる。
最悪、またAK47βスペズナズで
あらかたゾンビどもを片付けて、
自宅のボロアパートに帰るだけだ。
帰ればBB弾5000発あるし・・・。
そう考え始めた時だった。
<エチゼンヤ>のシャッター横にある、
見るからに安っぽいアルミ製の扉が開いたのは・・・。
「山田くぅん・・・
あんまり叩かないで。奴らが集まってくるからさ~」
情けないほどか細い声を出して
上半身だけ姿をのぞかせたのは、
この<エチゼンヤ>の店長で、
黄色い生地にECHIZENYAと黒いロゴが入っている
エプロンをした、伊藤幸助だった。
彼は年齢38歳。大柄だが気は弱い。
そんな自分が嫌なのか、口ひげを生やして、
威厳を見せているつもりだ。
「なんだ、店長、いたんじゃないッスか。
BB弾買いにきたんですけどぉ
0.25gの5000発」
「だぁ~かぁ~らぁ~、
山田くぅん、大声出さないでって。
ソンビが集まってくるでしょお~。
さ、ここから入って」
伊藤店長は怯えた目で、周囲を注意しながら、
次郎を手招きした。
次郎も彼の言葉に従い、その勝手口から店内に入る。
店内は広い。所狭しと電動ガン、
ガスガン、エアコッキングの
スナイパーライフル、ショットガン、各種メーカーのハンドガン、
それにサバイバルゲームの装備、さまざまな迷彩服、
ヘルメットやゴーグル、ブーツにタクティカルベスト・・・
商品内容は豊富だ。
いくつもの蛍光灯で店内は明るかった。
伊藤店長は、ホッとしたのか、パイプ椅子に腰掛け、
タバコに火をつけて、深々と一服する。
「まいちゃったよ~。こんな風になっちゃてさ~。
店も開けられないし・・・」
伊藤店長は愚痴った。
「あれって、やっぱ、ガチでゾンビなんすか?」
次郎が訊いた。
「ああ、本物みたいだね。
何人も襲われているのを見たよ・・・」
伊藤店長は、ため息をつく。
「いつから、現れたんですか?
オレ夜勤で昼過ぎまで寝てたから」
「山田くぅん、テレビ見てないの?」
「オレ、テレビ見ない人だから。
ネットでニコ生やFC2とか
見るのがメインなんで」
山田次郎の言葉を聞いて、
カウンターにあったテレビのリモコンを
手にとって、スイッチを入れた。
テレビ画面が映し出される。その局では、
<緊急報道番組>をやっていた。
次郎も好きな、女子アナが緊張した面持ちで、
惨状を伝えていた。
『日本中、いや世界中の主要都市で、
まるでゾンビのような者たちが
突如として現れ、人々を襲っています。
皆様は慌てず、警察及び自衛隊、
自治体の支持に従って非難してください———』
日本・・・いや世界中?
やっぱゾンビだったんだ。
山田次郎はニンマリと笑った。
今日は絶対にバイトは休みだ。
「見ての通り、世の中めちゃくちゃになってんだよ。
昨日まではなんでもなかったのに・・・」
伊藤店長は、げっそりしていた。
「でも、あいつら・・・やわらかゾンビたちですけど、
BB弾でやっつけれますよ」
「やわらかゾンビ?」
伊藤店長は片方の眉を吊り上げる。
「あいつら、すっげーやわらかいんですよ。
ダンボールみたいに・・・」
次郎の能天気な応えを聞いて、伊藤店長は呆れ顔になる。
「山田くうん、今がどれだけ危険な事態か
わかってないみたいだねえ。
世界中にゾンビが溢れてるんだぞ。
それも何億人・・・いや何十億人かも・・・。
もう以前の生活には戻れないかもしれないんだぞ」
以前の生活?時給860円でこき使われる、
契約社員の生活?
10分早い朝礼の分、2867円も搾取されてる生活?
そんなものどうでもいい。
これだけ世界が混乱したら仕事どころじゃないだろう。
み~んな、ニートになればいいんだ!
生き残った者だけがビクトリー!
なんと単純でわかりやすい世界だ。
「それで、山田くぅん、
<モーニングフォッグ>のメンバーとは連絡とれたのかい?
僕も携帯電話で坂原君の兄の方につながったんだけど、
途中で通信不能になって・・・」
伊藤店長の言葉で、次郎は初めて気づいた。
<モーニングフォッグ>とは
山田次郎が所属する、サバイバルゲームチームの名だ。
正式メンバーは次郎を入れて6人と少ないが、
個性的なつわものが揃っている。
まずは坂原勇30歳、<モーニングフォッグ>のリーダー。
<モーニング・フォッグ>を発足させて、メンバーを
集めた行動力、統率力はリーダーにふさわしい。
頭からつま先まで、アメリカ海兵隊のコスチュームに
こだわる男。
コードネーム・アジアのランボー。
坂原隆25歳、坂原勇氏の実弟で、妻子持ち。
軽量ギリスーツに身を包む凄腕スナイパー。
愛銃は東京マルイのプロスナイパーV10。
コードネーム・山猫。
そして最古参の貫井源一郎48歳。
東京マルイMP7A1から中華製ドラグノフまで使いこなす、
男気があって、頭の切れる参謀のような男。
コードネーム・パットン。
久保山一郎30歳
リーダーの坂原勇と同窓生。
豊富な軍事関係の知識を持つ男。
物静かな男だが、その冷静な判断力は
熱くなりがちな他のメンバーたちを
冷却してくれる貴重な存在。
コードネーム・静かなるパトリオット。
そして丸川信也32歳。
チーム一、強健なガタイを持つ男。
東京マルイ製G36Cカスタムを使わせれば敵無し。
コードネーム・音速の重戦車。
それに紅一点の新垣優実20歳。
現役女子大生にして、『トゥームレイダース』の
<ララ・クロフト>のコスプレで、
アンジェリーナ・ジョリーになりきって闘う女。
愛銃はもちろん、KSC製のUSPで、
コンペセイター付きの2丁拳銃だ。
コードネームは勿論、ララ。
「<モーニングフォッグ>のメンバーは
どうしてるって言ってたんスか?」
次郎は伊藤店長に訊いた。
「どうやら、ゾンビ退治に
港湾近くの工場跡に向かったらしい・・・」
伊藤店長は頭をかかえた。
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