ZOMBB 10発目 ゾンビ・チェイス
モーニングフォッグ一行は、各自車に分乗し、
相模原のサバイバルゲーム・フィールドを後にした。
コードネーム・静かなるパトリオットこと久保山一郎は、
コードネーム・アジアのランボーこと坂原(兄)の駆る、
完全に『ルパン3世カリオストロの城』に影響され購入した
サンルーフ装備の黄色いフィアット500に同乗し、
コードネーム・山猫こと坂原(弟)は、
妻に猛反対されながらもしれっと買った
真紅のトヨタ・MRSの、
コードネーム・音速の重戦車こと丸川信也は、
家族思いの7人乗りの白いトヨタ・ハイエースの
ハンドルを握っていた。
最古参のコードネーム・パットンこと貫井源一郎は、
本人曰く、家を買うつもりで買ったと豪語する、
黒いトヨタ・ラウンドクルーザー(特別仕様)の
アクセルを踏んでいた。
次郎はララの駆る、FJR1300ASの
牽引するリアカーの中から、
パラシュートで落下してくる、
おびただしい数のゾンビを見上げていた。
それは無数の、巨大なキノコを連想させた。
「オレのキノコだって、
ララのせいで巨大に・・・へへへ」
「何か言った?」
新垣優実の問いかけた声は、
風とエンジン音にかき消された。
いち早くその異変に気付いたのは坂原(兄)だった。
パラシュート降下してくるゾンビのうち、
数十体が風に流されてこちらへ向かってきたのだ。
その何体かが、丸川信也のハイエースの天井に舞い降りてきた。
「パトリオット!音速の重戦車の上に
ゾンビが降ってきた。撃ち落せ!」
助手席に座っていた久保山が、
弾かれたように立ち上がりながら、
足元に置いていたM4アサルトライフルを掴んだ。
それとほぼ同時に、アジアのランボーが
フィアットのサンルーフを開ける。
丸川のハイエースは、フィアットの真後ろを走っていた。
久保山は上半身をサンルーフから乗り出し、
ハイエースの上にしがみついているゾンビたちに狙いを定める。
そしてトリガーを引いた。
タタタタン!という咳き込むような発射音と共に、
BB弾がゾンビたちを襲った。だが、風に流されたBB弾は、
その弾道を曲げ威力も半減し、
ゾンビたちに致命傷を負わせなかった。
久保山は叫んだ。
「ランボー!スピードを落として、車間を詰めてくれ!」
坂原(兄)はブレーキを踏んで、速度を下げた。
丸川信也もそれを察して、スピードを上げると、
フィアットの後部に近づける。
再び久保山のM4アサルトライフルが、BB弾をはじき出す。
今度はゾンビたちの頭を確実に撃ちぬいていった。
丸川のハイエースから、次々とゾンビたちが、
路上に転げ落ちていく。
そのゾンビたちを、貫井源一郎が運転する
ラウンドクルーザーが引き潰していった。
久保山が肩を撫で下ろした時だった。
ゴトンッという鈍い音がしたかと思うと、
1体のゾンビがフィアットの天井に降りてきた。
久保山の目の前だ。久保山の視線はゆっくりと上に向いた。
そのゾンビは白濁した両目を見開き、
真っ赤な口を開いて涎を垂らしている。
いまにも飛び掛ってきそうだ。
久保山一郎は素早く
M4アサルトライフルの銃口を向け、トリガーを絞った。
パスッ。だが弾が出ない。
弾切れだ———。
ゾンビが彼の首めがけて襲い掛かった。
次の瞬間、フィアットに強烈な制動がかかった。
坂原(兄)がとっさにブレーキを踏んだのだ。
その勢いにゾンビがバランスを崩してのけぞった。
久保山はM4アサルトライフルを
フィアットの車内に落とすと、
腰のホルスターから、ベレッタM93Rを抜いた。
セレクターをフルにスイッチする。
トリガーを引くと、小気味いい連射音と同時に、
十数発のBB弾を吐き出した。
ゾンビの頭部が粉々に砕け散る。
そのゾンビは力を失ったように、
フィアットの天井から転げ落ちていった。
貫井のラウンドクルーザーの後方、
最後尾を走るFJR1300ASの新垣優実たちにも、
ゾンビたちは空から襲ってきた。
バイクのタンデムシートに、1体のゾンビが舞い降りて、
背を向けている彼女にその牙を剥いた。
だがララは冷静だった。アクセルハンドルを握ったまま、
左手でレッグホルスターに収まっているUSPを引き抜く。
口を大きく開けてかぶりついてくるゾンビをかわすと、
後ろも見ずにUSPの銃口をゾンビの額にあてる。
こもった発射音がすると、ゾンビの後頭部が吹き飛んだ。
そのゾンビは仰向けに倒れ、背後の路上に落下していく。
「ダンボール!そっちに3人行ったわよ!」
新垣優美はバックミラー越しに、次郎へ叫んだ。
彼女の言葉通り、3体のゾンビがリアカーにねている
次郎をめがけて舞い降りてくる。
次郎は両腕に装備されている
ハイサイクルH&KG3の銃口を向け、
BB弾を連射した。3体のうち、
2体の頭を粉々に粉砕した。
だが、残りの1体が、次郎の上に覆いかぶさってきた。
あわててG3のトリガーを引いたが、
乾いた音を立てただけだった。
弾切れだ———。
「おおい!ララ、銃をよこせえッ!」
次郎はバイクを走らせる新垣優美にむかって叫ぶ。
「やだ」
え?それだけ?やだって、それだけ?
仲間が殺られそうになってるのに、やだって、
それだけか・・・
よおおおおおぉ!
次郎の心の奥底に、ぶつけようのない、
八つ当たり的な怒りがこみ上げてきた。
次郎は今にも噛み付こうと、
覆いかぶさってくるゾンビを
渾身の力で殴りつけた。
パワードスーツで増幅されたその力は、
やわらかゾンビの頭部を砕くのに充分なものだった。
頭が割られたスイカのようになったそのゾンビは、
もんどりうって路面に落ちていった。
そこでパワードスーツの電源は、
完全に使い切って停止した。
次郎は拳を突き上げたままのポーズで固まった。
「わが生涯に、いっぱい悔いあり!」
次郎の口から、
どこかで聞いたことのあるセリフが迸った。
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