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#小説
ユングの娘 偽装の心理2
偽装の心理 2
真代橋署の2階、刑事一課のデスクに鳴海徹也の姿があった。
刑事一課の刑事は、鳴海と鏑木一課長を含めて12名。
だが、今はそのほとんどが出払っている。
刑事見習いの河井聡史は
自分のデスクにへばりつくようにして、
なにやら勉強をしているようだ。
鳴海はそんな彼を一瞥いちべつすると、手元の書類に再び視線を落とした。
鑑識課と監察医、それぞれから
報告書と司法
ユングの娘 偽装の心理3
偽装の心理3
鳴海は鑑識課を出ると、刑事一課へと足を向けた。
自分のデスクの上に置いてある赤いダウンジャケットを掴むと、
真代橋警察署の表玄関へ向かう。
外に出ると、冷たい風が針のように顔を刺した。
陽はまだ高く、ビルの合間から覗く空は
澄んだブルーに染められ、季節が冬でなければ
小春日和といってもいい天候だ。
だが、実際にはそれに反比例するように、
日増しに寒さが厳
ユングの娘 偽装の心理4
偽装の心理4
鳴海徹也と河井聡史の二人は部屋を出ると、
『龍来軒』に戻った。アルミ戸を開けると、
店内は客で満席だった。
市来吉雄が麺を湯切りし、豚骨の香りのするスープを、
幾つも並んだ丼に注いでいる。
彼の「できたぞ」という掛け声とともに、
妻の静江がタイミング良く
それらを客のテーブルに運んでいた。
鳴海は店内に入ると、
厨房で忙しく働いている市来吉雄が声を上げた
ユングの娘 偽装の心理5
偽装の心理5
「座ってもいいかな?」
鳴海は憮然として言った。
この氷山遊という心理学者に対して、
ウマが合わないというか、
相性が合わないと感じずにはいられなかった。
彼女のどことなく人を見下したような、
他人をまるで実験動物を見ているような、
そんな態度が気に食わなかったのかもしれない。
「どうぞ、あちらにあります」
氷山遊は紅茶のカップを口に運びながら、
目でそ
ユングの娘 偽装の心理6
偽装の心理6
翌日の朝、鳴海徹也は真代橋署捜査一課のデスクで、
鑑識から渡された報告書を丹念に読み返していた。
昨夜、帝應大学の研究室棟でユングの娘———氷山遊は
この報告書に書かれたどこかに興味を示したように思えて、
それがいったいどこなのか、知りたいと思ったからだ。
鳴海は時折、腕時計に目を落とした。
午前十時を少し回ったところだ。
今日は河井聡史とともに、
ユングの娘 偽装の心理7
偽装の心理7
「嘘?」
鳴海徹也は思わず、半身になって佇んでいる
氷山遊子の背中に問い返したが、
静江の証言が虚言という気はしなかった。
彼女は自分に対して、正面から誠実に答えてくれたように思えた。
これまで刑事として、数え切れない人物と
接してきた鳴海にとって、
それらの人々の言葉の真偽を見極めるくらいの
力はあるという自負もある。
「あの奥さん、鳴海さんの質問の内容
ユングの娘 偽装の心理8
偽装の心理8
文京区三田にある首都出版は、
業界最大手の出版社だけあって、
そびえ立つその二十階建ての白亜色の自社ビルは、
その前に立つ者を圧倒するような力があった。
氷山遊と鳴海徹也、河井聡史の三人は、
首都出版のロビーに入った。
ロビーは高級ホテルのそれのような造りで、
床や壁には大理石がふんだんに使われた、
一流企業らしい趣があった。
その場に行き交う人々も
ユングの娘 偽装の心理19
偽装の心理19
鳴海徹也はウエイトレスを呼んで、
2杯目のコーヒーを注文した。腕時計を見る。
氷山遊が前原百合加の部屋へ入ってから、
三十分以上が経っていた。
鳴海と河合は、喫茶店の窓際のテーブルについていた。
そこには屋外を一望できる大きな窓がある。
前原百合加のアパートの様子もよく見える位置だ。
「いつまで、かかるんだろうな
ユングの娘 偽装の心理20
偽装の心理20
真代橋署に着いたのは、
西の空を陽が朱色に染めた頃だった。
鳴海は捜査一課の鏑木課長のデスクへ向かった。
鏑木は何やら書類に目を通していたが、
不意に眼前に現れた鳴海に気づいて、
少し驚いた表情を見せた。
「課長、応接室空いてますか?」
「何だ?いきなり」
鏑木はそう言いながらも、
鳴海の背後にいる三人に視線を投げた。
彼は氷山遊の姿を認めると、
ユングの娘 偽装の心理21
偽装の心理21
鳴海は前原百合加の衝撃的な告白に、
一瞬呼吸を詰まらせた。
鳴海の隣りでメモをとっていた河合も、
唖然とした表情を刻んだ顔を上げた。
「その犯人を特定できますか?」
鳴海は静かに訊いた。
前原百合加は声を震わせながら、その名を言った。
「漫画家の牧野善治です」
「牧野っていったら、たしか・・・」
そう言った河合聡史は、驚きを隠せない顔だ。
しかし
ユングの娘 偽装の心理23
偽装の心理23
その数日後、十二月下旬に入った東京の気温は、
観測史上最高気温の25度を記録した。
気象庁は南から来る強烈な高気圧が原因で、
一時的なものだと発表したが、
テレビをはじめとするマスコミは例によって
異常気象だと騒いでいた。
街並みには半袖姿の人々も見られた。
都内のあちらこちらのアスファルトには、
陽炎が立ち昇り、空間を歪ませている。
鳴海徹也は、
ユングの娘 偽装の心理 最終話
最終話
帝應大学に着くと、鳴海は構内の駐車場に車を停めた。
夜の寒空にダウンジャケットの襟を立てながら、
氷山遊のいる第一研究棟へと入った。
鳴海は研究室に行く前に、
男子用トイレに向かった。洗面所で顔を洗う。
氷山遊に自分が泣いていたことを、
悟られたくなかったからだ。
ユングの娘は、些細なことでも見落とさない。
特に相手の心理状態を読むことに関しては、
常人のそ