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『Swing You Sinners!』に内在するアニメーションの原初的な快感

『Swing You Sinners』という短編カートゥーンがある。この作品はフライシャー・スタジオによって制作され、『Talkartoon』シリーズの一作として1930年9月に公開された。日本でも『お化オン・パレード』の邦題で1931年に公開されていたことがわかっている。

私がnoteを始めるにあたってこの作品を最初に取り上げたのは、それだけの特異性がこの作品には満ちているからである。その特異性は、同時期のカートゥーンに比べてアニメーションの原初的な快楽が著しく表出している点にある。

『お化オン・パレード』は、音楽とアニメーションに非常に高い同期が見られることで注目に値する。ニワトリを盗もうとした黒犬(後にビンボーという名前が付けられるキャラクターのプロトタイプ)が警官に追われ、逃げ込んだ墓地や廃屋でお化けによって大変な騒ぎにあうという単純なプロットをベースに、作品はひたすら狂騒的なジャズとアニメーションのマッチングによって構成される。
ジャズとアニメーションの融合が見られるのは主に作品後半からで、キャラクターが音楽のリズムに合わせて踊るだけでなく、通常であれば静止しているはずの背景までもが音楽のリズムに合わせて揺れ動くのである。
繰り返し動画が多用されているのも特徴で、キャラクターと背景が音楽のリズムと同期して、全く同じ作画枚数で動きが何回も繰り返される。この作品では、画面上に存在する全ての物体がリズムに合わせて動くと言っても過言ではない。

この作品は、見る者にアニメーションが本来持っていた原初的な快感をダイレクトに伝えてくる。その快感は、紛れもなく音楽によって増強されているのである。
元々フライシャーが作る作品は、「快感」を全面的に押し出したものが多かった。サイレント時代の『インク壺の外へ』『インク壺小僧』といったシリーズでは、メタモルフォーゼや実写合成などをはじめとする非現実的な映像の快感が作品全体に満ちていた。
そしてトーキー時代が訪れ、音という新たな道具を手にしたフライシャーは、アニメーションにリズムの快感を内在させることに成功したのである。元々アニメーションは、実写に比べて映像のタイミングを細かくコントロールすることが容易な表現技法であった。フライシャー作品は音楽のリズムを映像のタイミングに忠実に反映させることによって、それまでになかった強烈な快感を作品に付加することができたのである。

本作に内在する快感は極めて原初的なものである。「見ていると体がうずうずしてくる」「見ていると踊りたくなる」といった、人間の本能を刺激するような快感が湧き上がってくるのだ。そこには言葉で言い表せない狂気と興奮の世界がある。

他の同時期(1930年前後)のカートゥーンにも、本作と同じように音楽(殊にジャズ)を主題とした作品は数多くある。しかし、本作を超える快感を持つ作品はほとんど存在しないと言ってよい。無機物が生命を得たような動きをしたりメタモルフォーゼをしたりといった快感は他の作品にも存在するが、それらに加えてリズムの快感が強調された作品となるとほとんど見当たらないのである。私はそこに本作、いや同時期におけるフライシャー・スタジオ作品全般の特異性があるように思えるのである。

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