【 #球春到来 】和歌山ファイティングバーズ全体練習~挑戦と競争と~
雪でスタートした強化練習
紀南といえば暖かいイメージがある。実際50年ほど前にはNPBでも田辺市でこの時期にキャンプを行った実績がある。
が、本日球場に向かう道すがら吹雪に遭った。大丈夫かと思いながら車を走らせ球場についたが、やっぱり寒かったし、雪が降っていた。
「佐賀でキャンプした時も前に湯浅でキャンプした時も雪が降ってたのよね……毎年強化練習するときは雪になるんですよ」とは球団スタッフの吉川美和さん。
今回は御坊総合運動公園野球場で2日間の予定で、朝から夕方まで強化練習を行うことになっていた。
意識と一体感
「寒いから怪我だけには気を付けて!長時間練習するわけだから無理だけはしないように」
川原昭二監督が選手を集めて伝えた。
「そして、これだけは守ってくれ。グラウンドでは歩くな。そして無駄な時間がないように過ごしてくれ」
そう言って選手たちを練習に送り出していった。
川原監督の指示通り、練習の合間合間は選手は歩くことなく過ごしていた。
練習の合間も時間を見つけては自分の課題に取り組む選手の姿があった。
「やっぱりお客さんが見て、タラタラした姿は見せられないでしょう。きびきび動いていなかったら応援しようとする気もなくなりますし」
グラウンドを見ながら川原監督が語る。監督就任してから4シーズン目。選手たちの成長を感じている。
「やっぱり最初とは全然違いますよ。選手たちの意識も変わってきましたし、休みの日でも『ちょっと練習を見てもらってもいいですか』と連絡が来る。いいように使ってくれたらいいんです。それで選手たちが成長してくれるならそれに勝る喜びはありませんよ」
昨年最終戦で優勝を逃した和歌山。その点については「練習からみんなが同じ気持ちになれば。練習をやればうまくなるし、試合で勝てば自信になるし、その積み重ね。負けたくないという気持ちはみんな持っています」という。
「人と同じ練習をしてはダメ。みんなアルバイトとかをしながらやっていますが、少しの時間でもシャドウピッチングをしたり、トレーニングするということはできるはず。目標を失わず一日一日を大事に、継続してやってほしいですね」
少し川原監督のNPB時代のキャンプについても聞いてみた。
「そりゃああの頃はすごかったです。張本勲さんというとんでもない人と練習できたことや、高橋里志さん、高橋一三さん、江夏豊さん……まず練習を見て盗んで、そして練習して、ようやく認められて、声をかけられて一緒に練習できる、という時代でした。何とかうまくなろうと思って(相手チームの)近鉄のブルペンによく投手を見に行きました。コーチをされてた仰木彬さんから『またお前見に来よったんか』と何度も言われました。それぐらい必死でした。何とかうまくなってやろうという姿勢を選手たちに伝えられればと思います」
決意のコンバート
練習が本格化した。投内連携が始まったころ。一人の選手がキャッチャー用の防具をつけて飛び出した。
深谷力だ。
元々高校時代も捕手。和歌山に入団した2019年も捕手登録だったが、捕手をすることなく三塁、遊撃の守備についていた。2019年シーズンの夏、初めてのホームランを打ったあたりから打撃が上向き、すっかり巧打の内野手となった。現在3年連続打率3割を記録している。
昨年5月のNPB交流戦ではオリックス・バファローズの平野佳寿投手からヒットも放っている。
「同じ学年にものすごいショートの選手がいて、期待されてNPBに入っていった選手がいるんですが、そんな選手でもNPBに入るとサードやファーストにコンバートされたりしている。ショートとしてNPBを目指していましたが、3年やってみて足りない部分が多すぎました」と深谷は振り返る。
シーズン後に川原監督に「キャッチャーをやらせてください」と直訴した。そこからの深谷は本気だった。
「オフの期間、12月も1月もずっとキャッチャーの練習を続けていました」
そう言う深谷の下半身は心なしかどっしりしたように見えた。
投内連携、ブルペンでの立ち振る舞い、そのあとのブロッキングの練習などを見る限り、ほとんど違和感はない。「あとは慣れ。変化球の反応さえできれば」
「もしキャッチャーでNPBに入ることができれば可能性が広がると思う。キャッチャーでダメなら、という気持ちで取り組みたいです」
川原監督も「肩も強いしよく練習できている」と評価している。その成果がシーズンに入ってどう花開くか見ていきたい。
ポジション争い
深谷がキャッチャーに、となると、ここ数年不動だったショートのポジションが空くことになる。
投内連携やノックを見てみたところ、色々な選手がいろいろなポジションに入る様子が見れた。
主にショートに入ったのは堺から移籍した藤原楓、そして3年目の佐藤大介選手だ。
「人数をあんまりうちは取らない、少数精鋭でやっているので、選手にはいろんなポジションでいろんな角度から野球を見てほしい。榎本(隼人)も適性を見てショートをできるか見ていきたい」
榎本が入っているセカンドには新加入の堅木大輔(かたぎだいすけ)や竹鼻優斗(たけはなまさと)も入った。
その他、佐藤、堅木は三塁にも入った。
一通りの動きを見て「今日一番安心したよ」と川原監督。
ポジション争いにも注目だ。
メリハリ
この日は夕方まで練習するということでランチタイムが設けられた
その後それぞれが分かれて打撃練習や投球練習に分かれて練習が続けられた。
そのあともグラウンドにいる時間を決して無駄にしない。いたるところで選手たちが体を動かしていた。
投手陣にはスペシャルメニューが待っていた。ペッパーだ。
時折「んあーーーーー!!!」と声にもならないような声を出してペッパーに臨んでいた投手陣。川原監督も「走ろうと思ったら走れるんやから!」と選手に声をかけ続けていた。
この下半身強化のメニューがシーズン通しての強さになっていくはずだ。
帰ってきた地元生まれのスター
今年1人のベテラン選手が加入した。いや、戻ってきた。
大前拓也。白浜町出身の地元の選手だ。
このリーグが発足当初から在籍し、昨年は大分でプレー。その様子が全国放送のテレビにも紹介された。
年末に再度取り上げられた際には「地元和歌山でみかん農家を営んでいる」という近況が語られたが、現在はみかん農園に籍を置きつつ、独立するための研修を受ける準備をしているということだ。
その中で「最後1年、地元で野球をやろうと思った」とのことだ。
「紀南地方を盛り上げたい、と思いました。人口比も違うので一概には言えないのですが、大分や九州とお客さんの入りが全然違う。野球を通じて盛り上げたいなと思いました」
地元のお客さんだけでなく、色々なところから野球を見に来てほしい。紀南地方にたくさんの人に来てほしい。そう言った思いがある。
「遠くから和歌山に来てくれるような仕組みも作りたいなと思っています。……とは言え、そうなると色々なところから協力をしてもらわないといけないのかなと思うのですが、旅行会社とかとコラボとかできないかなぁと思っています」
大阪からは田辺に行くには約2時間ほど。阪和道と湯浅御坊道路が片側2車線化したため、渋滞が少なくなり行きやすくはなった。
しかしそうではなく、地元と球団をもっと結び付けていろいろなところから人を呼べないか、ということを考えていた。
最後の1年は「農業との二刀流」に挑む。
「独立リーグで野球をやるにあたって、二足の草鞋を履くことが本当にいい事なのかなと悩んだこともありましたが、野球でできた人とのつながりは野球をやめたとしても何かに生きると思っています。人とのつながりを大事にしたいと思います」
関西では東大阪、姫路、堺、そして和歌山と4つの球団を渡った大前。
ラストシーズンと位置付ける今季は和歌山を盛り上げるために奮闘を誓っていた。
北岡新代表
3月1日付で球団代表に就任する北岡大伸(きたおかひろのぶ)代表にも話を伺った。
「代表就任のきっかけは、元々、少年野球の指導者をしていたところ、田所前代表などとお付き合いができまして、昨年上富田で行われたトライアウトに差し入れを持って行ったところ、尹煕元オーナーからお話をいただきました」
オーナー会社のシーエムディーラボでは体の動作の研究なども行っている。野球をするにあたって怪我の予防や技術の向上などにも役立つところもあるはず。少年野球の指導者として、野球を広めていくためにも必要な部分ではないか。そう思い球団代表のオファーを受諾した。
そんな北岡代表だが、練習が始まる前に選手に苦言を一つ。練習開始予定時間の9時直前になっても選手がグラウンドに出てこない。
「こういうところが去年2位で終わったところじゃないですかね?」
組織自体が意識を変えないといけない。意識を変えないと結果も変わらない。県民球団を目指していくために、プロ意識をしっかり植え付けたいとも話した。
「この後も期待してくださいね!」と北岡代表。
練習の間にもスポンサー契約を成立させるなど精力的に行動している。
北岡代表の下、チームがどう変わっていくのか注目してほしい。
長く短い1日
16時30分ごろ、最後の打撃廻りが終了した。練習終了だ。
片付けが始まったと同時にまた雪が降ってきた。
川原監督は「練習中だけでも日が当たっていて本当に良かった」と振り返った。
翌日も同じく長時間練習予定。しっかりケアをして臨むようにという指示があった。
投手陣は全員残留。野手もほとんどが残り、新加入選手もやってきた今季の和歌山。僅差の2位になった昨年の雪辱を晴らすため、もう間もなくやってくる春に向けて備えていく。
(取材日:2月21日 SAZZY)