ニート、東北へ行く ~東日本大震災ボランティア記⑤~ 十八~
以下の文章は3度のボランティア体験について2011年5月~12月にかけて当時書いたものです。
十八・我
作業で一番気をつけなくちゃいけないこと。それはケガ。僕らが作業するのは不衛生な場所だってある。どこから来たかわからないヘドロが相手だ。そこに埋もれたガラス、釘によるほんのかすり傷だって、大きな病を引き起こすことだってある。傷を受けたわけでなくても、爪の間に入ったばい菌による化膿だってある。現にボランティアの一人が爪の間が腫れて、病院に行ったこともあった。
ゆえにどんなちいさな傷でも報告して、作業を止めてカスカに帰って手当を受けることになっていた。
安全が一番大事。それに、そのとき無理してケガが悪化したなら、次の日から参加できないでしょう?その日休むだけと、それからずっと休み、どっちがいいかってそりゃわかるでしょう?知ってるでしょう…大泉でございます。パイくわね…いかんいかん。何どうでしょう入ってんだ。しかもシェフ大泉笑
気を取り直して、そんな感じで、あんなに言われていたはずだった。特に最終日は気をつけろ、とも。ってかさっきLLさんに笑って話したろ?その舌の根も乾かないうちに・・・
目の前の景色が急に上がっていく。両足から全身に衝撃が上がっていく。右足に感じる痛み…。
十九・堕
…なんて書いてみたけど、とどのつまり、側溝に落ちただけだ。スリランカ・チームが綺麗にしてくれたあの側溝に。メンバーが心配してくれる。気がつきゃ、手をすりむいている。でも軽くすりむいただけだ、大丈夫・・・と思ったら、作業する御宅の奥さんが「大丈夫ですか?」って聞いてくる?どういうことさ?って右手を見たら、小指から血が噴き出してる・・・。「大丈夫じゃないみたいですね。」何言ってんだ俺?
共同作業している他のチームのリーダーに言って、ADさんに「自分がケガした。」と電話。もちろんカスカへ強制送還だ。水道貸していただいて、血を洗い流す。消毒液を傷口に。って何この御宅にお世話になってんだ!?俺…
みんなに一度帰るって言って、独りさびしくカスカへ戻る。途中で、声にならない変な悔恨のうめき声をあげる。どうして落ちた?今さら考えてみる。お昼休みを終えて、カスカを出た俺たちは御宅の前までやって来ていた。俺はガレージに残っていたガレキを見て、“あれ移動させた方がいい~のかな~!”~のかな~で落ちた。はぁ、完全なる私の不注意だ。悲しきかな。
その日の午前中は確実に張り切っていた。土嚢にスコップで泥詰める作業も、「代わろうか?」って言われても「大丈夫です。」ってもうひと踏ん張りしていたんだ。「Why don’t you do you are best?!!」「なぜベストをつくさないのか!?」かつてのさわやか(笑)な外見は消え、眼鏡と髭面の髪型だけ脂ぎってオールバックの上田次郎(TRICKより)化した俺は、そう自分に言い聞かせながら作業していたんだ。
ってそれが無理したってこと?こんな少しの無理さえ、私の五感を鈍らせ、あいている側溝にも気づかせなかったというの?・・・違うだろ、なんとなく妄想してみたけれど、ただの不注意だ。劇的に見せたがるのは俺の悪い癖だ。
そうだ、みなさん。ボランティアに行かれるときは、一部の側溝が外れているから、ほんと気をつけて。水の力で数メートル先まで大きくて厚い側溝が流されたりしてる。ところどころあいてるから気をつけろ!っておまえが言える立場か!
DADA:RADWIMPS
二十・芽
この景色の中、何しに来たんだ?とカスカに戻る。ADさんは大きいケガじゃないかを確認して、また別の現場へ。忙しいぜ。中で寮母さんに治療してもらう。よかった。痛かった右足も確認してみたけれど、別に非道いケガはなかった。
そして復帰だ。ダメ人間の復帰だ。何よりもまた動ける。それこそ喜びだ。あのまま終わってしまったなら、悔いばかり残っただろう。何もできないのが当たり前って思ってたし、自分がやったことなんてほぼないって、メンバーがやったことだって、思ってた。簡単なやったことある作業に流れてしまう俺だった。それでも、動いてはいた。やったとと己に甘い自分が自己満足するくらい。そうやって出来ない自分を責め過ぎないようにしてたんだ。なんとかなってるって。悩みで眠れない夜なんてなかった。疲れて眠ってしまうぐらい体を使っていたんだ、こんな私でも。
残りの1時間もくもくと動いた。落ちるとき見てたガレージをきれいにした方がいいよねってメンバーを誘ってブラシで掃除。最後のボランティア。いろいろあったけど、とりあえず作業して終わることができた。御宅の方に、お礼を言う。でも、この御宅は泥かきしないといけない場所もガレキを取らなきゃいけない場所もまだまだある。俺は最後でも、まだ続いている。明日からは別のチームが入って作業するんだろう。そして御宅の方々にとっては大変な日々が続いていくんだ。俺はそれを忘れちゃいけない。ひょっこりやってきてひょっこり帰っていくボランティアなんだから。
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