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Ain't No Way : Aretha Franklin
2018年、アレサ・フランクリンが亡くなったとき、山下達郎のラジオ「サンデーソングブック」(FM東京)で追悼特集をやっていました。
山下達郎はアレサ・フランクリンを評して、「今の音楽ビジネスの現状を考えますと、歌唱力や売り上げで上回る人はいるでしょうけども、アレサ・フランクリンのような存在感のシンガーは、もう、たぶん出てこないと思います。アメリカの歴史が生んだ、そういう意味ではスターだと思います。」とか、「自分の中学から高校にかけて、アレサ・フランクリンでありますとか、ジェームス・ブラウンのようなですね、自分には全くこう・・歯が立たない。文字通り「超絶的」なアーティスト。」と話をしていました。
私も全く同じ思いです。R&Bのキングがジェームス・ブラウンとしたら、クイーンはアレサ・フランクリンでしょう。最近日本でもR&Bっぽい歌い方のシンガーが多く出てきていますが、アレサ・フランクリンの歌を聴いてしまうと、格が違いすぎて・・・って感じです。
■映画「ブルース・ブラザーズ」
私が始めてアレサ・フランクリンに出会ったのが映画「ブルース・ブラザース」(1980年)。アレサ・フランクリンは、レストランを夫婦で営む女主人の役で出演しています。夫はブルース・ブラザーズの二人とかつてバンドを組んでいました。その縁で、二人から「バンドにギタリストとして参加してくれ」と頼まれ、バンドに参加しようとします。ここでアレサ・フランクリンが登場し「あんたがバンドに戻ったら、私はどうなるの」というメッセージを込めて「Think」を歌うシーンがあります。
また、サントリー「ジムビーム」のCMでも使われていましたので、「Think」を知っている人も多いと思います。聴いたことは一度はあると思います。
■Ain't no way
もちろん「Think」も素晴らしい曲なのですが、私はアレサ・フランクリンの最高傑作ともいわれているアルバム「Lady Soul」(1968年)のラスト・ナンバー「Ain’t No Way」を押したいと思います。この曲はアレサ・フランクリンの妹のキャロライン・フランクリンが作詞作曲しています。1986年のシングル「(Sweet Sweet Baby) Since You've Been Gone」のB面でもリリースしています。こちらは、両面ともチャートしている珍しい曲とのことです。
「No Way」は「とんでもない!」という意味で、そこに「Ain’t」という否定形が付きます。普通に考えて強烈な否定ですよね。
調べたところ、文法上「とんでもない!」ことで、スラングで女性でしたら「まっぴらごめんだわ」、「超全然ありえないわ」といった意味とのことです。好きなのに全く受け入れてくれない女性の辛さを歌ったもので、8分の6拍子のスケールが大きい、情感あふれるナンバーです。クレジットを見たら、アレサ自身がピアノを弾いて、妹のキャロラインもコーラスで参加しています。コーラスの超音波のような超高音は誰の声かな?アレサかな?ほかのアレサの曲にもいえるのですが、ゴスペル・テイストの強い曲です。
アレサ・フランクリンの伝記映画「リスペクト」(2021年)を見ましたが、ビリー・ホリディやジャニス・ジョプリンと同様、男運が悪かったシンガーです。幼少からキング牧師やダイナ・ワシントンから可愛がられる一方で、父親からの支配。父親から逃げるように結婚した夫からのDVなど苦労をしています。「Ain't no way」は自身の人生ともかぶる歌詞なのではないでしょうか。アトランティック・レコードに移籍したことで運が上向きます。「Lady Soul」は一番脂が乗りに乗ったときのアルバムだと思います。
Ain't no way(AI和訳)
あなたを愛することはできないわ
あなたが許してくれないなら
あなたの必要とするものすべてを与えることはできない
私のすべてを与えることを許してくれないなら
女性の務めは男性を助け、愛することだと分かっている
そしてそれが計画だったの
でも、どうやって、どうやって、どうやって
私にできることすべてをあなたに与えられるの?
あなたが私の両手を縛っているのに
ありえないわ(ありえない)
ありえないわ(ありえない)
絶対にありえない、ベイビー(ありえない)
ありえないわ、ベイビー(ありえない)
あなたを愛することはできないわ
あなたが許してくれないなら
自分じゃない誰かになろうとするのはやめて
どれほど冷たく残酷な男なの
手に入れたものに高すぎる代償を払う人は
アルバム「Lady Soul」は山下達郎もアレサ・フランクリンのアルバムの中で一番聴いたアルバムと話していました。全曲素晴らしいので、アルバムを通して聴いてほしいです。
余談、「Ain't no way」が、どうしても「井上」と聞こえてしまう。英語がダメな究極の日本人耳の私でした。