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エジプト学の書籍紹介(中期エジプト語編)


こんにちは。関大言葉と文字研究会に所属している、文学部 4 年の学生です。今回は、私が研究しているエジプト学において必要とされる、中期エジプト語の書籍を紹介したいと思います。

私は、主に古代エジプトの歴史研究を行っています。現代では用いられる事のない聖刻文字(ヒエログリフ)の解読を通じて、当時の歴史を考察しています。

昨年の12月下旬に開催された第 1 回発表会では、私の研究対象である鉱山・採石場の岩壁に刻まれた碑文と図像表現について簡潔に紹介しました。古代エジプトと言えば、ピラミッドやツタンカーメン、巨大な神殿などをイメージすると思われますが、エジプトの鉱山・採石場にも、当時の歴史を理解する上で重要な記録が残っています。そのような歴史史料が、実際に起こった「歴史的事実」を反映しているのか、あるいは、「繰り返される歴史」を反映しているのか、という事についても第 1 回発表会の中で考察を加えました。

このように、古代エジプトの歴史研究で使用される聖刻文字ですが、実は聖刻文字にも文法があります。ところが、聖刻文字の文法については英語やドイツ語のようなものとは異なる部分が多く、研究者の間でも解釈が異なる事があります。そのため、聖刻文字には絶対的な文法が確立されていないのです。

ただし、絶対的な文法ではないからこそ、聖刻文字に対する解釈はあらゆる可能性を秘めていると思います。少しでも、聖刻文字に対する関心を持って頂けると幸いです。聖刻文字の文法を初めて学ぶ方は、以下の書籍から読む事をおすすめします。

① 吹田浩(2009)『中期エジプト語基礎文典―増補新装版』ブイツーソリューション

この書籍は、聖刻文字の基礎となる「中期エジプト語」の文法を簡潔かつ丁寧に説明しているものです。まずは、この日本語書籍から中期エジプト語の文法を理解した上で、外国語文献の文法書を読む事をおすすめします。中期エジプト語文法に関する外国語文献は以下のものがあります。

② Allen, J. (2014) Middle Egyptian: An Introduction to The Language and Culture of Hieroglyphs , Cambridge University Press.

③ Selden, D. (2013) Hieroglyphic Egyptian: An Introduction to The Language and Literature of The Middle Kingdom , University of California Press.

また、中期エジプト語の文法をある程度理解した上で実際に歴史史料を解読したい方は、以下の辞書を使用する事をおすすめします。

④ Faulkner, R. (2017) A Concise Dictionary of Middle Egyptian, Griffith Institute.

こちらは、中期エジプト語の単語をまとめた辞書になっています。研究者の間で広く使用されている辞書で、こちらもInternet Archive から無料ダウンロードする事ができます。

この他にも数多くの文法書や辞書が出版されていますが、まずは①と④の 二冊と、下記に紹介する⑤の書籍を揃えれば大丈夫です。私の勉強法としては、ある程度文法内容を理解した上で、実際に歴史史料を解読し、上記の日本語書籍と洋書から歴史史料で使用されている文法・単語を確認し、その史料に対する他の研究者の解釈を確認する、というものです。そのような作業をする事で、聖刻文字に対する内容理解を深めるだけでなく、他の研究者がどのような観点から別の解釈を導き出しているのか、という事を知ることができます。

中期エジプト語の歴史史料を集成したものとして、以下の文献がおすすめです。

⑤Buck, A. (1948) Egyptian Readingbook: Exercises and Middle Egyptian Texts, Ares Publishers.

こちらの文献は、『死者の書』のような宗教文書をはじめ、『難破した水夫の物語』のような文学作品、鉱山・採石場の岩壁に刻まれた碑文などのテキスト(聖刻文字で記された史料)を集成しています。また、この文献の特徴として、テキストに対する翻訳が載っていません。そのため、まずは自分自身で聖刻文字を解読した上で、他の文献から研究者の解釈を参考にする事をおすすめします。そうする事で、聖刻文字に対する理解が深まると思います。

日本語の翻訳を参考にする場合、以下の文献をおすすめします。

⑥杉勇、屋形禎亮(2016)『エジプト神話集成』筑摩書房

文献のタイトルに「神話」と書かれていますが、神話以外にも『シヌへの物語』や『難破した水夫の物語』のような文学作品や『プタハへテプの教訓』といった教訓など、数多くのジャンルが掲載されています。コンパクトサイズなので、好きな箇所から読める点ではおすすめです。

また、英語の翻訳を参考にする場合、以下の文献が有用になります。

⑦Simpson, W. (2003) The Literature of Ancient Egypt: An Anthology of Stories, Instructions, Stelae, Autobiographies, and Poetry, Yale University Press.

この書籍以外にも、聖刻文字の翻訳が記された外国語文献は多岐にわたります。一つの文献のみならず、他の外国語文献と比較して訳し方の違いを理解する事は、他の学問と同様に重要な事だと思います。 

実際に歴史史料を読む事が、聖刻文字に対するさらなる理解を深めるきっかけになると思います。ぜひ、古代エジプト語の世界に飛び込んでみて下さい。

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