『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』ネタバレなし感想
公開中の映画『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』を観た。
都内でも数館しか上映していない規模の映画を選んで観るのは久しぶりだったけれど、なかなかに当たりだった。
タイトルから想像されるような痛快なストーリーではなく、暗くて静かなサスペンス。
ナチスによる監禁に抗う主人公とその後を描くシンプルな物語なのだけど、話の運び方がとにかく巧い。
ナチスによる監禁中のホテルでの辛い日々と、自由の国アメリカへ向かう船上での出来事。
2つの時系列で話が進み、後半に伏線が回収されていく。
不可能とも思われるナチスの取調べを主人公はどうやって耐えしのいで、解放され自由を得たのか。
監禁され憔悴していく主人公は一体どうなってしまうのか。
このあたりがミステリーでありサスペンスにもなっている。
特に良かったのが、主演俳優オリヴァー・マスッチの表情の変化。
序盤の豪胆で快活な顔つきと後半の憔悴した後ではもはや別人に見えるくらい。
段階を踏んで少しずつ少しずつ弱っていく様子や、その後の変化などが真に迫っていて、彼の醸し出す不安や緊張に引き込まれて目が離せない。
観終わって各場面の意味を考えてみると、チェスの勝敗や対戦相手、棋譜など、とてもキレイに位置づけられていて唸らされた。
タイトルはだいぶミスリーディングで、実際は暗く静かなテンションの作品である(画面はほぼ暗い色合いだった)、ということを踏まえて観れば、良い評価をする人がほとんどではないかと思う。良質な作品。
映画を観たあとウィスキーを飲みたくなるのもこの作品の隠れた魅力かも。