和菓子
「和菓子のアン」という小説を読んだのは、5年ほど前のことだろうか。
特技もなければ夢もない、だけど食べることだけは大好き。そんな女の子がデパ地下の和菓子屋さんでアルバイトをし、様々な出来事や人、そしてお菓子に巡り会う物語だ。
私はこの小説が大好きだ。
テンポのいい文体、主人公の若さゆえの曖昧さ、社会の厳しさ、その中で優しく見守ってくれる人々、そして何よりも美味しそうな和菓子たち…
これを電車の中で読んだ暁には、途中下車して、デパ地下に行って、そして和菓子屋を探してしまうだろう。
私はその時、和菓子屋の目の前にいた。
もちろん、和菓子のアンに触発された後のことだ。
目の前に並ぶたくさんの和菓子。
ああ、何にしようかな…
しかし、私には致命的な欠点があった。
粒あんが食べられないのだ…
いや、ここまでこんな感じで書いといてそれなん!?っていう気持ちにはなってるとおもう、ほんとうに申し訳ない、今回いい感じに書いとったやんってね、はいそんな感じでしたよね、うん
そうなのだ。私は粒あんが食べられないのに和菓子を食べたくなってしまったのだ…。
私は悩んだ。
なんせ粒あんを避けて生きてきた人生だったので、粒あんを含まない和菓子を知らない。
なんなら粒あんにぶち当たらないように和菓子を極力避けてきた。
でも!!!!
今日は!!和菓子のアンに!!!触発されて!!!和菓子食べたくなっちゃったんやもん!!!🥺
私はショーケースを凝視した。
お前には粒あんが入っているのか…という目線をそれぞれの和菓子に送っていった。
もはやロシアンルーレットをしている気分だ。
「というか何故お前はここまで和菓子のアンに影響されてるのにまだ粒あんが嫌いとかをほざいているんだ。案外美味しいかもしれんぞ。試してみろ。」
心の中のミニ神田1号が囁いてきた。
「いやいやいや、今まで何回もチャレンジして結局美味しくなかったのなら、せめて美味しく食べられるお菓子を探して買った方がいい。それがお菓子にとっても1番嬉しいことでは無いのか。」
心の中のミニ神田2号まで出てきた。流石に3号までは出てくるなよ。
うーんでも、小説の中のお饅頭とか羊羹、めっちゃ美味しそうやったしなあ…
「小説だからだろ。実際の味覚が小説によって変わるものか。」
と、2号が叫んでいる。
「物は試しだろ、1回買ってみろよ。もし美味しくなかったら家族にあげればいいだろう。」
1号も負けていない。
ああ、もう結局どうしたらいいんだ…!
「なにかお探しですか?」
はっ…!このやさしい声はっ…!
お店の人ッ!!!!!!!!
「あ、あのー、和菓子買うの初めてなんですが…」
「そうなんですね!ではこの時期にオススメの心太なんかいかがでしょう。お饅頭や羊羹と違ってさらっとした食感が楽しめますよ?」
「あーーーそうなんですね!」
ところで、私は押しに弱い方だ。
「いかが致しましょうか。」
「あーー、んじゃあ、それで!」
帰宅途中、1号と2号が言う。
「「それはない。」」
結局、私はそれっぽい和菓子を食べることが出来ないまま、帰路についたのであった。
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