5月24日 日記
良い本を読んだ後と恋が終わった後、世界は昨日とまるっきり変わって見えると思う。
一日で読み終えてしまった、コロンとした文庫本。
今日の私の拠り所はここだった。
良い本だった。
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最近、予定時間よりも早く起きてしまって眠れない。
かすかにある夢と自分の想像の境目、私は毎朝そこをゆらゆらと旅している。
今日の夢は楽しかった。
知らないおじさんと廃墟みたいな電車を抜け出して、誰もいない街を散歩した。
あなたは何を知っているの?
と私が聞くと、
そこのクレーンが倒れることだけは知っているさ
と、大きなクレーンを指さしたおじさん。
その後大きな音を立ててクレーンが倒れた。
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帰りの電車で本を読み切り、ため息をついた。
ああ。
良い本だった。
誰にも媚びぬ聖域のような世界がそこにはあった。
ふと左の窓を見やると、窓に反射した私の顔が写った。
息を呑んだ。
私ってこんなに大人っぽかったっけ。
軽い衝撃を受けてしまって、そのままぼうっと自分の顔を見ていた。
いつの間に、私はこんなに大人になったんだろう。
あの時思い描いていた、いや、あの時思い込んでいた大人の顔が、そこにはあった。
知らない間に、私は、知らない私になっているんだ。
あの時の私には、今の私はもう大人なのだ。
得体の知れない恐怖で俯いてしまった。
もう一度窓を見た。
やはり、すっかり大人みたいな顔をした私がいた。
じっと見つめて、
周りからはこう見えてるんだな、と、ぼんやり思った。
子供だった私には思いつかないようなことばかりだった。21歳になってもまだ大人に嫌悪感を抱いているなんて、ガキの頃の私に笑われてしまいそうだ。
そのまま見つめていると、なんだか見え方が変わっていった。
今の私の顔は、良しも悪しも、それ以外も全部、全部を背負って、そして全部を捨てた顔なのかな。
そう思うと、知らない人に見えた自分は、まだ歪な部分があるけど、確かな私の顔にゆっくり戻っていくようだった。
私は、私にしか見えない、瞳の奥のゆらぎをまだ愛していたい。
未熟な炎がまだそこにはちゃんとある。
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私は今日からちゃんと一人になった。
きっと、今日、やっと、ちゃんと一人になれたのだ。
一人って、自由で、強烈で、理想的で、寂しい。
ちゃんと一人になれるのは、一人じゃない私がいたからだ。
思い出を抱いて、私は一人で日々を歩いていこう。
次はどこへ行こうか。この思い出と一緒に。
夜風が肌に気持ちよくて、そっと目を閉じた。
筋肉痛が愛しいほど、過去と今を繋げている。
幸せは途切れながらも続くと歌う声が耳を撫でる。
今日の私があるなら、明日の私はどこまでもいけるだろう。
そんな気がする。