筋肉質の文章

 業界の共通語なのか、それとも朝日新聞の方言なのか知らないが、「筋肉質の文章」という言い方がある。「よけいな贅肉をそぎ落とした、無駄のない文章」という意味だ。

 新聞記事は短い。朝日新聞の場合、原則として1行は12字。「短行(たんぎょう)」と呼ばれる原稿の場合、おおむね15~20行程度しか取れない。400字詰めの原稿用紙なら1枚の半分程度だ。小学生の宿題だって3枚くらいは書く。(ちなみに中行で50~60行、長行で90~120行程度。それを越えると超長行。)

 なので、短い行数にどれだけ情報を詰め込むかが勝負になる。原稿を短くする作業に、記者やデスクはかなりの労力を割いている。「では」を「は」にするなど、2文字の助詞を1文字に削るレベルまで考える。だから「筋肉質の文章」というのは、ほめことばだ。

 朝日と産経、読売では、たとえば社説の考え方なんかは全然違うが、事件・事故を伝えるような短い記事の場合、どの新聞でも書き方の作法はほとんど変わらない。突き詰めると同じになってしまうんだろう。

 ところが、ネットの文章は全然違う。字数制限がない。4月からwithnewsというネットのニュースサイトに関わるようにになった。今まで「米国」「英国」と書いていたのが、「アメリカ」「イギリス」と表記する。いつも魂を削って字数を削っているのに、なんと2倍も長くなる。これはとんでもないことなのだ! が、ぱっと見た時にわかりやすい。

 読者のほとんどはスマホで記事を読んでいる。小さい画面で読むと、漢字は黒いごちゃごちゃにしか見えない。内容のよしあしに関係なく、嫌われてしまうのだ。

 実は、新聞で筋肉質の文章がよしとされている背景も同じようなこと。紙の新聞の活字は、年を経るにつれて大きくなっている。朝日新聞の場合、1981年までの30年間は同じ大きさだったが、その後の30年間で5回大きくなった。1文字あたりの面積でいうと、2倍になっている。

 大きくしたのは、その方が読みやすいからだ。なにせ新聞の読者にはお年寄りが多い。紙面作りにコンピューターが導入されたことで、活字を大きくすることが簡単になったという事情もある。でも、紙の大きさは変わっていない。だから、載せられる文字数は減った。少ない文字数でも同じ内容を伝えようと思えば、「筋肉質の文章」にしなけりゃしょうがないのだ。

 ネットの文章は、そういう修行を積んできた我々から見ると、冗長だ。ただ、これははっきり言って好みの問題。どうあれ読ませたもん勝ちだろう。で、統計的には、「筋肉質の文章」をそのままネットに持ってきても、読まれない。人間だって、ほどよく贅肉もついてる方が、見た目がいいもんね。

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