中小企業が発明で儲ける
昨年4月で知財の仕事を始めて20年。次の4月には21年になります。20年の経験から、中小企業に利益をもたらす知財とはどのようなものなのか確信を持つようになりました。
でも、中小企業に利益をもたらす知財についてエッセイを書いたとしても、それは必要とする企業に届かないのではないかと感じています。
逆に「知財に関心を持つ中小企業は利益をもたらさないようなアプローチで知財を見ているのではないか」とも思うのです。これはどういうことか。
このエッセイのように「中小企業が発明で儲ける」とか「中小企業の発明」といったタイトルを付けた場合、関心を持ってこのエッセイを読み始める方と言うのはこんなことを考えたりしてませんか。
「今のままでは会社の未来は暗い。何か新しい発明をして状況を打開したい。発明で儲けるノウハウを知りたい。」
新しい発明で利益を得るというのは企業としてあるべき姿ではありますが、中小企業として利益を得るという点ではあまり効果的な選択肢と言えないと思います。商標の特徴を根底にした知的資産経営こそ中小企業が着実に利益を得る方法論だというのが私の持論です。
一方、もしこのエッセイに「中小企業が知的資産経営で儲ける」というタイトルを付けていたとしたら、このエッセイを読んで下さる方はぐっと減ったんじゃないか、やはりタイトルは「中小企業が発明で儲ける」の方が読んでいただけたりしないか、こう思うのです。
単にエッセイが読まれる読まれないの問題だけでなく、革新を求める中小企業が関心を持つのは「知的資産経営」より「発明」ではないかとも思います。
お付き合いをさせていただいた中小企業様を思い浮かべてみたとき、「知的資産経営」の話をさせていただくより「発明」の話をさせていただく方がまだ反応が良さそうな気がするのです。
身も蓋もないのですが、発明や知的資産経営に関して一番現実味のある反応は「発明・・・できたらえぇけどウチには難しいと思うねん・・・」です。その次には「発明・・・やらなアカンと思ってんねん。何か考えたら連絡するわ。」がありそうな反応です。ちなみに知的資産経営については「何それ?」となりそうです。
でも、知的資産経営とは何かにつき説明して、「知的資産経営をやりましょう!」とぶち上げるのも違っているかも知れないと思っています。やはり、ぶち上げるなら「発明をやりましょう!」の方が良いと考えます。
「知的資産経営こそ着実に利益を得る方法論だ」と考えているくせに私がこうして「発明をやりましょう!」と言おうとしているのは、前者が過去の経営の延長線に位置するものと考えたためです。過去の経営の延長線に位置するものなので、その成果も過去の経営の延長線上にある可能性が高くなります。成果を挙げる可能性は高くなりますが、そのピークは過去の経営から想定できる範囲に限定されてしまうでしょう。日本の産業を革新して活力を生じさせるには、リスクが高くても過去の経営とは一線を画す新たな発明が必要です。
もっとも、発明をして自社と日本の産業とへ革新をもたらそうと考える中小企業は少数派に違いないはずです。仮にそういう中小企業が実在していたとしても、そういう中小企業はあっと言う間に敗北して市場から消滅するか10年以上にわたり継続的に投資を呼び込める特別なノウハウを持っているので生き残るかのどちらかでしょう。
発明へ至るコストがもっと低ければ、発明をして利益を得るための方法論がもっと確立されていれば、もう少し日本国内での発明の機運は違っているはずです。発明の機運が高まるような社会なら、もっとどんどんと変化が生じているはずです。そういう変化を求める雰囲気が欲しいものです。
だから、発明へ至るコストを下げるにはどうすれば良いか、発明をするための方法論をどうやってわかり易いものにするか、そういった問題を解き明かす何かを今年学びたいと思います。