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【江戸ことば その17】汚細工(きたなざいく)の料理

≪ 2011年、Facebookへの投稿 ≫
講談社学術文庫の『江戸語の辞典』(前田勇編)は1067ページもある大著で、約3万語を収録しています。
私は4年前(注:2006年秋)に「端から端まで読み通してみよう」と一念発起し、4か月半かけて何とか通読しました。今も持ち歩いては、「江戸の暮らしが目に浮かぶ言葉」「現代語の知られざる語源」「色っぽい言葉」を楽しんでいます。
1日に1語程度、ツイッターで紹介してきた江戸語を、Facebookのノートにまとめて採録してみます。
なお、カッコ内は私の感想・コメントで、編者の前田勇さんとは関係がありません。

「汚細工(きたなざいく)の料理」

おまる、灰吹き(タバコの吸い殻をはたき入れる筒)などに、清潔な料理を盛り付け不潔なものを連想させること。
一種の偽悪趣味の遊戯。

(…いつの世も金のある人のやることは!)

文例・文化8年(1811年)
「何でもてんでんに、一番ずつ趣向して、穢細工の料理をしようと云い出すと、こりやァ妙だとか云って」
2011年01月27日 Twitter投稿

銀座で女性のヒールを脱がして、高いシャンパンを注ぎ、飲んだ(飲ませた)なんて、都市伝説のようなお話がありますね。こちらも、本当にあったことかどうかは知りませんけど、それに近いような話です。

都市伝説にせよ、こうした行動を取る人、取ってもおかしくないと思われている人には、何かが欠落してしまっている気がします。それは、靴だったりシャンパンだったりを作った人への敬意だったり、隣に座る女性を尊重する心根だったり、でしょうか。
ヒールのシャンパンでも、吉原の汚細工でも、用意するお店がいけないという考えもあるでしょうが、ばかばかしい行為におつき合いせざるを得ない、という点で被害者でもあるでしょう。

籬(まがき)を借り切った藤左衛門たちは、ひとしきり騒いだ後に、それぞれ床に就いた。

太鼓持ちの五郎兵衛は独り、上段の間に戻った。
おまるの上には、まだたくさんの刺身が残っていた。吉左衛門は嫌がる女郎衆に、汚細工の刺身をつまませて喜んでいた。
宴のあとを、
黙々と片付ける老年の太鼓持ちの口元には、心に秘したひそやかな悪態が浮き出ていた。馬鹿にしやがって、畜生め。
俺は知っている。
いくらお大尽(だいじん)でも、こんな遊び方をする野郎は、十年もすれば、半分はこの内藤新宿から消えてしまうことを。

写真は自宅の庭で、2019年5月、父の撮影。

17汚細工


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