障害を持つ息子へ やまゆり園事件4年
2016年7月26日未明、相模原市の「津久井やまゆり園」に元職員の植松聖死刑囚が侵入。「重度の障害者は生きる意味がない」と、利用者を次々に刺しました。
私はRKB毎日放送(福岡市)の記者ですが、東京で単身赴任を始めたばかりでした。ネット上では、植松に賛同する書き込みも多数ありました。
45人を殺傷したナイフは、障害を持つ私の長男にも向けられているように感じ、私は内心でうめいていました。
私はFacebookに反論を投稿しようとしましたが、「怒り」「憤り」をぶつけても、優生思想に染まった人々を喜ばせるだけだと思われました。
そこで、長男を授かってから17年の間に私が考えてきたことを、時系列順に淡々と書いてみることにしました。
それは事件発生から3日後、7月29日未明のことでした。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1226968977336009&set=a.102502019782716&type=1&theater
1000文字あまりのこの文章は、記者としての表現ではなく、プライベートな思いにすぎませんが、TBSの仲間から依頼され、『NEWS23』で全文朗読されました。その動画が1万3000を超えてシェアされたのは、優生思想に対する「カウンターの言葉」として社会から捉えられたからだと思います。
今年3月、死刑判決が確定しました。事件発生から、7月26日で丸4年。
犠牲者を悼み、noteに投稿をアップします。
私は、思うのです。
長男が、もし障害をもっていなければ。
あなたはもっと、普通の生活を送れていたかもしれないと。
私は、考えてしまうのです。
長男が、もし障害をもっていなければ。
私たちはもっと楽に暮らしていけたかもしれないと。
何度も夢を見ました。
「お父さん、朝だよ、起きてよ」
長男が私を揺り起こしに来るのです。
「ほら、障害なんてなかったろ。心配しすぎなんだよ」
夢の中で、私は妻に話しかけます。
そして目が覚めると、
いつもの通りの朝なのです。
言葉のしゃべれない長男が、騒いでいます。
何と言っているのか、私には分かりません。
ああ。
またこんな夢を見てしまった。
ああ。
ごめんね。
幼い次男は、「お兄ちゃんはしゃべれないんだよ」と言います。
いずれ「お前の兄ちゃんは馬鹿だ」と言われ、泣くんだろう。
想像すると、
私は朝食が喉を通らなくなります。
そんな朝を何度も過ごして、
突然気が付いたのです。
弟よ、お前は人にいじめられるかもしれないが、
人をいじめる人にはならないだろう。
生まれた時から、障害のある兄ちゃんがいた。
お前の人格は、
この兄ちゃんがいた環境で形作られたのだ。
お前は優しい、いい男に育つだろう。
それから、私ははたと気付いたのです。
あなたが生まれたことで、
私たち夫婦は悩み考え、
それまでとは違う人生を生きてきた。
親である私たちでさえ、
あなたが生まれなかったら、
今の私たちではないのだね。
ああ、息子よ。
誰もが、健常で生きることはできない。
誰かが、障害を持って生きていかなければならない。
なぜ、今まで気づかなかったのだろう。
私の周りにだって、
生まれる前に息絶えた子が、いたはずだ。
生まれた時から重い障害のある子が、いたはずだ。
交通事故に遭って、車いすで暮らす小学生が、
雷に遭って、寝たきりになった中学生が、
おかしなワクチン注射を受け、普通に暮らせなくなった高校生が、
嘱望されていたのに突然の病に倒れた大人が、
実は私の周りには、いたはずだ。
私は、運よく生きてきただけだった。
それは、誰かが背負ってくれたからだったのだ。
息子よ。
君は、弟の代わりに、
同級生の代わりに、
私の代わりに、
障害を持って生まれてきた。
老いて寝たきりになる人は、たくさんいる。
事故で、唐突に人生を終わる人もいる。
人生の最後は誰も動けなくなる。
誰もが、次第に障害を負いながら
生きていくのだね。
息子よ。
あなたが指し示していたのは、
私自身のことだった。
息子よ。
そのままで、いい。
それで、うちの子。
それが、うちの子。
あなたが生まれてきてくれてよかった。
私はそう思っている。
父より
※ 全文を伝えたのは、次のメディアです。
▼テレビ
・RKB毎日放送 『今日感ニュース』
・TBS
『NEWS23』『CSニュースバード』
BS-TBS『サタデードキュメント』
・ローカルニュース
宮崎放送(MRT)
山陰放送(BSS)
▼ラジオ
・RKBラジオ『櫻井浩二 インサイト』
・TBSラジオ『人権TODAY』
・文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ』
・ニッポン放送『上柳昌彦 あさぼらけ』
・J-WAVE『JAM THE WORLD』
▼テキスト
・BuzzFeed Japan
・朝日新聞
・毎日新聞
・西日本新聞
・東京新聞
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