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謎のおばあさん 赤坂の話がしたい 3
4年前の春、赤坂に来てまだ4日目くらいだった。コインランドリーの乾燥機が回っている間、奥のイスに座って待っていた。
すると、高齢の女性が入ってきて、入り口近くの洗濯機を使い始めた。かなり高齢だし、洗濯をしているのだから地元の人なのかな、と思った。
女性は奥の僕に気付き、笑顔になって、「いらっしゃいませ」と頭を下げた。あれ、お客じゃないの?
「経営者の方ですか?」と聞くと、「はい、隣で美容室もやってます」。なるほど。お店で使っているタオル類を洗濯しに来たわけだ。
「美容室は、長いんですか?」
「もう、〇〇年やっています」
確か50年とか、60年とか、そのくらいの年月をおっしゃった。いわゆる「赤坂芸者さん」の髪を結ってきたのだと言う。へー!
地元の人に、僕は聞きたいことがあった。
「赤坂は、自治会ってあるんですか?」
「町会は、あります」
そうか、お江戸は「町会」と呼ぶのか。
僕は群馬の生まれで、社会人になって住んだ九州では、常によそ者だ。だから、長崎県の島原でも、福岡市の箱崎でも、住んだ地域の古いコミュニティに飛び込んで(最初は完全なアウェイなんだけど)、その地の人の顔を覚えるようにしてきた。
箱崎で僕の住んだ区画には、自治会がなかった。なので、自治会対抗の運動会の事前準備に「お手伝いしたいんですが」と勝手に個人参加して、珍しがられた。
「僕、町会に入りたいんですけど」
すると、女性は僕の方に向き直り、目をまっすぐ見てこう言ったのだ。
「すぐに洗濯を止めてください」
(2020年5月23日 FB投稿)