![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/29255051/rectangle_large_type_2_cbb476c8e9ddeffba1c937d95a207f46.jpg?width=1200)
怖いんですけど 赤坂の話がしたい 6
当たり前だが、2人の目に浮かんでいるのは、「こいつ、誰?」という気持ちだった。
若い大柄の方は、首も腕も太くて、目はぎょろりとしている。その目で凝視されると、「うちの頭を、タカシだと?」と問い詰められているような心持ちになる。
あたふたして、とりあえず今までの経緯を説明した。
コインランドリーで高齢の女性から、お花見をやっているから氷川神社に行けと言われたこと、タカシと言えばわかると言われたこと……。
やっと要領を得たタカシさんは、「雨で、お花見は中止になって、みんな町内のお店に移動しています。後から誰か来たらいけないので、ここで待っていたんです」と説明してくれた。ホッとした。
「よかった… おばあさん、ぼけてたんじゃないかと疑ってしまいました」
「ああ、それ母です」
ちっともあたふたが止まらない。
そこでタカシさんは、大柄の男性に「カズマ、<赤べこ>まで案内してやって」と言った。カズマは「じゃ、こっちです」と野太い声で、僕を先導した。
坂を下っていく中、どうにも間が持たないので、僕は勝海舟が好きで、ゆかりの赤坂に住みたかったことを一方的に話す。何だか、媚びてるような、あまりよろしくない気分……。
カズマは「お、そうすか」とうなずくが、視線はまっすぐ、坂の下の方を向いている。こちらに愛想を返してくるわけではない。なかなか怖い。
坂の下まで来ると、カズマは突然「ちょっと寄り道します。こちらへ」と左に曲がった。寄り道? なぜ?
50メートルも進むと、カズマは角のマンションを指差した。
「ここが、勝海舟の住んでいた場所です」
おおお。
木の標識があった。
(2020年5月23日 FB投稿)