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ハロウィンの夜 赤坂の話がしたい 22

 「久しぶり! 元気だったー?」
 コロナ禍で休業していた赤坂の居酒屋「紫月」(しづき)は、6月から営業を再開した。昨日は、仁村和代ママの誕生日でもあり、プレゼントを持って、TBSの小谷和彦さんと一緒にお祝いに行った。
 料理はうまい。いい魚を仕入れ、よく焼いてくれる。コンソメスープや卵焼きの作り方を、僕が習ったのもこの店だ。
 和ちゃんは、紫派藤間流の踊り手。日本橋劇場であった藤間流のお披露目では、大きなかつら、重ね着の和装に耐えながら「現在道成寺」を舞った。常連みんなで、晴れ舞台を見に行った。
 和ちゃんとも、TBSの小谷さんとも、4年前の赤坂で最初に行ったお花見の時に出会った(この時の様子は、「赤坂の話がしたい その8」で、詳細は報告済み)。
 小谷さんは、赤坂氷川神社の山車巡行を取り仕切り、地域に深くかかわっている。都会の人には珍しく、お酒は飲まないのに、世話焼きで人との距離感が近い。
 気遣いの小谷さんは、和ちゃんの応援団を買って出ている。

 カウンターの一番奥の席は、常連のまっちゃんが常に座る席だ。赤坂で独り暮らし。カウンターの一番奥が指定席で、ほぼ毎日そこに座って飲んでいる。
 一度まっちゃんに聞いたことがある。「紫月は、こんなに安くて、大丈夫なんですかね?」
 まっちゃんは、「だから、毎日来て応援しないとね」と言っていた。スキンヘッドで怖そうに見えるが、とても優しい人なのだ。
 「紫月」の和ちゃんが買っているプードルの「ぷー」くんと、拾い猫の「ミー」ちゃんをこよなく愛している。ぷーくんにペロペロ顔をなめられて、相好を崩している。
 まっちゃんは、フリーの音声マン。テレビや映画の現場で音声を録り、放送できるレベルまで調整していく、音のプロフェッショナルだ。
 僕たち映像メディアの作るものは、「映像」と「音声」の2つで成り立っている。音がきれいに録れていなければ、映像は台無しだ。
 大ヒットドラマ『相棒』の音は、テレビも映画もすべて、まっちゃんの耳を通って創られてきた。60歳を超えて、ロケ現場に立つ。この前は北海道でのロケで、しばらく「紫月」に顔を見せなかった。
 いつもは、そんなにしゃべらないまっちゃんだが、常連と盛り上がった時は違う。僕が「紫月」に行くと、何とスキンヘッドのまっちゃんがセーラー服を着ていた。頭には真っ赤なリボン。常連の見世さんは白雪姫のコスチュームだ(こちらも立派なおじさんです)。

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 ハロウィーンの日だった。不調法な僕は、何も用意していなかった。店には、金髪のかつらがあったので、仕方なくそれをかぶってごまかした。
 まっちゃんと見世さんは、その格好で店を出て、赤坂5丁目交番に行って「お疲れさまです」とあいさつし、コンビニで買い物をして帰ってきた。みんなで大笑いだった。
 金髪がせいぜいの僕には、とても真似できない。

次話 水谷豊さんの花 赤坂の話がしたい 23

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(2020年6月3日 FB投稿)

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