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日本における水と安全 -仕事のお話
金澤幸雄です。
「水と安全はタダ」という言葉を一度は聞いたことがあるかと思います。
この言葉は、日本の住みやすさ、すばらしさを端的に表すキャッチフレーズのようなものとして広く使われてきました。これは、もともとは今から50年以上前のベストセラー「日本人とユダヤ人」の中で「日本人は安全と水を無料だと思っている」との記述で、初めて世に出た表現です。
しかし現代の日本に照らし合わせてみると、この言葉は完全に過去のものとなった感が否めません。フィリピンなどの海外を拠点とした、いわゆる「闇バイト」を使った特殊詐欺や強盗、窃盗が横行し、人を傷つけるだけでなく殺してまで金品を奪うようになり、昔のように「日本は治安がいい」などとは間違っても言えないような世の中になってしまいました。
今や、決して安くはない金額を払ってのホームセキュリティの導入は当たり前、メディアでも防犯対策特集がさかんに組まれています。
水に関しても、水道に浄水器をつけたり、ペットボトルの水を定期購入したりと、決して無料という感覚ではないでしょう。しかし、安全はともかくとして水は、世界的に見ても日本はトップクラスに恵まれている国なのです。まず水道から水が出る(c)ことも世界的に見たらすごいことなのですが、その上その水が飲める(水質も申し分ない)となるとなかなか見つかりません。こんな国は世界を見渡してもわずか10カ国ほどしかなく、特にアジアでは日本だけなのです。
このように、日本に生まれ、それまで水で一度も苦労したことのない人にとっては、現在エジプトの人々が置かれている状況は信じがたいものかもしれません。
現在エジプトは深刻な水不足に陥っています。主な原因としては、エジプトの人口増加や降水量が極端に少ないという気候の特徴、インフラの不備などがありますが、私が最も深刻だと思うのは、ナイル川の上流に位置する国々による水使用量の増加です。
エチオピアをはじめとするナイル川上流の国々は、農業や発電のためにナイル川の水を積極的に利用し始めています。特にルネッサンスダム(GERD)の建設は、ナイル川の水量に大きな影響を及ぼす可能性があります。平たく言うと、雨が降らないためナイル川に水の大部分を頼っている下流のエジプトまで水が回ってこない事態になる可能性があるということです。
私はかつて、発展途上国の子供たちが濁った水を飲んでいるのをテレビで目にし、とてもショックを受けました。以来、世界中の人々が安心して飲める水を届けたいという思いが心にずっとあります。このような危機にさらされつつあるエジプトに、今、私なりにできることを全てしたいと思い、空水機の普及に力を注いでいます。しばらくはこの仕事が私のコア業務となりそうです。
タイタンキャピタル 金澤幸雄
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