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やんなきゃならないことじゃないから、続く。→BimBomBam楽団/株式会社衣食住音
■泡とごはんと味噌汁と
エビフライとハンバーグとクリームコロッケと、ソーセージと生ハムとスパニッシュオムレツと、ごはんと味噌汁。「ワンドリンクを」と言われてスペイン産カバを頼んだ時には、こんなことになると思ってなかった。泡とごはんと味噌汁って、どの順番が正解なの?
そこにさらに、生演奏が流れ込んでくる。4つ向こうのテーブルの誕生日席みたいに座っているのは、もう、バンドのキーボード。後ろにパーカッション、ギター、ウッドベース、トランペット。やさしく狂っているような、お腹の中をつかまれるようなジプシージャズ。
いったいどうしたらいいんだ? 困惑しかない。
■「こっち見なくていいんで、食事楽しんでください」
そう言うと、トランぺッターの大山渉さんは「僕たちも、みなさんが楽しそうに食事をしている姿を見ていると、幸せな気分で演奏できるので」と付け足した。BimBomBam楽団は、食事の席で音楽を演奏する。ちゃうな、「音楽がある食事のシーン」をつくる。
そういうことをやりたいと思っていたのに、ずっとできなかった。だから大人気バンドPE'Zの解散後、大山さんはこれまでのアーティストとは違う仕事のやり方をしないといけない、と会社をつくった。株式会社衣食住音、社員はバンドメンバーというスタート。うん、やっぱり、やさしく狂ってる。
その会社の所属アーティストとしてBimBomBam楽団がデビューしたのが2016年。私は翌2017年に某イベントに一緒に登壇したご縁で知り合い、すっかり大好きになり、その後、大学生による不登校学生向けのイベントに協力してもらったりもしている。
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■「やんなきゃいけないこと」じゃないから
コロナのとき、食事も音楽も、大きく制限された。約2年半、BimBomBam楽団は活躍の場を奪われた。そのなかでよく続きましたね、と聞いたら、大山さんが「んー、やんなきゃいけないことじゃないから、やめる理由もないっていうか」と答えた。「やりたくてやってるだけだから」。
仕事ってそんなもんじゃないよ……みたいなことを言われがちだけど、この、いわば「誰からも頼まれていないことを、やりたいから、わざわざやっている」からこそ、自分に降りかかってくる不幸や負荷を、誰かに押しつけたりしないんじゃないだろうか。
■「生きる」を今に取り戻せ!
泡、ごはん、味噌汁、ジプシージャズ。「何か溢れてる」と思いつつ混沌や困惑を楽しんだ4時間、それは何かに整理されない「いま・ここにいる自分」の時間でした。食べる順番に正解なんてない。
大山さんに「これからの理想は?」と訊くと「そうですね……。いや、っていうかまだ始まってもないかもしれない」とのこと。あー、ついついビジョンから逆算しがちなのだけど、「生きる時間」って「いま・ここ」にしかないんだったな、とハッとする。
未来に置きがちな自分を今に取り戻す。食事や音楽って、感じるって、そういうことなのかもしれない。いいな、旅する会社。
明日はどこへ行くんだろう?
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https://www.youtube.com/channel/UCW569r9qzD78g2qp9-vJf7Q