浅草芸人列伝 この芸人はスゴイ!~昭和こいる師匠
【漫才協会所属。誰よりも舞台袖で他の芸人のネタを見てきた男が綴る意外な芸人のスゴイところ】
はじめて昭和こいる師匠の姿を見たのはテレビの中。
相方である昭和のいる師匠がマジメに話してる横で「そうだそうだそうだ」「はいはいはいはい」「だめだだめだだめだ」「あそうか。だめじゃないだめじゃない」「とりあえずあやまっときゃいいや」と適当なあいづちを繰り返す姿。
「なんだ!このふざけたオッサンは!」と衝撃を受けたのを覚えてます。
ところが漫才協会に入ってお会いしたこいる師匠はイメージとは真逆。全然適当じゃない。「どーでもいいどーでもいい」なんて全く言わない。こだわりの男。
漫才協会ではマイクの高さの調整は若手の芸人が担当します。ある日、こいる師匠が出番を終えて舞台袖に戻って来ると、マイク担当の若手にひとこと。
「今日のマイクの高さ、いつもより1センチ高いよ」
どうです!このこだわり。次の日には、
「今日はマイクのエコーかかり過ぎ」
音響へのこだわり、ステージへのこだわりが一流ミュージシャン、矢沢永吉レベル。永ちゃんの名言を借りるなら「オレはいいけど、こいるはどうかな?」ですよ。しびれるー。
そんな昭和こいる師匠、芸名に昭和と付いているのに、その名が知られるようになったのは平成に入ってから。
「元々はさー、歌声喫茶で司会やってたの。歌手志望だったから。そのうちその喋りが面白いって事で漫才やり始めたんだよねー」
二人で漫才をはじめたものの、あまり日の当たらない日々。気づけば芸歴も30年を過ぎていました。
「ある日演芸場にフジテレビの人が来てさー、お台場で寄席やるから出てくれって言うんだよ。聞いたらギャラが良かったから出たんだよ」
「そしたら今度はお正月の番組出てくれっていうんだけどさー、全然出番が来なくって、ずーっと待たされっぱなし。もう嫌になっちゃってさ、帰りたくなっちゃって、もうどーでもいいやって適当にやったらウケちゃったんだよ」
1999年1月1日。フジテレビ「爆笑ヒットパレード」。
昭和のいるこいる、コンビ組んで33年、昭和を超えて平成11年にブレイク!私がはじめてこいる師匠を目撃した瞬間です。「なんだ!このふざけたオッサンは!」と思った瞬間です。
そしてそのブレイクを誰よりも喜んだのが親友である青空球児師匠。
「俺もよー、そん時同じ番組出てたからフジテレビにいたんだよー。テレビぱっと見たらウケまくってるからよー。喜んじゃったよ!」
「ゲロゲーロ」のギャグで早めに売れた球児師匠。遅咲きの親友に光が当たった瞬間を自分の事のように喜んだそうです。
しかしその後相方のいる師匠が病に倒れ、今はピンで舞台に立つこいる師匠。
毎回必ず「僕らコンビ別れしたわけじゃないんですよ」と前置きして、必ず相方の話をします。やっぱ漫才やりたいんだろうなあ。
そんなこいる師匠の久々の漫才を見たのは去年。2019年の8月25日。
同じく漫才協会に所属する木曽さんちゅう。元Wコロン、今はケンメリというコンビ名で漫才をやっている木曽さんちゅうが企画した「ザイマン演芸会」という会でした。
木曽さんちゅうが色んな人と漫才をする。という企画の中で実現した昭和のいるこいる漫才の再現。「平成にブレイクした昭和のいるこいるの漫才を令和に発表する」という三つの年号が交錯する時空を超えた企画。これを見逃す手はない!私も会場にかけつけました。
目の前で繰り広げられる、昭和こいる&木曽さんちゅうの漫才。
客席で見ててふるえたよ。
テレビで見て衝撃を受けた「ふざけたおじさん」が目の前にいる!思う存分ふざけてる!
「はいはいはいはいはい」「あーそうだそうだそうだ」「しゃーないしゃーないしゃーない」「どーでもいいどーでもいい」
そして歌手を目指してた頃をほうふつとさせる歌ネタ。見ているお客さんも大満足の盛り上がり。
こいる師匠も相当楽しかったのか、舞台が終わった後「金谷くん、飲み行こーよ」と誘われました。
「どーっすかなーどーすっかなー」会場近くに居酒屋を見つけ「ここでいーやここでいーや、なっ」まだ舞台の興奮さめやらず、口調にも適当さの名残が。
二人で飲みながら話しているとお店のBGMが変わり、流れてきたのは矢沢永吉、ではなく長渕剛。一緒に歌いだすこいる師匠。「ボクさー、長渕剛好きなんだよねー」「ホントですか?」
♪やるなら今しかねえ~やるなら今しかねえ~
上野の居酒屋で聞く長渕剛の「西新宿の親父の唄」。
♪66のおやじの口癖は~やるなら今しかねえ~
それを一緒に口ずさむ76才のこいる師匠。
今でも漫才への情熱を忘れない、漫才をやりたくてしかたがない76才のおやじ。やるなら今しかねえ〜!こいる師匠は…スゴイ!
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