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俳句鑑賞 ひらくヨムヨム007

海鼠なまこってことはOKなのですか

作者:凪太なぎた あしらの俳句甲子園2025 準決勝大将戦より

 言葉遣いというのは面白いもので、全く気を許していない者同士が砕けた話し方をすることもあれば、親密なはずの恋人や夫婦が「ですます調」の丁寧語で話すこともある。掲句は前半のくだけた口調と後半の慇懃いんぎんな口調のバランスにより、「OK」をくれたであろう相手と繰り広げていた高度な心理戦が遂に終わる、その直前を描いている。
 舞台は居酒屋が相応しい。句の場面に先んじた作中主体の質問(誘い)はかなり率直なものだったが、相手の回答は言葉ではなく「海鼠」だったようだ。相手は何も言わず海鼠をそっと勧めてきたのか、海鼠を注文したのか。季語の海鼠のイメージから「OK」は明らかにセクシャルなものだが、読者は不思議と気まずくない。品があるからだ。昨日まで海底でうごめいていた海鼠がくりやで捌かれ、夜にはすっきりと小鉢に収まって供されるように。
 海鼠の肉はグロテスクながらなまめかしい。人生において、海鼠に初めて口をつけるのはいつ頃だろう。子どものころか、学生時代か、社会人になってからか。いつから海鼠を見てもなんとも思わなくなるのだろう。

 俳句のイベント当日、百数十人が居合わせた現場で、プロジェクターに大きく映し出された掲句に会場が湧いた。考えなくても理解できる句は強い。欲望も海鼠も原始的なものなのだから。ぽかんとしていた人たちは、まだ海鼠を経験したことがないのかもしれない。

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